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068 王子……絡まれる


 昼食を終えた一行はまた歩き出す。

 今度は王子は先頭をゼノに譲った。

 旅の経験が豊富なゼノに歩くペースを作って貰うためだ。

 ガスラもその経験は持ってはいるようだが……どうも、軍隊の行軍に成りそうな気がする。

 滅茶苦茶シンドイ上に根性論で片付けられそうだ。

 それはたぶん、リサも変わらない。

 ここは軍隊の臭いの少ないゼノに頼むのが一番だと考えたのだ。

 元が冒険者らしきゼノなら、体力の無い者……例えば依頼か何かで、普通の民間人の護衛とかもした経験が有るだろうから、後ろの者の観察も気配りも有るだろう……と。

 

 そして、それは正解だった様だ。

 小さい休憩を、疲れる前に何度も挟み。

 歩く速度は一定だが、事ある毎に横の景色を指さては気を紛らわせてくれる。

 その景色だが、今は緑が半分茶色の土の地肌が半分で、登り下りの多い丘や谷の連続に成っていた。

 王子には実感は無いが、ゼノの話によると。

 登りと下りの比率では、登りの方が少し多いかなと……そんな感じらしい。

 つまりはトータルで登っているという事だ。

 まあ……遠目に見れば、一目瞭然で登っているのだけど。

 正直、それはあまり意識はしたくないので、王子は出来るだけ自分の足元を見て歩いていた。綺麗に均されたタイルの敷かれた道。

 山は……見るだけで疲れる。


 「藪が見えてきましたね」

 丘を登りきった所でゼノが前方を指差していた。


 谷の底に低い草木が一塊で繁っていた。

 王子は気晴らしの意味でも、聞いてみた。

 「クルスーの町の近くに有ったのは林だよな?」

 確かに藪と言われたそれは、そんなに大きな規模でも無さそうだ」

 「藪はわかるが……林と森って、どう区別してるんだ?」

 

 「森と林はですね」

 ゼノは王子の質問に丁寧に答えてくれる。

 「それを見た時に、木の幹がが見えたら林です……比較的疎らで明るい感じに成りますね」

 身ぶり手振りを交えて。

 「そして、森は葉っぱだけが一面に見える感じですね。それは葉っぱがドームの外側の様に成って中心部に光を届かせない感じで薄暗く成ります……それは下草も生え難いですし、苔も増えます」

 そして、前方をもう一度指差して。

 「藪は規模で……背の高い木が少ない状態ですかね」

 

 確かにその通りに見えるが……しかし、草は鬱蒼と繁ってはいた。

 「草原にも、背の高い草が密集している所も有ったよな?」


 「まあ細かい事は考えず、木が有るか無いかで判断して下さい」

 笑って。

 「実際の所は、林は人に手が入っている所とか……色々と定義は有るんです。でも冒険者になら、そんなのは関係がないでしょう、要は魔物が居るか居ないかですよ」


 「成る程……魔物の生息域の判断の基準か」


 「後は……人が隠れて居られるか、とかですね」

 ゼノは、そう言って立ち止まった。

 右手は剣に添えられている。

 

 「何かマズそうな雰囲気か?」

 王子はそんなゼノに尋ねる。


 「そうですね、人数はわかりませんが……街道を歩いている私達を見て隠れる理由がわかりません」

 それは、普通の旅人としてだ。

 旅人、以外なら色々と居るのだろう。

 隠れて……待ち伏せる、そんな職業の者が。

 

 「クルスーの者か?」

 ガスラも杖を前に持ち直した。


 「隠れて待ち伏せなら、貴族管轄の地方巡察隊では?」

 町娘の格好で背中に大剣を背負ったリサが苦い顔で言った。

 「奴らは自分達が警察だと思って、好き勝手に罪を作っては罰金をせしめる者も多いからな……だいたいが隠れて待ち伏せる者に正義の味方など居ない」


 「そうか……そんな輩も居るのか」

 まあ、人目に付き難い場所ならそんな事も普通に有りそうだ。

 

 「沢山居ますよ……馬車の走るスピードが速すぎるとかの文句を着けるんです。もちろん貴族の馬車は素通りですけどね」


 「武器や荷物に文句つける場合もありますね……そうすれば持ち物を改める口実に成りますから……そして、適当にイチャモンを着けて逮捕です」

 ガスラも何か思う所が有るのか?


 「でも、逮捕すれば面倒な仕事が増えるだけだろう?」

 王子のその問いに、リサが簡潔に答えた。


 「保釈金目当てですよ……キックバックが狙いです」

 つまりは取り締まる側の全てがグルって事か。

 

 「だから、金持ちそうな民間人を狙うんです……出来るだけ貴族に関わらなさそうな下級国民をね」

 

 「盗賊と変わらんな」

 王子も溜め息を吐く。


 「貴族や国の威を借るだけ、盗賊よりも始末が悪いですね」

 

 「国のか?」

 王はそれを赦しているのか?


