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008 王子……当たりクジを引く


 「では換金してきますね」

 王子の手から札を取ったお姉さん。

 「あら……珍しい」

 札を見ながら呟いた。

 「スライムに逃げられた札なんて、初めて見ました」

 札の黒い文字を読んでの事なのだろう。

 

 そんな札はある意味ではレアだ。

 子供でも討伐出来るスライムに逃げられたのだ。

 石を投げても、棒で叩いても当たりさえすればハジケて消える最弱の魔物だ。

 普通に戦えばマズ手に入らない。

 エンカウントしても、一度もダメージを与えなければ札にも成らない。

 王子はスライムが死なない程度の微妙なダメージを与えていた事に為る。

 たぶんだが……剣が折れた時にその細かな破片が飛んだとか、地面を叩いた時に小石が飛んだとかなのだろう。

 スライムも弱いのだが、砂を投げてもダメージは追わない程の強度は有る。

 でも小石を投げて当てれば倒せる、その微妙なラインは普通では難しい。

 何度も挑戦すれば出来なくは無いのだろうが……さて、高々スライムごときにそこまでする者が居るのかどうかだ。


 「それに……当たりまで付いてますね」

 札の端に赤い丸の判子が押されていた。

 当たりと文字も刻まれた丸。


 「あれ? そんなのは無かった様だけど」

 エウラリアもマルタも首を傾げた。


 「札の赤文字は、暫く待つと浮き出てくるんですよ」

 丁寧に教えてくれるお姉さん。

 大銀貨三枚が効いている様だ。

 「ではどうされます?」


 「どうとは?」


 「はい換金するなら1йですが……この当たりクジを教会の持って行くとインスタント・ダンジョンに入れます」

 横に有る小冊子を開いて見せてくれた。

 ”初心者冒険者のしおり” とあるそれ。

 「インスタント・ダンジョンはアイテムが手に入ったり、経験値やお金の時も有ります、レアですとその奥のダンジョンにも行けたりします……どうしますか?」


 「なるほど……」

 どうする? と、二人の少女を見ると。

 大きく頷いていた。

 ダンジョンに入ってみたい様だ。

 目がキラキラと輝いていた。


 「では教会に持っていきます」

 札を返して貰い、その場を離れようとすると。


 お姉さんに呼び止められて。

 「では、こちらを……初心者冒険者セットに成ります」

 出されたのは二冊の小冊子。

 一冊は先程の ”初心者冒険者のしおり” 

 もう一冊は、王都と周辺の地図と観光名所のガイドブック。

 そして……桧の棒が一本。

 それらを入れる小さなポシェット……一応は魔法具の様だ。

 適当にそれらを入れてみる。

 

 「容量は少ないですが便利ですよ……肩紐も着いてますか邪魔にも成りませんし」

 王子がどんなモノかと吟味していると。

 お姉さんが早口で説明を始める。

 その態度を見るに……ただのオマケみたいなものの様だった。

 これが大銀貨三枚……か。

 朝食の串肉の金額と比べれば……なにか高い値段の様な気もしている王子。

 今のところは価値の基準はそれしか無いのだが、やはり腑に落ちない。

 

 「ではこちらと交換なさいますか?」

 お姉さんが差し出して来たのはドラゴンのぬいぐるみだった。

 派手な色のパッチワークで小さな羽も這えている、四つ足のポッテリとした体型。

 「口の中が魔法のポケットに成っていて、入れると時間が止まるんですよ……例えば食べ掛けのアイスを入れると来年でも冷たいままで食べられます、魔法具なので手と足とで体の何処にでもくっついてくれますから両手も自由ですよ」


 「なんでドラゴン?」

 三人の疑問をマルタが聞いてくれた。


 「はい、北の山のドラゴン温泉のシンボルなのですが、それを模したモノです……そこの温泉は美容にも良い大変優れた泉質で……」

 観光案内を始めたお姉さん。

 

