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077 暗殺者


 覆面をした三人が地下室に足を踏み入れた。

 灯りの無い薄暗い場所だ。

 先頭の男は中途半端な長さの剣を構えていた、ナイフ程の短さでは無いがさりとて普通の剣では短すぎる。

 狭い洞窟や室内で使われる、トレンチナイフといわれるモノだ。


 その男が左手で後ろの二人を誘導する。

 

 その二人も武器を持っていた。

 一人は細い捻れた釘の様な形だが、サイズは30cm程も有る。

 これもトレンチナイフなのだろうか?

 刺突剣の短い版?

 斬る為の刃は無い。

 だが、殺傷力は高そうだ。

 濡れた様にヌメヌメと光を放つそれは……毒が塗られているのだろう。

 もう一人は短い片手斧だ。

 薪を割るにしてもその大きさではあまり役には立ちそうには無い。

 しかし、人間の頭蓋骨なら簡単に割れそうだ。


 それらの武器は明らかな殺意を隠す事なく示している。

 そして狭い地下に入るのにそれらを選択した彼等は、その経験を十分に持っているのだろう。


 最初の扉の前に立つ男。

 その取っ手に手を掛ける。

 残りの二人は開く方の壁際に張り付くように立つ。

 開け放たれたソコに飛び込むのか?

 中から誰かが飛び出してくればそれを横から切り伏せる為か?

 音も立てずに動いて武器を構える。


 男の取っ手を持つ手に力が入る。

 

 ……と、地下の奥から音が聞こえて来た。

 カラン。

 金属の何かが転がる音だ。

 三人はそちらに視線を向ける。

 

 「ゴホ……ゴホッ」

 今度は咳き込む様な音。

 それは明らかに人が居る気配だ。

 

 男は取っ手から手を放して、その音の方を指差した。

 それに頷いた二人。

 地下の奥へと音を消して歩き始める。

 

 その奥の部屋は最初から扉が開いていた。

 男はそこからソッと中を覗く。

 

 部屋の中は真っ暗だが、男の目には見えた様だ。

 頷いて二人に指示を出した。

 奥の壁に倒された棚にもたれ掛かった人間……身なりから報告に有った王子と断定したのだろう。

 指示はその確認をして、そして捕まえろだった。

 

 中に足を踏み入れた二人の足元で、チャポンと音がする。

 立ち止まって音を立てたモノを確認する二人のうちの一人。

 「水だ……」

 とても小さな声だが、地下に入っての初めての声だった。

 その声の主は女のようだ。

 細い毒の刺突剣を持っていた者だった。


 「水深は足の踝の上?」

 もう一人の……こちらは男だ。

 声の質からは二十代の前半か?

 「なぜこの部屋に水が溜まっている?」


 「考えるな……」

 先頭に立って指示を出していた男だ。

 「大方……苦しくなって棚に手を掛けて倒したんだろう? その時に魔石を割ったんだ」 

 小声では有るが手や足を止めた事への叱責も含めれている……そんな低い声だ。

 

 怒られたと理解した若い男は、刺突剣の女の背中を押した。

 「急ごう」

 目線は、倒れている王子に向けて。

 

 押された女は……それでも躊躇した。

 出すべき一歩の歩幅が小さい。

 

 「大丈夫だ……ここは地下でも部屋の中だ」

 そんな女を追い越して進む若い男。

 「水で床が見えないが……穴が空いている筈もないし、トラップも仕込める時間は無い筈だ」

 

 その二人を見ていた指示を出していた男……リーダーなのだろう。

 が、二人に続いて部屋の中に進み。

 「目標は目の前だ」

 その顔は暗いのとマスクで見えないが、相当に渋い顔に成っていると思われる。

 しかし、二人が不安に思うその意味もわかっていた。

 暗い場所では足元に水は恐怖が沸いてくる、それは訓練しても中々消えないし。

 完全に消してしまって良いモノでも無い。

 洞窟等では、その見えない足元の一歩先が崖に成っている事だって有る。

 ソコに突然にハマリ込んだ処で、水は泳げるのだから大した事でも無いのだが……その下に魔物が居れば引き摺り込まれる事だって有る。

 だがここは公爵の屋敷だ。

 そんな危険な魔物が居る筈もないし、床は確りとしている。

 ハマリ込む穴など空いている筈は無いのだ。

 「急げ」


 そのリーダーの男の声が、何かの合図に成った様に背後でバタンバタンと連続で音がし始めた。

 廊下に顔を戻したリーダーは、今まで閉まっていた扉が次々に開け放たれているのが見えた。

 

 「他に誰か居るのか?」

 目を細めて暗がりを凝視する。


 「話に出ていた幽霊だろう?」

 若い男がそれに答えた。

 声はもう小声では無くて普通の音量だ。

 

 そして、その声にビクリとさせた刺突剣の女。

 幽霊というワードに驚いたのか?