 「本来は犯罪捜査や治安維持の為の組織ですが……それ以外に力を使うわけです」

 吐き捨てるリサ。

 「王国軍も奴等には手を焼いているんです……一応は警察組織ですので、それなりの理由をでっち上げてきたり、しまいには賄賂で揉み消そうとしたりで、なかなかに取り締まれないんですよ」


 「ふーん……ろくなもんじゃあ無いな」

 リサとガスラはその貴族管轄の地方巡察隊……警察を取り締まる側か。

 いや、ガスラは監視者か?

 それとも、管理をしている上司みたいな者で、部下の不正に頭を悩ませているとかかも知れないな。

 「でも、全部が全部……そうでも無いんだろう?」

 

 「そうですね」

 リサは小さく頷いた。

 「だから……余計に厄介なんですよ。一部の善良な者がそのトバッチリを受ける」


 「マトモなのは……一部。なのか……」


 と、立ち止まって話をしていたらば、藪の草影か数人の男達が出てきた。

 それを見たゼノが声を落とす。

 「嫌な方に正解でしたね……山賊ではなかった様です」


 出てきた男達は皆が、揃えた鉄の鎧を着ていた。

 そして、こちらに歩いてくる。

 腰にぶら下げている剣の柄に右手を添えた姿勢だ。

 そのまま、王子達を取り囲んだ。


 「貴様等……なぜに歩くのを止めた?」

 正面に立った、髭面の男が言い放つ。

 人数は全員で七人だった。


 「別に意味は無い」

 ゼノがその男の問いに、素直に返答を返す。

 「新米の冒険者に、藪の側は危ないと教えていただけだ」


 「確かに危ないな……魔物が潜んでいる事も有る」

 ニヤ着いた髭の男。


 「それと、山賊とかもな」

 髭の横に立った、若い男だ。

 「で……貴様等は何者だ?」


 ワザワザ山賊と声に出したのは、お前達は違うのか。とでも言いたいのだろうか?

 

 「子供連れの山賊は居ないだろう……」

 ガスラがワザワザリサの前に出て答える。

 子供と指したのは、エウラリアとマルタだ。

 

 「何者だと聞いたんだ」

 髭が凄んで見せた。

 「余計な事は喋るな」


 「……旅の者だ」

 それにはゼノが答えた。


 「そのわりには……軽装だな」

 若い男はヘラヘラと。

 「魔法具のバックでも持っているのか?」


 「そうだが……何か問題でも?」


 「最近……密輸組織が彷徨いていると通報が有ったのだが?」

 髭だ。

 「魔法具のバックに隠して、怪しい薬を運んでいるそうだ」


 「子供を隠れ蓑にでもしているかもしれませんね」

 若い男は髭面にそう告げる。

 「バックの中身を改めるべきですね」

 

 「そうだな……確認しろ」

 髭が顎で、エウラリアとマルタを指した。

 見た目ではバックを持っているのはこの二人だからだ。


 そして、指示されたであろう左右の男達がエウラリアとマルタに手を伸ばす。

 それを見た王子は声を上げる。

 「山賊が貴族管轄の地方巡察隊の格好をしている事は無いのか?」


 「有るかも知れませんね」

 それに答えたのはリサ。

 「警官に成り済ませば、好きな様に出来る」


 「貴様……我々を山賊呼ばわりか?」

 髭の男の右手に力が入る。

 

 それを見たリサは、背中の大剣に手を掛けた。


 「町娘風情が大層な剣を背負っているのだな?」

 髭は剣を抜く。

 「ますます怪しいでは無いか」


 確かにリサは怪しく見える……それは否定はしない。

 地味な庶民の娘が、白金色の両手大剣だ。

 見た目から高価なミスリル製だとわかる。

 王子は少し失敗したなと感じた。

 昨日迄のフルプレートアーマーなら、それは国軍だと理解されただろうに。

 見た目なら近衛騎士団とでも見えた筈だ。


 「まあ、先に剣を抜いたのはお前達だ」

 王子は髭の男を指差して。

 「殺さずに逮捕出来るか?」


 「そんなの……簡単ですよ」

 リサもその両手大剣を抜いて前で構えて言い放った。

 「たかが七人、私一人でも楽勝です」

風邪を引いてしまった。


微熱に鼻水に咳。

ああ……とうとうコロナか? と諦め掛けたがどうもそうでは無いらしい。

コロナは鼻水の症状は出ないらしい。

微熱にと軽い咳も、もっと強烈に出るそうだ。

それを聞いて、少し安心した。


なので普通の風邪だった。

が、これは困った事に成った。

見た目は明らかに風邪を引いているのだ……この状態では外に出られないでは無いか。

買い物にも出れない。

出れば白い目で見られるのは必至。


買い置きの食料は?

計画的に食べねばいけないのか?

まるで自宅で遭難したみたいだ。


コロナ……かかってなくても恐ろしい。

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