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073 地方巡察隊の裁き


 ポモドーロ公爵に睨まれて、俯いたままで動けなく為っている地方巡察隊の署長。

 その署長に変わって言い訳を始めたのは、縛り上げられていた若い男だった。

 役職の無い下ッパは今のこの緊張の理由がわかっていなかったのだ。

 その軽い口を目一杯に拡げて訴える。


 「タレコミが有ったんです」

 声を張り上げて縛られる理由がないと主張する若い男。

 「例の麻薬を子供を使って運び込もうとしていると……です」

 その場の全員の視線を浴びて、最後はシドロモドロに為る男。

 

 「麻薬?」

 そういえば、最初に会った時もそんな事を言っていたな。

 ……薬がどうのこうのと。

 

 「アヘンだ……」

 眉をしかめて考え出した王子を見てか、ポモドーロ公爵が教えてくれる。


 「違法なのか?」

 いくつかの薬には法の縛りが有るのは王子も知っていた。

 その中にアヘンという言葉は有ったかどうかは知らない。

 法の専門家でも無い王子はそこまで詳しい知識は無い。

 

 「違法では無いが……好ましくは無い」

 ポモドーロ公爵は渋い顔を見せる。

 「依存症が有り、人を怠惰にさせる薬だ」


 「なら……違法にすれば良いのに」

 

 「痛み止めとしては有用なのだ……それを必要としている者も居る」

 公爵は苦虫を噛み潰し。

 「それを医療としてでは無くて……快楽で使う者が後を絶たんのだ」

 

 「フム……違法でも無いのに子供を使って運び込む」

 王子は公爵を見て、若い男を見た。

 「そして、それを取り締まる……」


 「この町は温泉街だ」

 公爵は王子にもわかり良い様にと話をしてくれる様だ。

 「療養地でも在るし、貴族の保養地としても使われるのだが……一部の貴族がよからぬことにその別荘を使い始めた。まあ娼婦奴隷をアヘン浸けにして遊んでいる迄は良いのだが、若い貴族やその子弟が自分の快楽の為に使い始めたのだ。未来の貴族が脳ミソを腐らせる様な事を……ここでされてはたまらん」

 語尾が上がる公爵。

 「だから、私の権限でアヘンを管理する事にしたのだ」


 「成る程……」

 娼婦奴隷はどうなっても良いのか……奴隷なのだから王国民では無いのは確かだが、一応は人なのだがな。

 しかし、公爵にとってはそれはどうでも良い事らしい。

 それよりも外聞が先か、貴族が勝手に腐るのは構わないが……それは他所でやってくれと、そんな感じかな?

 ついでにアヘンを管理すれば、その金も入ってくる……。

 私欲だけだな。

 大方、王国がアヘンを違法にしないのは公爵の圧力も有るのかも知れないのでは? とまで思ってしまった王子だ。


 「そして……その通報通りに私達が来たと……」

 エウラリアが何やら考え始めた。

 脇に逸れた王子の思考を戻す作用も有ったその一言。

 「もしかして……仕組まれた?」


 「そう言えばクルスーの町で嫌な噂を良く耳にした」

 リサも何やら考え込んだ。

 

 「ああ、地方巡察隊の悪事や……それを取り締まる王国騎士団が不甲斐ないとそんな噂ばかり聞かされたな」

 ガスラも唸り始める。


 「ふーん……そこから御膳立てか」

 王子は自分の顎を摘まんで空を見る。

 「狙ったのは……どっちだ?」


 「ワシか?」

 ポモドーロ公爵がそれに答えた。

 「それともワシに罪を着せて……王子か?」


 「て……事は両方か」

 あわよくばで、駄目でもどちらか片方って感じか?

 いや、王子の側に王国騎士団が居たから生き延びただけで、ゼノ達三人だけでは王子を守りきるのは不可能だった事だろう。

 最初の七人は何とか為っても……その後の大軍は流石にどうだったか。

 しかしそれもリサが何時もの鎧を着ていれば王国騎士団だとスグにわかるだろうから、敵も大して期待もしていない嫌がらせ程度だったのかもしれない。

 たまたま王子達の運が悪くて、大立ち回りに為っただけの事。

 それでも意味を持たせるとすれば……。

 「警告か……」

 成る程そうなら、それは王子にもポモドーロ公爵にもハッキリと伝わった。

 そして王子を狙う意味は次期国王なのは明白として……ポモドーロ公爵は何だろうか?

 やはりアヘンの利権だろうか?

 それとも単純に王子派閥だと捉えられたか?