 「ここって冒険者ギルドだよね?」

 マルタとエウラリアが顔を見合わせた。


 「複合ギルドなので、商業ギルドの観光案内も含めての提案もさせて頂いているんですよ」

 ニコリと笑う。

 観光地で金を落とせと、そういう事なのだろう。


 「まあそれは良いとして、まさかソコには本物のドラゴンが居たりして?」

 

 「はい居ますよ、とても大きな赤いドラゴンです」

 アッサリと答えてくれた。

 「何時も源泉の近くで寝ているそうです」

 思いがけずドラゴンの居場所をゲットした三人。

 これで向かうべき方向も決まった。


 しかし、そのドラゴンのポケットには冊子も檜の棒も入らない。

 「容量は少し減りますが……可愛いでしょう?」

 

 「まあ……確かに」

 小さなポシェットよりも性能は低そうだが……ベリーナへのお土産には良さそうだ。

 「ではこっちで」

 檜の棒はそのまま手に持てば良いだろうし、冊子はエウラリアに持って貰おう。

 

 ドラゴンのぬいぐるみを抱えながら踵を返した王子。

 そこでふと思い立つ。

 あれ?

 ギルドカードは三枚だよな……一枚で大銀貨一枚の筈。

 三人で入会した。

 なら、初心者セットも三つじゃあないのか?

 首を捻りつつ窓口に振り返ると、もうソコにはお姉さんは居なかった。

 

 王子は二人の少女にたずねた。

 「コレって……欲しい?」

 小さな派手なドラゴンのぬいぐるみと桧の棒を掲げて。


 それには首を振る二人。

 「いらない」

 自分達の鞄を叩き、杖も前に出す。

 「必要無いと思う」

 まあ、ドラゴンのポケットは物が入らな過ぎる。

 手を直接に突っ込んで見ても拳三つ分の容量だ。

 見た目重視の観光土産なのだろう。

 旅には全く、役に立たなさそうだ。

  



 ギルドを出て噴水の向かいの教会を目指す。

 今度は迷う事も無い、遠目でも見ればそれともわかるからだ。

 

 歩いていた三人。

 ふと立ち止まった王子。

 目線は数人の子供達の手元。

 

 「あれはなんだろう? 良い匂いがするが」


 先を歩く二人の少女も立ち止まる。

 「さあ?」


 子供達は串に刺したモノを美味しそうにかじりついていた。

 見た目は、さっきの肉の串とは違うそれ。

 王子は意を決して聞いて見ることにする。

 相手が子供なのがその勇気をくれたのだ。

 「ねえ、それはなんて食べ物?」

 子供の手のそれは、きつね色に焼かれたイカそのまんまの形をしていたのだが……王子も二人少女も、一応は良いところの子。

 イカのそのまんまの姿が食卓に上がる事は無い。

 食べる時は、綺麗に調理されて飾りつけられたモノなのでわからなかったのだ。


 王子に声を掛けられた子供は。

 「ソライカ」

 そして指を差す。

 その方向には屋台があった。

 

 王子と娘二人は指されて方に目をやった。

 大きな看板と煙が上げられている。

 看板には ”空イカ (風船イカ)” と書かれ、イカのキャラクターがイカの串を持っている絵も描かれていた。


 「美味しいの?」

 マルタが少し屈んで、子供達の目線に成りたずねると。

 子供達は全員で頷いた。


 「ほう……買っていくか?」

 とても興味のわいた王子。


 「でも、さっき食べましたよね?」

 エウラリアは自分の腹をさすって。


 「ウーン……私も入らないかなぁ」

 マルタも食べたそうな顔をしているが、やはり腹と相談して無理だと結論付けた様だ。


 「なに、買うだけ買って後で食べれば良い」

 王子は貰ったぬいぐるみの口に、握り拳を入れたり出したりしながら。

 「三本くらいな入りそうだぞ?」

 

 それを見たエウラリアは。

 「なるほど……一度、実験をしてみるのも良いかもですね」

 ドラゴンのぬいぐるみのポケット、時間が止まるってやつだ。

 容量的には、旅の役には立ちそうにないが……チョッとしたオヤツの収納には良さそうだと思ったのだろう。


 「じゃあ買ってくるよ、ココで待ってて」

 マルタが走って行った。

 もう、屋台で買うだけならそんなにドキドキもしないのだろう。

 いや、ドキドキよりも興味の方が勝っただけなのかも知れないが。

 

 マルタは屋台の親父と何やら楽しそうに話。

 硬貨を手の中から選ばせて渡して、代わりにソライカ串を三本ゲットしていた。

 その姿に王子はアレ? と思う。

 マルタとイカ串?

