071 いつの間にかにポモドーロの町の中
王国騎士団は、その圧倒的な能力差を見せ付けた。
街道には死屍累々の地方巡察隊が転がっている……いや、ゴメン死んでは居なかった。
呻き声を上げて動けなくなっているだけ。
一応は王子の指示を守ってくれている様だ。
それでも見るに耐えない程の負傷兵はゴロゴロと居た。
変な方向に曲がった肢体とか……内蔵をヤられたのか血を吐く者もだ。
王子はエウラリアにソッと耳打ちをした。
「あんまり酷い奴には……こそっとヒールを掛けてやって」
もう一度、地面に目を戻して。
「全快に治しちゃあ駄目だぞ……微妙に動けない位での治療で」
「そんな難しい注文……無理よ」
エウラリアは口許を押さえて考え込んだ。
「大丈夫よ……どうせ完全回復なんて無理でしょう? 適当でも丁度いいんじゃない?」
横からマルタが小声で指摘した。
それを聞いたエウラリアはマルタを睨む。
が、睨まれた方のマルタは笑っていた。
「治しすぎたらアンに頼んで、脚をツラせたら?」
王子の横に居た赤い服を着た人形のアンを指差した。
「……何でもいいから、死なせない様にな」
魔物じゃあ無いんだ、殺しちゃあいかん。
それに、一応は公僕の筈だ。
罪を償うのは裁きの後だ。
どうにもエウラリアやマルタの態度に温度差を感じる王子だが。
しかし、王国騎士団やゼノ達よりはマシかも知れない。
これだけ地面に転がしても、いまだにバッタバッタと斬り倒している。
いや……斬っては居ないのだが、確かに剣の腹での打撃なのだけど、それでも一撃に近い感じで打ち倒している。
「いったい、何人居るのかしら?」
ブツブツと文句を言いながらも治療を始めたエウラリアの愚痴が聞こえた。
実際にそうだ。
最初は二・三十人だった筈。
今は地面に転がっている者だけでも四・五十人は居そうだ。
「何処から沸いて出ている?」
王子は騎士団の先頭に目をやると、その先の街道から走って来る一団が見えた。
鉄の鎧を着ている。
「成る程……町からの増援か」
際限が無いな……。
このまま出てくる奴を全部倒すと、町の警官の全てを倒す事にも成りかねん。
それなら、奴等の町……地方巡察隊の本部の一番偉い奴を捕まえた方が早そうだ。
その方が……被害も少ない筈。
……たぶん。
王子は大きく息を吸い込み……怒鳴る。
「このまま町に進むぞ! 襲ってく奴等は全員薙ぎ払え……」
もちろん殺すなとは続くのだが、誰もそれは聞いてくれていないようにも思える。
今までと変化が無い……半殺しだ。
最初の命令どうりなのだから……それでも良いのか。
半分、諦めた王子は前を向いた。
それとほぼ同時に、騎士団は力強い前進を開始した。
初めはユックリと確実にだが。
次第にその速度は増していき、しまいには駆け足の様な速さに成っていく。
その上がりきったスピードは中々に速い。
王子も駆け足で着いて行くのだが、何もしていない筈なのに息が上がりそうだ。
エウラリアやマルタは、既に遅れかけていた。
もちろん、エウラリアは回復は諦めての事だが、それでも追い付かない様だ。
ハイヒールは素早く動ける魔法具の筈なのにだ。
「王国騎士団ってのは、どんだけ鍛えているんだ」
喘ぐ王子の呟きは声には成らない。
足元に転がった地方巡察隊を踏まない様にハードル競技さながらに飛んで行く。
それがまた、心臓や肺を苛めて来る様だ。
成る程……リサが脳筋に成る筈だ。
こんな事が出来る様に成る訓練を常日頃しているのだろう。
コレが日常なら、絶対に脳に酸素が足りていない筈だ。
そんな愚痴が頭の中で堂々巡りをしていると、いきなり景色が変わった。
町の中に突入したようだ。
そんなに長い時間が立ったのか?
どれくらいの時間を走ったのかもわからない。
わかるわけもない、王子の脳は酸素だけを求めて考える事を拒否していたからだ。
だけど、冷静に考えればわかる事もある。
逃げた一人が町に戻り、そして増援を呼ぶ。
その時間はそれなりに有ったようにも思うが、来いと言われてスグに出られるわけもない、いくら訓練されていてもそれ成りの準備も必要だろう。
って事は、最初の藪の時点で既に町に近かったのだ。
まあ、そんな事に王子が気付く事はこの先も無いのだし、どうでも良いと言えばどうでも良い事だけど。
そんな状態の王子が町に入った事に気付けたのは。
とても簡単。
回りの町民達が騒ぎ悲鳴を上げているからだった。
流石にその声は王子の耳にも届いた。
「敵の本部はまだか……」
町に入って、少しスピードが落ちたのが幸いしてか……ほんの少しの声が出せた。
何故にスピードが落ちたのかはわからない。
右や左に曲がるので減速をせざるを得なかったのか?