 

 王子は公爵を見た。

 公爵も王子を見る。

 どちらも同じ様な事を考えている様だ。


 そして、少しの沈黙の後に口を開いたのは公爵だった。

 「王子に剣を向けた事は謝罪する」

 深々と頭を下げる公爵。

 「だが、少し真相を調べたい。なので、この者等の裁きは待って貰えないだろうか?」

 そこには自分の罪は端から無いと、そんな意味も込められていた。

 まあ、無いのだろう……。

 登場人物は王子達と地方巡察隊と王国騎士団だけだ。そして、それらが誰かに踊らされて居ただけだから……そこに公爵の名前は無い。


 しかし、それを素直には頷けない王子でも有る。

 剣を向けられたのも事実でも有るのだ。

 例え勘違いでも……その間違いで殺されてはたまったものではない。

 

 そんな王子に続けた公爵。

 「王子もそんな成りでは勘違いされても当然だとも思うが」

 責任の一端は王子にも有ると言いたげだ。


 だが、それも確かにとも思う。

 やはり最初から王子であると主張していなかったのは不味かった様だ。

 それは要らぬ揉め事を産んでしまうだけでも有った。

 だが……。

 「成りではそうだが……」

 王子は縛られた男達に視線を投げて。

 「一般の旅行者になら有無を言わさず剣を向けても良いとは成らないと思うが?」

 それはまた別の罪な気もした。


 「……そうかも知れないが、一般人なら警官の職務質問に騒ぎ立てる事も無いとは思うが?」

 王子達の行動を予測しての答えだろうけど……それは的外れでもない。

 実際に暴れたのだから。

 

 「確かに、何様だと食って掛かった気もするな……」

 認めるしかない王子。


 「それは……普通ならせんと思うぞ?」

 どうにか有耶無耶にしたいと、そんな思慮が見える公爵。


 考えた……フリをした王子。

 「わかった……事の顛末は四年後に聞こう」

 今現在の王子の裁き依りも、王に成ってからの方が良い気もしたのだ。

 ここで王子の強権を発動させても、隠れた敵の姿は洗い出せないだろう。

 ただ踊らされた地方巡察隊の数人の首を斬るだけだ。

 だから、素直に頷いた。


 それを見た公爵は、満面の造り笑いで。

 「ここまでの長旅、大変だったであろう」

 王子の気が変わる前にと早口で捲し立てる様に。

 「久し振りに見た顔じゃ……是非に暫く屋敷に泊まっていってくれ」

 そう告げて、有無を言わさずに王子の手を引いた。

 

 それを見た執事も自分の仕事を思い出したようだ。

 「お連れの方達もどうぞ此方へ」

 エウラリアやマルタにゼノ達と王国騎士団の全員を屋敷に招き入れる仕草を取って見せた。

 

 


 その日の夕食。

 ポモドーロ公爵の屋敷の食堂で、一番の上座を譲られた王子は目の前のご馳走に舌鼓を打っていた。

 漏れ無く全てにトマトが使われていたのだが、旨いから許す。


 しかし、トマトには依存症でも有るのだろうか?

 王子は左隣に座って食事をしていた公爵を見た。

 昔からトマトが好きだとは思っていたが……ここまでとは。

 

 「ナギ王子……何か有りましたかな?」

 その王子の視線に気付いた公爵がニコリと。

 お気に召しませんか? とは聞かないらしい。

 トマトは絶対なのだろう。

 気に入らない筈がないと確信でも有るのだろうか?


 「いや昼間の話……アヘンにもキツイ依存性有るらしいと、ね」

 それを教えてくれたのはロザリアだった。

 日も落ち掛けた夕暮れ。

 公爵にも用意された豪華な一室で出てきたロザリア。

 流石に長年生きて……いや、死んで幽霊となって色々と見てきただけの事は有る。

 王子が尋ねる依りも前に、アヘンに付いても詳しく教授してくれた。

 その話は、部屋を出る頃には半分も忘れたが。

 けしの実がどうの……。

 生アヘンの採取がどうの……。

 錬金術師が居ればモルヒネが精製できるとか……だ。

 そのロザリアの授業は延々と続きそうだったので、王子は慌てて仕事を頼む事にした。

 町の調査だ。

 公爵が王子を屋敷に招いたのは、町の様子を見られたくないとも考えたのでは無いかと勘繰ったのだ。

 だから実際はどうなのかとロザリアに見てこさせる事にした。


 まあ……取り越し苦労ならそれでも良いし。

 何かが出てきてもそれが王子に直接関係が無いなら、首を突っ込む積もりもない。

 ただ少し気になっただけの事だ。


 「アヘンの事は……興味を持たれるのは止めた方が良いと思いますよ」

 公爵は真っ赤に熟した焼きトマトを口に頬張りながら。

 

 肩を竦めた王子。

 「肝に命じて置く事にする」

 公爵のその注意が、王子の身を案じてか……それとも自身の保身の為かは確かめはしまい。

 そのどちらであっても。

 トマトの大叔父には、王子の味方を演じ続けて欲しいからだ。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。

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