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085 虹の王子の受けた罰


 「第一王子……」

 ポモドーロは王子の呟きに反応した。

 嗄れた低い声で唸りながらに睨む。

 「あれから……転生を繰り返す度に第二王子だ。そして、常に第一王子を殺し損なう」

 

 「それも神の力だな」

 ドラゴンは事もなく軽い調子で。

 「フム、余程に神の怒りを買ったのだろうが、しかし所詮は神の力とは運だ……確率で、それを多少の増減をさせるだけだ」

 

 「生き返る……それか」

 確率と聞いてガチャを思い出した王子。

 胸にぶら下がる神器を掴んで目を落とした。

 確率が二倍に成る神器。


 「まさにそれだな」

 少し驚いて見せて頷いたドラゴン。


 そして、もっと驚いたポモドーロ。

 「それは本物か? 何故に王子が持っている!」


 「宝物庫で見付けたのだが……」

 王子はポモドーロに目をやった。

 「隠したのは……そうなのか?」

 王子を殺そうとしていたのはポモドーロ?

 確かに城の宝物庫にも入れるだろう……元王族だ。

 いや、入れる正式な許可は出ないだろうがそれでも隠れて入ったとしてもわからないだろう。

 王の弟はそれだけでも大した権力を持つのだし……城の中を自由に歩ける。

 

 でもわからない。

 「今更、俺を殺しても王には成れんと思うが?」


 それに答えてくれたのはドラゴン。

 「転生者には確率の固定が有る……死ねばプラス100の確率補正とかだ」

 ポモドーロを指差して。

 「その転生の確率はそのままで……職業の確率を弄られたのだろうな」


 「常に第二王子……」

 それでもポモドーロとは関係無くないか?

 「でも今の第二王子は……ユダ」

 その時、ふと思う。

 「魂の二分割とは……同じ人間が二人に別れて産まれるのか?」


 「全く同じとは言えないが……明確な差は確率だろう」

 ドラゴンも頷きながら考える。

 「そうか転生のプラス補正を変える事は難しいから職業をとしても、100の数字は変えがたい……そこは無理に変えればおかしな事に成りそうだ、だから割りと簡単な職業の確率を二人にして半分にした、のか?」

 

 「違う……確率はそのままだ」

 異議を唱えたポモドーロ。

 「職業を変えられたのだ」


 「つまりは100%の確率で第二王子……」

 小首を傾げる王子。

 「それで、どうして二人するんだ?」

 

 「転生者は最初に設定されたモノが絶対だからな、だからそこに至る可能性を残した……と、そんな感じか?」


 「第二王子なら……第一王子が死ねば王に成れるか」

 

 「そして、何時かは別れた魂が一つに成れば……元通りの虹の王子が出来上がる」


 「面倒臭い……そのまま消せば良いのに」


 「罪だと言うなら、それを償った先は元に戻らねばならんだろう?」

 諭す様に王子に告げるドラゴン。

 だが、そのドラゴンも小首を傾げた。

 「もしかすると……神界の神不足は相当に深刻なのかもしれないな」


 「出来るなら罪を償って……元の神候補に戻れと、か?」

 王子はポモドーロを見る。

 ドラゴンもポモドーロを見て……頷いた。

 「でも……反省はしていない様だが?」

 

 「確かにな……二人に別れてお互いが王に近い方を助けると画策していた様だし」


 そうなのだろう。

 今なら第二王子のユダを王にするために、ポモドーロは王子を殺そうとした。

 次の転生はその逆に成るのだろう。

 今度はポモドーロが第二王子に転生して、今のユダがその時の第一王子を殺そうとする。

 そこに神の確率が絡むので……それは無限のループだ。

 「そうか……成る程、コレが王家の呪いの正体か」

 一応は、王子も蘇生確率は神器込みで最大で98%……残り2%に掛けるのだろう。

 低い確率だ。

 それに拘るのは……。

 「虹の王子の意地ってヤツか」

 いや……そうでもないか。

 王位の継承の時に第一王子が居なければ第二王子が王に成るとポモドーロは言っていた。

 つまりは殺して死ねばラッキーで、本当の狙いは王子の誘拐……幽閉。

 「虹の王子の知恵……」

 何度も繰り返して来た上での得られた悪知恵ってやつだ。

 「姑息だ」


 「そう言ってやるな、奴も悪足掻きだとは知っていても必死なのだろう?」

 姑息と聞いて笑うドラゴン。

 「虹の王子の魂の二分割と成れば、使える能力も半分なのだろうし……今は次元の技も使えんか」

 そして、少しだけ悲しそうな顔を見せた。


 「次元の技か……」

 ポモドーロは苦い顔を見せて。

 「確かに結界も魔方陣も展開は出来ないが……」

 地面を指差して。

 「しかし、ここならその結界も魔方陣も既に展開されている」


 眉が寄る王子とドラゴン。


 「つまりはここでなら、今の我でも次元の技を使えるって事だ」

 ポモドーロがそう叫んで、その手を天に向けて掲げた。

 「ドラゴンよ、喜べ……王子もろとも次元の狭間に送り込んでやる」

 掲げたその手には虹色に光る玉……ドラゴンが王子に吐き出したそれと同じモノに見える。

 今さっきドラゴンが出したのは一個、それは王子が使った。

 なのでそれはギルドに有った経験値をやり取りしていたそれだと思われる。

 

