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075 翌朝の屋敷での出来事


 翌日。

 王子はユックリとした時間に目が覚めた。

 天涯付きのベットが部屋に入り込む光を柔らかくしてくれたせいだろう……久し振りの寝坊はとても気持ちよかった。

 

 適当にだらしなく微睡んでから、ベッドから降りる王子。

 それでも寝間着のままでソファーに体を投げ出した。

 着替える気すら起こらない。


 「そういえば……みんなはどうしたんだろう」

 最近は賑やかでない目覚めが無かったので、少し寂しくも感じたのだ。


 王子は思い腰を上げて、着替えて部屋を出る。

 隣の部屋は、エウラリアとマルタとリサが居た筈だ。

 唯一の女性と女の子はいっしょくたに部屋をあてがわれていた。

 それ以外は適当だ。

 王国騎士団とはいえ所詮は兵士達だから、階下の従者用の雑魚寝が出来る大きな部屋に押し込められている。

 屋敷もデカイし、部屋も余っているのだが……そこは線引きがキッチリとしているようだ。

 

 王子は隣の部屋のドアをノックした。

 ……返事は無い。

 「まだ寝ているのか?」

 ドア越しに声を掛けてみる。


 「……」

 うめき声だけが聞こえてきた。


 「どうした?」

 寝惚けているのか?

 エウラリアやマルタはわかるが……リサはもう少ししっかりとしていたと思ったのだが。

 よほどにベッドの寝心地が良かったのだろうか?

 「入るぞ」

 女性の寝室に入るのは少し気が引けるが、しかし今更だとも思う。

 キャンプではテントに普通に雑魚寝もしているのだ……リサとは無いけど。

 でも、リサなら問題も無いと思う。

 ゼノやガスラとは一緒にテントで寝ていたのだから。

 そんな言い訳を頭で反復しながら扉を開けた。

 

 すんなりと開く扉からソオッと中を覗いてみる。

 ベッドは二つだった。

 一つは簡易的に持ち込んだのだろうか? 天涯の無い少し小さめの物だった。

 ソコにリサが頭を抱えて唸っている。

 明らかにおかしな態度だ。

 王子は部屋の中に進んだ。

 天涯付きの大きな方のベッドでもエウラリアとマルタが唸っている。

 顔色も悪く額に汗で髪の毛が張り付いていて、獣人である二人は耳がすぼまり、尻尾は体に巻き付くように引き寄せられている。


 「どうした? 大丈夫なのか?」

 見るからに大丈夫では無かったが、そう聞かずにはいられない。

 

 しかし……返事は唸り声だけ。

 「いったい何が起こったんだ?」


 「アヘンだ……」

 後ろから突然の声が聞こえた。

 しわがれてかすれた声だ。

 王子が振り向くと、扉に体を預けたポモドーロ公爵が居た。

 「ナギは大丈夫なのか?」

 そう言う、ポモドーロ公爵も苦しそうに見える。

 

 「多少はボウっとするが……問題は無い」

 王子は素直に答えた。


 「成る程……流石に王子だ。耐性持ちなのだな」

 ポモドーロは頭を押さえつつ、部屋の中にと入ってきた。

 足元は覚束無い様でふらついている。

 「ワシも一応は第二王子だったからかな……耐性持ちなのだが、そこまでは鍛えられてはいないで流石にキツイ」

 

 それは何かの言い訳にも聞こえた王子は。

 「アヘンがどうした?」

 そう問い詰める様に公爵に詰め寄る。


 「夜中に、地下室で大量のアヘンを焚かれた様だ。屋敷中に届く程の量だ」

 荒い呼吸で、息を継ぎつつ。

 「屋敷を調べたがメイドが一人見当たらん」


 「そのメイドはどうやってアヘンを手に入れた?」

 ロザリアの報告ではアヘンはそれなり以上に高いと聞いたが、少量ならわかるが屋敷に充満させられる量だと……。

 いくら公爵の所のメイドでもそこまでの高給取りでは無いだろうと思う。

 メイド長クラスならそれも可能なのだろうか?


 「若いメイドだが……誰かに持たされたと思われる」

 苦々しい声音で答えた公爵。


 「誰かの差し金で入り込んだというわけか」

 

 「身元は確りと確認できたので安心してしまった……」

 

 公爵家の調査でも引っ掛からないって事は……やはり相手は貴族か?

