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007 王子……ギルドに行く

 

 噴水の縁で食事を済ませた三人は、本来の目的地であるギルドに向かう為に立ち上がった。

 マルタは少し多過ぎたのか腹を擦っている。

 エウラリアは丁度良い感じの満足げ。

 同じ様な身長なのだが入る量は違う様だ。

 実はローブに隠れている体型は差が有るのかも知れないと見ている王子。

 

 それに気付いたエウラリアが。

 「なにか失礼な事を考えています?」

 チロリと王子を見た。


 「いや、マルタには多いみたいだったから、今度からは過ぎた分は食ってやろうと思ってな」


 「王族なのに、人の食べ残しを食べるんですか?」

 マルタが笑う。


 「妹の嫌いな物をコッソリ食べてやっているのと、さして変わらん」

 城での食事は、基本は各々の自室で食べるのだが。

 それでもたまには家族揃って食事もする事が有る。

 そんな時は、王子は何時も席をズラして妹姫の側で食事をしていた。

 普通は巨大なテーブルを広めに間隔を開けて座るのだが、そんな手も届かない距離では家族で食事をする意味も無いと、王子はそうしていたのだ。

 そしてそんな王子に甘えるベリーナも可愛いかったりもした。

 まあ、王族のマナーとしては最悪なのだけど。

 

 「じゃあ次からはお願いします」

 ニコリと笑うマルタ。


 

 「ええっと……ここですよね?」

 エウラリアは、デンとそびえる大きな建物の前に立ち止まる。

 正面には ”複合ギルド会館” と書かれていた。


 「あれ? 前に来た時はもっと小さな建物じゃあ無かった?」

 マルタは首を捻った。


 「でも、ギルド会館って書いてあるし」

 エウラリアも首を捻っている。

 以前に来た時は弟王子が先導していたのだろう。

 ただくっついて来ただけではわからないものだと思う。

 方向だけでも覚えているのは十分に賢い。

 そう何回も来ているわけも無いのだし。


 「とにかく入ってみれば?」

 王子にしてみれば、全くの初めてなのだから正否はわからない。


 そんな王子を二人の少女が見た。

 少し不安げにモジモジとしている。

 王子に先に行ってくれとそういう事なのだろう。

 頷いた王子は建物の中に進む。


 入り口をくぐれば、広いロビーが広がる。

 そこをパリッとした小綺麗な服を来た人達が行き来している。

 そこに居た人達は剣や杖等の武器は持たずに、書類の束を抱えていた。

 

 入ってすぐに三人は首を傾げる。

 どうもイメージとは違うと王子。

 こんな所では無かったと、二人の少女。


 その戸惑う三人に一人の女性が声を掛けた。

 「どうしましたか?」

 キリリとした顔立ちの、見るからにキャリアウーマン。

 完全に場に浮いている三人を見咎めたようだった。

 

 「こ……コレを」

 エウラリアがおずおずとスライムの札を差し出す。


 「ああ、討伐の……」

 ニコリとしたキャリアウーマン。

 「ここはギルドでも、国とギルドを繋ぐ仕事をしている場所です……まあ、お役所ですね」


 「ええ?」

 困り顔のエウラリア。

 何がなんだかわからないとそんな顔。


 「こちらに着いて来て」

 そんなエウラリアに手招きして、いったん外に出た女性。


 玄関口で、左手を指差して。

 「一般業務はあちらの建物です」

 噴水を中心に左に見える、ここよりも小さな建物。

 木と石の三階建て。

 「ちなみに、あちらは教会ですよ」

 白いローブのエウラリアを見て、回復職なら教会もと教えてくれたのだろう。

 噴水の右手を指した。

 いや……教会は、わかりやすく見たまんまだった。

 

 親切に教えてくれた女性にお礼を言って、今度こそギルドに向かう三人。

 

 


 改めてギルドの扉をくぐる。

 ここもそれなりの広さで、奥の正面のカウンターには幾つかの窓口が並ぶ。

 その窓口には、各々に看板が示されていた。

 右半分が冒険者ギルド。

 左は商業ギルド。

 もっと端の方にはまた別のギルドの看板が有るが……メインに成るのはその二つだった。

 だからか窓口も多い。

 そして、賑わっているのもその二つだ。


 王子は物珍しそうにグルリと一周を見渡した。

 入って来た扉の左右に別れて掲示板が有る、やはり冒険者ギルド用と商業ギルド用だ。

 ここで依頼等を探すのか。

 その掲示板に貼られた一枚の紙を剥がして窓口に行く、如何にもな冒険者も居た。

 

 立ち止まってキョロキョロとしている王子をつつくエウラリア。

 なにかと見れば、手に持つスライムの札を手渡してくる。

 窓口に行くのに臆した様だ。

 さっきの失敗でへこんでしまったか?