 少し考えた王子……。

 「たぶん大丈夫なのだろう」

 ぼそりと呟く。

 駄目なら本人も気付く筈だ。

 差し出されたイカ串を受け取った王子はドラゴンのぬいぐるみの口にそれを突っ込んだ。


 ドラゴンのぬいぐるみの口に突っ込まれた三本の串。

 微妙に入り切らない串の持ち手の部分がニョキッとはみ出ていたが、まあそれでも本体は中に有るのだから大丈夫だろうと、三人は笑いながら歩く。

 「じゃあ、教会に行こうか」

 後で食べようととても楽しみにしながらに、目立つ教会を指差した。





 わかりやすい教会に入った三人。

 そこは、中もわかりやすい程に教会だった。

 高い天井にステンドグラス。

 固定の長椅子が並べられて、正面には教壇。

 その手前には神父が一人立っていた。

 その他には誰も居ない静かな場所だ。

 

 どうすれば良いのかもわからないが、人が一人しか居ないのだから、訊ねるしか無いだろうと、王子は真ん中を進む。

 神父の前に立つと。

 

 「我が教会にどんなご用かな?」

 

 「インスタント・ダンジョンに入れると聞いたのですが……」

 王子はスライムの当たり付きの札を見せた。


 「さすれば、教会に大銀貨一枚のご寄付をよろしいですかな?」

 ここでも金を要求された王子。

 マルタを見る。

 どこもかしこも金が必要な様だ。

 札と金を纏めて差し出す王子。 


 その札と大銀貨を受け取った神父。

 「では、神の前に祈りなさい」

 ファーファファファァァファファ……。

 やっぱり音楽が流れるが、もう王子もその出所を探す事もしない。


 そして、いきなり暗転。

 次に光が射して……。

 見知らぬ場所に立っていた。

 「何処ここ」

 マルタが驚いている。

 何も無い洞窟の一部屋の様だがうっすらと光は差している。

 その光源は何処からかはわからない。

 だが、洞窟なのに光が有るのは、それだけで普通では無いとわかる。

 進むべき道は目の前にポッカリと空いた穴だけ。

 その穴は王子の持つ檜の棒をたったままで振り回しても問題の無いサイズで、地面は平で歩き易そうだった。

 

 「ここがダンジョンか……」

 さてどうすると二人を見た王子。


 「取り敢えず進むしか無いよね」

 マルタはワクワクしはじめた様だ、それを隠さない。

 

 「待って」

 エウラリアがギルドで手に入れたばかりの ”初心者冒険者のしおり” を、ペラペラとめくり、そんなマルタを止める。

 「ええっと……教会から行けるダンジョンは、四種類が在るみたい」

 ペラリと次のページをめくり。

 「経験値のダンジョンとお金のダンジョンにアイテムのダンジョン……そして、特殊なダンジョンだって……」


 「ここはそのうちのどれだろう?」 


 「見分け方は……一匹目の魔物を倒した時にわかるみたい」


 「経験値が余分に入れば、そのまま経験値のダンジョンなのだな?」


 「そうです、昨日のスライムみたいにお札に当てる光の玉を残せばお金のダンジョン、何も残さなければ何処かに宝箱が有ってアイテムのダンジョンだって」


 「もう一つの特殊なダンジョンは?」

 マルタは杖を構えて準備に入る。


 「小さなメダルを落とすみたい……それを集めて出口で色々な事が出来るって書いてある……その色々は」

 読み進めて。

 「レアダンジョンみたいで……書いてない」


 「ギルドでも、良くわからないのかな?」

 王子は顎を押さえた。 

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