074 ポモドーロ温泉町
食事を終えて部屋に戻った王子。
そこにはロザリアが待っていた。
公爵の大きな屋敷の二階の奥に在り、一番に豪華な一室であろうその部屋。
とはいえ、普通の貴族の屋敷だ、1つの部屋にベッドもソファーもいっしょくたに置かれて居るのに、トイレとシャワーはそこには無かった。
当たり前と言えば当たり前だが、王子にはそれがとても中途半端に感じる。
その部屋のソファーに座る王子。
二人掛けのソファーが二つ対面に並び、真ん中奥に一人掛けのソファーが置かれるソコにだった。
そして、王子から見て右側にはエウラリアとマルタが、食事を堪能して腹を擦りながらに座っている。
その対面にはリサが一人で座っているが、こちらは少し緊張気味だ。
別段、王子に緊張しているわけでも無いと思うが……もう流石に慣れただろうから。
座るソファーが豪華過ぎるのかも知れない。
王子に即される迄は、座る意思も見せずにズッと立って居ようとしていたからだ。
それが、あまりに鬱陶しいので座らせたのだが……今度は借りて来た猫の様にソファーに浅くチョコンと固まって居る。
見上げる事は無くなったが、目に付くのは余り変わらなかった。
「で……どうだった?」
王子はリサは無視する事にして、ロザリアに問う。
手だけのロザリアは王子の前に……たぶん立っている? そんな位置に居て。
「この町は、昼と夜が全く別の顔を持っている様です」
そう答える。
「夕方を過ぎれば……ナギ王子も」
手の向きが少し動く……エウラリアとマルタを見たのだろうか? 顔が見えないので良くはわからないのだが、多分そうなのだろう。
「お嬢様方達も町には出歩かない方が宜しいかと思います」
「危ないのか?」
「そうですね……」
少し考えた素振りか? 左手が横に右手が縦に変わる。
顔が在ればその頬に右手を当てた……そんな感じか?
「危ないという依りも、余り似つかわしく無いと思います」
「町の雰囲気……風俗の話か」
この場合の風俗とは、大人の夜の店では無くて町の生活風景の事だが……そっちの風俗もあながち遠くは無い様にも思える。
町の色がピンク色に染まるのだろう。
「そうですね……町を歩く男供は皆が酔って居ますし、女達は自分を高く売ろうと躍起に成っています」
「酔うとは……酒か?」
アヘンの話も有るのだ……そちらかも知れないと考えた王子。
「どちらもです」
「そうか」
ポモドーロ公爵はアヘンを管理しているとは言ったが、市中では普通に手に入るのか。
まあ、そうでなければ金には成らんか。
そして、昼と夜をハッキリと別けて。夜の無法を昼にリセットさせるとそんな事なのだろう。
「出歩く住民も昼と夜では別人か?」
「夜は少しお金が掛かるようですから……貴族か小金を稼いだ商人や冒険者達ばかりですね」
「女を買う金か……」
王子も顎に手を当てた。
「それとアヘンが高い様です」
温泉街の観光地でも有るのだ、アヘンはその観光資源って事か。
そして、高い値段は……普通の店や住民には手を出し難くするためか。
成る程そうすれば……皆、夜は引き籠って出歩かないのだろう。
有る意味健全でも有る。
夜は家族揃って家に居るものだ。
「町の様子はわかった」
もう少し詳しい話は、明日に成ればゼノとガスラに聞けるだろう。
その二人は今、この場に居ないのだ。
調査と名目を着けて町に出ている筈だ。
多少のハメは外しても構わないとも思う。
たまには息抜きも必要だろうから……色々と抜いて貰うのが良いだろう。
「でだ……」
王子はロザリアに今一度向き直り。
「俺達を地方巡察隊に売った奴等の目星は?」
こちらの方が重要だ。
町の事は公爵に任せれば良い。
ここは公爵の町なのだ好きにするだろうし、それは構わない。
住人達が住み難いと感じれば、勝手に出ていって町自体が潰れて無くなるだろうが……今はそれも無さそうだ。