それとも、建物が壁に成り走り難く成ったのか?
単純に町の中に邪魔なモノが増えたのか?
……それかも知れない、町民も有る意味邪魔な障害物だ。
まさか……民間人を殴ってはいないだろうな?
余裕が出てきた事で、新たに心配事が沸いて出る。
王子は足元に転がる者の中から、鉄の鎧を着た者以外を探してみたが見付けられない事でホッとする。
騎士団も無闇に暴れている様にも見えて、そこまで見境が無いわけでは無いようだ。
と、急に手を掴まれて、一つの建物に引っ張り込まれた王子。
握られた手の先にはリサが居た。
「一気に上まで登れ! 標的は最上階だ!」
叫んで剣を振りかざす。
そうか、ここが地方巡察隊の本部か……。
もうゴールは近い。
「もう歩けますぅ」
「おろしてぇ」
妙な声が耳に入ると後ろを向けば、エウラリアとマルタがゼノとガスラに小脇に抱えられていた。
走る速度に着いて来れずに担ぎ上げられた様だ。
随分と情けない声だが、その姿にはマッチして居た。
それが、建物に入った事によってか、下ろされる二人。
足元が覚束無いのかフラフラとしていた。
「エウラリアは……町に入る度に、誰かに担がれているな」
王子の素朴な感想に、キッと睨みを効かせたエウラリアだった。
マルタはそれを聞いて、見て、笑っている。
建物の中に入れば、もう走らなくても良いと思うと笑える余裕も出てきた王子だ。
だが、それも束の間だった。
「居たぞ!」
「捕らえた!」
建物の上の方から叫びが聞こえると、リサは王子の手を引き走り出す。
エウラリアとマルタの小さな悲鳴も聞こえるので、二人も道ずれらしい。
階段を駆け上がるリサ。
転げない様に着いて行くのが精一杯の王子。
そして、最上階の一番に奥の部屋に雪崩れ込んだ。
荒れる息を整える為に膝に両手を着いて、新鮮な空気を貪る王子の前に。
剣を突き付けられた、一人のデブでハゲの親父が転がされた。
「何をする」
精一杯の虚勢だろうが、その声には震えが交じる。
「何故に王国騎士団が我々を攻撃するんだ、国と地方で違いは有るが同じ公僕だろうが……」
喘ぐ息を整えて、その者を見れば……少しコマシな服に見える。
コイツがここの署長か?
「お前達が先に剣を向けてきたからだ」
そう叫んだのはリサだ、何か警察に怨みでも有るのだろうか?
どうもリサの言動は、少し片寄って聞こえる。
今にして思えば、最初から偏見で話していたような……。
「我々が王国騎士団に剣を向けるわけは無いだろうが」
騎士団の銀色の鎧は一目見ればそれとわかると言いたい様だ。
「騎士団にでは無い、我々にだ」
リサは王子を指差した。
どうにか頭を上げる迄回復した王子は、それでも息荒く背一杯の姿勢で署長を見下ろした。
横にはエウラリアとマルタも立っている。
立たされた……かな?
どちらでも良いが、何時もの立ち位置だ。
そのマルタを指差した署長。
「その首飾りは……王族? 姫か?」
言われたマルタはキョトンとしていた。
「首飾り?」
首から下げている、王子から渡されたチャッチイ神器を指でブラ下げながら。
「いや……姫はもっと幼かった筈」
少し考えて。
「貴様等は何者……だ……」
と、そう言葉にしながら泳いだ目は王子に止まった。
「ナード・ギーグ・ナッローッパ……職業は王子だが、何か?」
自分で王子と名乗るのは抵抗が有る。
ここはリサかガスラかが紹介する場面では? とは思ったが、もう自分で名乗った方が早そうだ。
何時まで茶番を続ける積もりなのだろうか、この三人は。
今、明らかに王子として扱っているであろうに……。
顔を真っ赤にした王子はリサ達を睨み付けたくなる衝動をどうにか抑えた。
王子の顔が赤いのは怒ってではない……自分で名乗ったのが余りにも恥ずかしかったからだ。
確かに王子なのだが、誰かもわかっていない者にさも有名人だと自分で言っている様なのだぞ。
売れないアイドルが、自分は有名人だなのになぜわからないのと叫んでいる様なモノだ。
そんなの普通の精神では出来ることじゃあない。
さて、そんな辱しめを受けた王子を目の当たりのして、口をパクパクと肥り過ぎの金魚の様に成っている署長に対して。
「ポモドーロ公爵の所に連行しろ……公爵にも聞きたい事が有る」
と、指差した王子だった。
熱だして、モチベーションを使い果たしたのを。
ff14で補充した!
少しだけど戻った気がする。
日曜日は15時間くらい寝たけど大丈夫な筈!
そうだ、今週こそは零式四層クリアーだ!!
遅く成りました。
まだまだ続きます。




