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070 茶番劇


 何も無い街道。

 景色は半分が草原で半分が剥き出しの土や岩。

 足元のタイルは綺麗に揃って敷かれていた。


 風邪も吹かずに無風のその場所で、王子達と揃いの鉄の鎧を着た集団が対峙する。

 後方からは銀色の鎧の集団が走ってこちらに向かっているのも見えた。

 唯一の動きはそれだけで、後は雲一つも動かない。

 

 そんな中で……。

 「観念するんだな」

 最初に声を上げたのは、鉄の鎧を着た集団。

 そして、その声の主は、逃がした若い男の様だった。

 ズイッと一歩前に出てく来て腰の剣を抜いて王子を指した。


 「武器を捨てて投降しろ」

 次に声を出したのは、鉄の鎧の隊長格だろうか?

 貴族紋の襷を肩から掛けている初老の男だ。

 「もうお前達に逃げ道もない」

 その隊長が指差すのは後ろから来る、銀色の集団を指差していた。

 「あれは王国騎士団だ」

 

 王子はそれを振り返り見て。

 そんな事は知っていると頷いた。

 

 「我らの応援に駆け付けて来てくれたのだ」

 余裕の顔を見せている王子達を睨んだ隊長が叫んだ。

 「貴様等は袋のネズミだ!」


 「どうも……勘違いしている様だが?」

 王子は出来る限りの笑いを作り、隊長を見返す。

 イヤらしい顔に成っていた。

 「あれは逆賊のお前達を懲らしめる為にこちらに走ってきているのだぞ」


 「何が逆賊だ」

 顔を赤色に瞬時に染めた隊長。

 「王国騎士団が犯罪者の味方等するものか!」


 「そんな当たり前の事を叫ぶな」

 隊長を王子は指を指して。

 「王国に仇なす者を王国騎士団が許す筈もないだろうが」


 話が噛み合っている様で、噛み合っていない。

 お互いは同じ事を言っているのだが……意味の対象は相手を指している。

 それに気付いたのは、王子の側ではエウラリアだけ。

 鉄の鎧の集団では、端の方に居る二・三にんか?

 全体の少数だけが小首を傾げていた。

 だがイキリ立つその殆どは、お互いに相手を睨んで疑わない。

 目の前に対峙する者は自分達の敵だ……と、だ。


 王子はリンゴの王笏擬きを構えた。

 プペとアンは二体に別れたままで先頭に出る。

 リサもゼノも剣を抜いて構えている。

 ガスラは杖のままで構えていた。

 マルタは杖を胸に抱えて少し不安げにしている。

 エウラリアは小首をかしげたままだ。


 相手の鉄の鎧の集団も皆が剣を抜いて構えていた。

 数人だけが、小首を傾げてはいたが……それらも隊長に従う様だ。


 両者は対峙したままで動かない。

 それはお互いが、走り来る銀色の援軍を信じて待っていたからだ。

 

 にらみ合いの状態で数分が経ち……銀色の鎧の胸に王国の紋章を刻み着けた軍勢が王子の背後に並んだ。

 そして、抜刀。

 もしくは槍を構えた。

 

 剣は各々が形は違うが全てが銀色に輝いている、素材は全てがミスリル製だからだ。

 片手剣に盾を持つ者も居る。

 その盾も銀色で王家の紋章がデカデカと印されていた。

 そして、槍は細く長い穂先が銀色。

 穂先が斧の様な形のモノも有る……ハルバートだ。

 それらの全員が、走って来たのに息の一つも乱れは無くに、隊列を組んでいた。


 王子は王笏を……。

 鉄の鎧の隊長は剣を……。

 両者は互いに天高く掲げて。

 「逆賊を捕らえよ!」

 「犯罪者の逮捕に協力を!」

 同時に叫んだ。


 銀色の王国騎士団は隊列を組んだままで、前進を始める。

 

 ニヤリと笑みを溢したのは。

 王子と隊長が同時。

 「観念しろ」

 そう叫んだのも同時。


 そして、王国騎士団は……王子達の。

 ……後ろから、横に並び。

 ……そのまま武器を構えたままに通り過ぎて。

 鉄の鎧の集団の前に迄、出た。


 「何をしている?」

 狼狽えたのは鉄の鎧の鎧達。

 「犯罪者を捕らえろ!」

 隊長が叫んで剣で指しているのは王子。

 