昼の町はそれなり以上に良い町に成っているのかもしれない。
その辺りは公爵も気を付けて居るのだろう。
自分の領地なのだから。
「話を持ち込んだのは旅の冒険者の様ですが……その冒険者も何処かの噂で聞いた程度の様です」
「売った奴も良くわかっていないのか……」
「はい、夜の町でアヘンが安く手に入るかも知れないと噂で聞いたと、それが発端のようです」
「成る程……本命の犯人は、その噂話にキーに為る言葉を付け足していったのか」
元が噂話だ、ソコに多少の話を盛った処で最初に誰が言い出したかはわからない筈だ。
「でも、所詮は噂話でしょう?」
エウラリアが話を聞いていたようだ。
「その夜の町にも地方巡察隊の警官達も繰り出すのです」
「調査の名目で遊びに出るのか……」
ゼノやガスラと同じだな。
「で、噂であっても……金に成る話、もしくは自分の成績に成る話なら一応は確かめてみると、か」
「そうですね、確かめるだけなら少人数でも出来ますし」
肩を竦めた様に手を上下に振るロザリア。
「調査の名目ですから、そこで得られた情報が真実なら夜の町に出る口実も確かに出来ます」
「調査費は……公費でか」
女や薬の話だが、それを出すのは公爵だから文句も無い。
むろん公爵もそれはわかっての事だろう。
無法に成り易い夜の町に警官が紛れれば、暴れる者も気を付けると……そんな寸法か?
必要経費としてはどうなんだろうか?
高過ぎるとも思うが、それ以上にアヘンが儲かるのか。
いや、女も儲かりそうだ。
そこも公爵に管理されているのだろう。
「じゃあ駄目ね」
エウラリアは早々に諦めて、マルタとの話に戻った。
確かにその通りだ。
所詮は噂話で、その出所も曖昧。
尾ひれは誰が付けたのかもわからない。
それを突き止めるのも不可能だろう。
みんながみんな、酒かアヘンか女に酔って居るのだ。
元が曖昧な話を突き詰めて考えるのなんて土台無理だし、聞いてもマトモに答えないだろう。
「そうだな……犯人探しは諦めて公爵に任せるか」
それしか遣りようがない。
だが、それが王子に取っては最善の方法でも有る。
敵の狙いは王子の筈だ、その狙う理由は……王子を王にさせない為。
それ以外に王子を狙う意味は無い。
って事は……あと四年を生き延びればそれで王子の勝ちが確定するのだ。
ワザワザ火中の栗を拾いに出向く理由もない。
降り掛かる火の粉を振り払うだけでも十分な痛手を敵に与える事が出来る。
限り有る時間を無駄にさせたという痛手だ。
王子にしても敵にしても、四年後というゴールは見えているのだから。
後はそこにどういう形で辿り着くかしかない。
長い様でも短い……そんな短期決戦だ。
勝ちに拘ればそれで終わり……で、良いのだ。
「まあ、町の様子はそれで問題は無いとして」
少し声を張り上げた王子。
多分何処かで聞き耳を立てている、公爵の所のメイドか執事に聞かせるようにして。
「それよりもドラゴンだな……この町に居るのだろう?」
町の事には一切の口出しはしないと示してから、王子の本来の目的を伝える為だ。
「町の中では無くて……温泉の源泉の在る北の山の中腹に居るようです」
「まだ……山を登るのか」
ゲンナリとした王子。
「で、話は通じそうか?」
戦って勝てる見込みは微塵もないとは理解している。
「人語は解すそうですが……話してどうかはわかりません」
「うーん」
顎先を指で叩く王子。
「会ってみなければ……か」
会った処でどう説得するかも問題だ。
国の為に死んでくれと頼んで聞いてくれる筈もないし。
「はてさて……どうしたモノか……」
「何処かでレベル上げする?」
マルタが口を挟んだ。
聞いてない風でも聞き耳を立てて居たのだろう。
「それでは何時まで掛かるやら……だな」
大きく溜め息を吐いた王子だった。
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