 まあそうだろう。

 王子が泊まったその日に都合良く何て事は無いだろうから。

 「雇ったのは何時の事だ?」


 「もう三年は経つ筈だ」


 「なら……今回のドラゴン退治も仕込まれた罠か」

 そうなるように仕向けていなければ、ここにそのメイドを送り込む意味も無いだろうからだ。


 「いや……たまたまかもしれん」

 公爵は王子のそれに疑問を投げ掛けた。

 「最初の狙いはワシで……そこにたまたま王子が来たので都合が良いと急いで決行したとかだ」

 

 「成る程……それだとこの町で手に入り易いアヘンを使った事の理由着けにも為るか」

 アヘンは所詮はただの麻薬だ。

 それを一回だけ吸った処で誰も死にはしない。

 本当なら毒薬だろうけど……毒にしても王子も公爵も耐性持ちだ。

 王国騎士団の中にも毒の耐性を持った者もそれなりに居るだろうから、それを見越してアヘンなのか。

 確かに王子には効きが薄かったが、公爵はダウン寸前だ。

 もう少し毒耐性の低い王国騎士団も、それ以上に駄目だろうとわかる。

 そして……その先もだ。

 「そうなれば……時期にこの屋敷にも兵士が雪崩れ込んで来るのだろうな」


 「この状態なら……数人の刺客でも事は成せると考えるだろうな」

 公爵は寄り深い答えに辿り着いていた。

 「今なら、町にも動ける地方巡察隊は殆ど居ないからの」

 

 「確かに……」

 それも考えての事だったか?

 偶然が重なっての今日だったのかもしれないが。

 「屋敷に火でも付けられれば一網打尽か……」


 「それは無いだろう」

 公爵は首を振る。

 「そこまでやればもうそれはクーデターだ。王子の代わりに王に成っても誰も認めんだろう」

 そして、少し考えて。

 「例えワシが狙いでも、代わりに立った新しい領主はおかしいと噂される筈だ。そうなれば町民の少しの不安でもコントロールは出来なく成るだろうから国が出てくると予測は付く」

 唾を飲み込んだ公爵は続けた。

 「ここでは王子もワシも死んではいかんのだ……権力が欲しい奴等にしてみれば死んだ事が公に成れば、カタキと見なされるからの」

 

 「それはどういう事だ?」

 王子には今一わからない。


 「死ぬでは無くて行方不明に成れば、それなら代わりを誰かが選んでくれるだろう? 時間は掛かるが探しても見付からないとなれば……まわりもそうせざるをえんじゃろう」

 

 「自分から立てば勘繰られる……死体が有ればカタキを探される、か」

 王子も理解した。

 「行方不明なら……そのうち時間が有耶無耶にしてくれると」

 その方が不確実な様でいて、それでいて確実なのだろう。

 色々と手を回せるだけの立場の者なら、危険なのは貴族依りもその他大勢の民衆の方か。

 民衆の支持が得られない王などはただの飾りにも成らん。

 力で支配したところで、それでは国は滅びに向かうだけだ。

 そんなモノを手に入れた処で何の価値も無い筈だ。


 それだけこの国では王族は慕われて居るのだ。

 もちろんそれだけの努力を、先祖代々と受け継いでしてきたのだから。

 その苦労に報われるだけの事では有るのだが。

 それは貴族もそうだろう。

 貴族同士でも権力争いは露骨には行わない。

 確実に有る事でも、表面上は皆がニコニコとしている。

 その権力を支えてくれる民衆には、もっとニコニコとだ。

 決して裏の顔は見せないのが良い貴族だ。

 その事は民も薄々は知っているのかも知れないが、お互いが上手く利用しあっているのだろう。

 この町も、クルスーの町も……どちらも民は平和そうに暮らしている。

 平和で未来が見える社会なら、誰も文句は言わない。

 それどころかそれを壊そうとするものは敵視されるだろう。

 その象徴が王族だ。

 今の王家が必ず民を守ってくれると信じさせる事が大事なのだ。

 そして、そこにヒビは入れられないと貴族も王家も考えている。

 裏切りは許されないのだ。


 王子は大きく息を吐き出した。

 「となれば……もうじきに来るのだろうな」

 

 公爵も頷いた。

 「敵は三人か……多くても五人だ」


 「こちらは、マトモに動けるのは俺だけか」

 王子は覚悟を決めねば成らないと、唾を飲み込んだ。

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