 大きく成った声に驚いたのか?

 どちらかは判断できなかったが、若い男は続ける。

 「幽霊でも俺達には何も出来ない」

 女の服に貼り付いていた護符を指差して。

 「幽霊避けが有るから近付く事も無理だ」

 この三人の暗殺者達はロザリアの事も知っていた様だ。

 そしてその対策もしていた。

 

 だが、リーダーは慌てた。

 次々と開くだけの扉の意味を考えたのだ。

 それは、単純に驚かせる為だけでは無い筈だ。

 そして三人が地下に入るのに待たなければいけなかったその理由と合致する。

 「アヘンを焚いて居たのか!」

 部屋を閉じてその中でアヘンを焚いて置いて、それを幽霊が扉を開けて廊下に出すだけなら……幽霊避けの護符も意味は成さない。

 三人に近付くわけでは無いからだ。

 「息を止めろ」

 そう叫んだリーダーは、バシャバシャと水音を立てて部屋を進んだ。

 もう声を潜める理由は無くなったのだ。

 王子の連れている幽霊には既に見付かっているからだ。

 

 と……その時。

 三人の背後から小さなモノが二つ飛んで来た。

 角度を考えると、開いた対面の部屋の中から出てきたのだろうそれは、一直線に倒れている王子の所まで行った。

 

 それはプペとアンだった。

 プペは両手に一本づつの足軽蟻の槍を持ち。

 アンは先端を青白くパチパチと光らせる王笏を抱えていた。

 

 そしてそれを受け取ったのは倒れていた筈の王子。

 ひっくり返った棚の上に仁王立ちに成り、受け取った王笏を振りかぶっていた。


 「逃げろ!」

 リーダーの声が地下にこだまする。

 「罠だ!」


 それに二人の部下が反応する間も与えない王子は、その王笏を地面に振り下ろした。

 水を叩くだけに見えたそれは、チャポンと音がする前にバチリと音が弾ける。

 そして、リーダーは突然に体が動かなく成った。

 

 それは他の二人も同じだ。

 「ぐう……」

 漏れるのは声だけで、全身の筋肉が萎縮している。

 

 この水は電気を通す為に張られていたのだ。

 そして、王子の武器は電気を発生する。

 雷の王笏だ。

 それも最近に手に入れた代物だが危険だと言われていた物だと、今に為って思い出したリーダーだ。

 いや、忘れていたわけではない。

 幽霊のロザリアに気を取られて居たのだ。

 雷の王笏とはいえ所詮は打撃武器だと軽視してしまっていた。

 もちろん人形の事も報告されていたが、そちらはもっと軽く見ていた。

 所詮は小さな人形に負ける筈もないと……。


 その人形は水に弾ける電気も気にせずに三人に襲い掛かってくる。

 痺れて動けない状態では小さくても槍を持つ大きな驚異に成っていた。

 

 「護符を剥がして」

 そして、ロザリアもいつの間にかに廊下に現れている。

 見たわけではないが声はそれを示していた。

 背後からの声。


 しかし、その声を聞けたのはリーダーだけだった。

 刺突剣の女も手斧の若い男も既に水の中に倒れ伏している。

 その顔は二人共がシマリの無い顔に成っていた。

 電撃で驚いて息を吸ってしまったのだろう。

 見開いてはいるが……その虚ろな視線はアヘンにやられている顔だ。


 「くそう……」

 絞り出したリーダーの声はそれが最後に成った。


 王子が王笏の石突きで何度も床を叩いてからもう一度、先端を水に浸けたのだ。

 二度目の電撃。

 そして、人形達が護符ごと槍を突き刺し。

 背後に鈍痛を感じた。

 最後に仕留められたのは多分……幽霊のロザリアにだ。

 何かで後頭部を殴られた。

 硬い金属の……平たいナニかだ。

 リーダーが理解出来たのはそこまでだった。

 

 バシャンと水音を立ててその場に倒れた。

 意識はもうない。

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