 だが、王国騎士団が剣を向けているのは明らかに鉄の鎧の集団にだった。

 その背後に立った王子は叫ぶ。

 「逆賊には本来は王命での死刑だが、残念ながらその王命を発せられるのは、まだ四年後だ。仕方無いので出来るだけ生かして捕らえよ」

 そう宣言して、王笏を鉄の鎧の集団に向けて振るった。


 「おおお!」

 王子に呼応する様に叫びを返した王国騎士団。

 同時に前進を開始した。

 

 その一子乱れぬ動きを見て、王子は思う。

 コイツ等には……俺は王子でも良いのだな。

 初めから認めて居るなら、蟻の時も……いや、それ以前に旅に出たその時から一緒に着いてくれば良いものを。

 ややこしい王命のせいなのはわかるが、どうせ王子が呼べば来る事に成るのに……と、そこまで考えて。

 ふとガスラに目線をやる。

 笛を吹いて呼んだのはガスラだ。

 その辺のややこしい判断はガスラに一任で、その王国騎士団の行動の責任もガスラが負うのだろうか?

 そう思うと、若干だがガスラの顔に渋い色も見える。

 

 「もう茶番劇はここまでだ」

 王子はガスラの横に立ち。

 「四年後に改めて、今回の事に対する王命を遡って出すから心配はするな」

 そんな事をしなくても、現王である父親に一言文句を付ければそれでも済むとも思うが、立場的にハッキリと口に出してやった方が良いのだろうと、声を掛けた。


 それを受けたガスラ。

 声には出さないが、口をモゴモゴとやっている。

 一応は……拝命致しましたとその口の動きは読めるのだが。

 それでもまだ、ハッキリとは言葉で返事が出来ない様だ。

 王はどれだけ厳しい命令をしのだろうか?

 これは帰ったら、ハッキリと怒鳴り込んでやらねば。

 家臣を混乱させるような命令は出すな! と、だ。


 まあ……そこまでヤヤコシイ命令を出さねばならん事情もわかるのだが。

 よほどに王子を狙う者が、ヤヤコシイ位地に居るのだろう……けど。

 そんなのは王都周辺だけにしとけば済む話だろうとも思う。

 ……ああ、クルスーも目線を変えれば王都周辺か、第二王子の姉が居るのだから。

 となれば、ここもそうか?

 祖父……元国王の弟が居るのだし。

 ……。

 「うわ……って事は、俺は王族に命を狙われて居たのか」

 それは薄々はわかっていたのだけど……ハッキリと目の前に提示された気分だ。

 身内に狙われるとは……本気で嫌な気分に成る。

 「へこむ話だ」

 ブツブツと声に成らない呟きを漏らしていると。

 王国騎士団は次々と鉄の鎧達を打ち倒していく。

 それはそうだろう。

 味方だと思っていた、王国騎士団が向かってくれば反撃もままならん筈だ。

 彼等は、自分達が逆賊に成った事に気が付いて居なかったのだろうか?

 

 あれ?

 王子がふと疑問に思う。

 「俺って、王子だと名乗りを上げたっけ?」

 ……あ。

 王子の頬に汗の一滴が伝う。

 

 もしかして……山賊紛いの事をしていたのは最初の七人だけとか?

 そして、目の前の鉄の鎧達は真面目な警官だとか?

 ……だとすると、不味いよな。

 王子は慌てて叫びを上げる。

 「殺すなよ! 全員逮捕だぞ」

 再度、命令を繰り返した。

 

 剣と剣の音が響き渡る今更では、止める事は無理だろう。

 このまま、押し切るしかない。

 とにかく制圧して、白州で裁きだ。

 その時に事情を聞くしかない。

 

 王子の目の前に、リサの大剣で豪快に打ち倒された鉄の鎧を着た、若い真面目そうな男が転がった。

 見た目は死んでは居ないようだが、明らかに意識は飛んでいる。

 

 思わずリサに声を掛けた王子。

 「もう少し……優しく気絶させられないか?」


 怪訝な顔をしたリサが。

 「そんな無茶な事は出来ません」

 そう叫んで返事を返す。

 そして、また一人を打ち倒す。

 「逆賊に加減等は不要」

 目一杯の力で、大剣を撃ち込んでいた。


 周りを見れば。

 王子とマルタとエウラリアに人形達意外は鬼気迫る表情だ。

 明らかに本気で斬り合いをしている。

 それでも、一応は王子の命令を聞いてくれている様で致命傷の者は居ないのだが、しかし……無傷な筈は無い。


 「逮捕だぞ……白州で裁きは必要だぞ……殺しては駄目だぞ……」

 王子の呟きは、誰にも聞かれる事も無くに、戦闘は続いた。

 一方的なそれだったが……。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

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改めて宜しくです。

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