 「経験値を上げる為にか?」

 ポモドーロの仕草を考えた王子。

 わざわざそれを見せる理由もない。

 が、それをやるのだから理由が有る筈だ。


 と、マルタが声を上げた。

 「囲まれてる?」

 

 そのマルタの見る方に顔を向けた王子。

 平な広い荒れ場を囲む様に人が立っている……各々がポモドーロと同じ様に光る玉を持っていた。

 ただ少しだけ違うのはその色。

 赤色の単色が一人。

 青色が一人。

 黄色が一人。

 各々が違う色の玉を持つ者が七人で……八人目のポモドーロの玉にその光が弓成りに曲がりながらに注いでいた。

 ポモドーロの虹の光はそうして出来ている、そんな感じだ。


 「いつの間に……」

 王子はそう呟いたが……しかし、ノンビリと話をしていたのはその王子だった。

 時間稼ぎに使われていたのだ。

 ポモドーロにとってはどうでも良いであろう話にノラリクラリと付き合っていたのはこの為だったのだ。

 

 「消えて無くなれ」

 ポモドーロが叫んだ。

 同時に虹の光が王子達に降り注ぐ。


 景色がグニャリと歪み始める。

 それと同時に吐き気を催す酔いが脳を絞り始めた。

 横ではエウラリアとマルタが既に吐いている。

 王子との差は耐性の差か?

 ドラゴンは広角を上げていた。

 死ねると喜んでいるのだろうか?


 しかし王子は諦める気にはなれない。

 死にたくは無い。

 寿命ならいざ知らず、殺されて何て遣るものか。

 「ビスキュイ……」

 呻きに混じっての指示だった。

 

 ポモドーロに向かって走り出すビスキュイ。

 王子もその後に続こうとした。

 その時。

 ……剣を使え。

 脳の片隅から声がする。

 ……次元剣を使え。

 意識がドラゴンに無理矢理向けられる。

 ……ドラゴンの魂を縛る鎖をその剣で経ち切れ。

 体が乗っ取られた様に自然に動く。


 王子はドラゴンに向かって。

 「ボンナヴァン」

 と、唱える。

 

 体がドラゴンに引き寄せられる。

 その道中……空中で剣を前に真っ直ぐに突き出した。

 ほんの一瞬の事。

 だけど王子はユックリに感じる。

 時間の進みが変わったのか?

 ポモドーロのせいか?

 それともこの技を使った二回目の慣れってヤツか?


 ドンとドラゴンにからだ事にぶつかる。

 構えた剣はドラゴンの胸を刺し貫いて居た。

 体の場所的に考えればそこはドラゴンの心臓。

 そこに柄の根元まで刺さった剣が有る。

 

 刺されたドラゴン。

 体の中から光を放出し始めた。

 その光がポモドーロの放つ光を押し戻す。

 

 鬼の形相に変わったポモドーロがその手の玉に一段と力を加えた。

 虹の光が激しさを増す。

 「その剣を何故に持っている……」

 呻いたポモドーロ。


 何故も何も……宝物庫に入れば一番に目立つ所に刺さって居たが?

 王子はドラゴンに剣を刺しながらにポモドーロに振り向いた。

 

 「貴様は……何者だ?」

 目と目が有ったポモドーロが王子に向かって。


 「何者と言われても……ご存知の通りの王子なのだが」

 意味がわからんと呟いた。

 王子が余裕を見せられたのは、ドラゴンの変化だった。

 

 牙を剥いたドラゴンはポモドーロを睨み付けて。

 口に光の玉を蓄え初めて居た。

 それの意味するモノは王子にもわかっていたのだ。

 未来に王子が教えてくれたのだ。

 

 「虹の王子よ……」

 ドラゴンの声が、口を開いたままで辺りに響かせる。

 「その次元の技はすべて貴様に返せてやるぞ」


 ゴウ……っと、音を立てて光を吐き出したドラゴン。

 光はポモドーロを包み込んで……爆発した。


 王子とドラゴンとエウラリアとマルタを……同時に巻き込んでだった。

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