 まあいいと、それを受け取り……窓口に目をやる王子。

 出来るだけ優しそうな感じの人を探し、柔らかな印象の若い娘が座る窓口に進む。

 

 「あの……」

 スライムの札を見せる。


 「はい、換金ですか?」

 王子に対してニコリと微笑んで見せたそのお姉さん。

 「冒険者カードはお持ちですか?」


 カタマる王子。

 「冒険者カード?」

 そんなモノは持ってはいない。

 

 「お持ちで無いなら作られてはどうですか? 無くても換金は出来ますが、有れば身分証にも成りますし、何よりギルドのサポートも受けられますよ……例えば、旅をしているなら何処の街のギルドでも取引や魔物の情報を得られたり、町や周辺の簡単地図等も手に入れられます、もちろん関所や街の門番に見せるだけで出入りも簡単に済ませられますし、ギルド管理の保険や銀行等も利用出来ます……」

 立て板に水の営業トークを続けた目の前のお姉さん。

 最後にニコリと微笑んで。

 「今なら入会金は無料でカード発行手数料の大銀貨一枚で、初心者冒険者セット付きです」

 その圧に押された王子は堪らず頷いてしまった。

 

 頷いた王子を見逃さなかった窓口のお姉さん。

 即座に三枚の申し込み用紙を取り出して差し出してくる。

 「では、これに必要事項をご記入下さい」

 可愛らしく優しそうな感じだったのだが、有無を言わさぬ押しの強さ。

 恐るべし……窓口のお姉さん。

 

 手元の用紙は三枚共に同じ物だった。

 ん? と、首を捻る暇も無くに。

 「後ろのお嬢様方もですよね?」

 決め打ちだ。

 エウラリアとマルタも押し付けてられる様に用紙を受け取っていた。


 「書き方はお分かりですか?」

 カウンターに並んだ三人の用紙を指差して。

 「ここにお名前と生年月日を」

 少しズラして。

 「現在の職業を……もし、まだ無職の様でしたら書かなくても結構です」

 

 少女二人は頷きながらに書いている。

 エウラリアは白魔法士。

 マルタは黒魔法士。


 王子も書き込むのだが……名前はナード・ギーグ・ナッロッパ……そして、生年月日。

 だがそこで止まってしまう。

 職業はなんだ?

 王子で良いのか?

 ウンウンと唸っていると、横からマルタが。

 「そんなに長い名前だったの?」

 お王子の申し込み用紙を覗いていた。


 「ああ、頭の文字を取ってナギは略称だ」

 

 へえっと感心している二人。

 面倒臭く為った王子は、そのまま職業は空欄で出す事にした。

 「後でも書き込めるんですよね?」

 一応は訪ねて見る。


 「大丈夫ですよ、皆さんの個人のメイン・ボードと連動しますので、職業は自動で書き込まれます……一応の確認用です」

 パーティーを組んだ時に出した透明のガラスの様な表示のヤツだ。

 レベルの確認やスキルの有る無しも確認できた、アレ。


 それなら何も問題は無いだろう。

 いちいち書き込みにギルドに来て、お願いをする事も無さそうだ。

 

 三人は纏めて用紙を差し出す。

 「はい、暫くお待ちくださいね」

 用紙を受け取ったお姉さんは奥に行き、すぐに三枚のカード差し出して来た。

 「このカードをメイン・ボードに重ねて下さい」


 言われるままにする。

 カードには名前と年齢が書かれて居たのだが……そこに職業が浮き上がってきた。

 

『 

  ナード・ギーグ・ナッロッパ

       年齢16歳 男性

 

  第一職業  王子Lv1

  第二職業  無し    

  第三職業  …………


       登録発行元……王都

                   』


 銀色のカードの表面にはそんな感じで書かれている。

 そのまま王子でも良かった様だ。

 裏面を確認すると、王家の紋章が透かしで入っていた。

 一瞬、王子だけなのかとエウラリア達のカードを盗み見れば、二人のにも同じ様に入っている。


 「王都発行は人気なんですよ、王都の紋章はそのまま国の紋章と同じですから」

 ニコニコと説明をしてくれたお姉さんは、受け皿を差し出して。

 「では、大銀貨三枚をお願いします」


 それにはマルタがポケットから、朝のお釣りから出して渡した。

 

 しかし……三人は微妙な顔に成る。

 ん? 三枚?

 確かに一人一枚なら三枚で正解なのだが……事前に合計金額は言われていない気がした。

 

 どうにも腑に落ちない三人の顔とは対照的なお姉さんの顔。

 言葉で表すなら……まいどありーって感じか。

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