067 次の目的地は
ゼノの言った、直接にとは。
途中に幾つかの村や町は有るのだけれど、少し方向がズレるのだそうだ。
つまりは遠回り。
快適なテントが有るので、そこまでして寄る必要も無いだろうとの事だ。
実際には、護衛の都合も多分に含まれているのだろうけど。
町や村はどうしても人が多い。
王子を狙う暗殺者は人だから、その人そのモノから離れた方が良い……と、そんな所だろう。
そうすれば、警戒は随分と楽に成るとそんな感じか。
しかし、急いでドラゴンのもとに向かっても倒せる宛も無いのだが。
いや、そうでもないな。
いざドラゴンと対峙すれば、その時には王国騎士団が大挙して登場するのだろう。
しかし、それで倒して……その後はどうする?
城に戻るしか無くなるとも思うが。
王は問題を解決できているのだろうか?
うーん……。
これも悩んでも仕方無いのかもしれない。
駄目なら、まだ返ってくるなと適当な理由を着けてお使いを言い渡されるのだろう。
その時は、その時だ。
等と考えながらに道を歩いていた。
クルスーの町からも、それなり離れたのだろう。
道がまた綺麗に煉瓦で舗装されるようになっていた。
「この辺はクルスーとは関係が無いのか?」
王子のそんな質問に答えてくれれたのはゼノ。
「ここから山に向かう範囲は公爵家に成りますね」
目の前の大きな山脈を指す。
「公爵?」
「ポモドーロ公爵です」
「ああ、トマトの爺さんか」
王子は大きく頷いた。
先代国王の弟だ。
つまりは王子の大叔父だ。
トマトの爺さんとは……兎に角トマトが好きな人だったからだ。
好きすぎて、アダ名に成っていたのをそのまま改名して自分の名前にした、変わり者でもある。
「て、ことはトマト畑が有るのか……」
王子はゼノの指した山脈を見た。
「まあ、トマトは俺も嫌いじゃあ無い……是非に美味しいトマトを食べてみたい」
チラリとゼノに視線をやり。
「少しくらいなら寄り道も……」
「その必要は無いですよ」
ゼノは少し笑って。
「ドラゴンの居る温泉地はそのポモドーロ公爵の町ですから」
「おお、そうだったのか」
破顔した王子は。
「それは是非にでも顔を出さねば」
爺さんの兄弟は、王族にしては珍しく仲が良かった。
だから、王子も良く知っていたのだ。
そして、王子の小さい頃……まだ爺さんが生きていた頃は、良く城にも顔を出していた。
「最近はすっかりご無沙汰だからな」
妹姫のためにも、また城に来て欲しいとも思う王子だった。
気分も良く、足も軽くなった王子は鼻歌を漏らしながら、少し登り傾斜の出てきた道の先頭を歩いた。
見える景色は、花の咲く草原から少しづつ変わり。
地面や岩肌が見える様に成ってきた。
そして……永遠と続く登り。
傾斜自体はそんなにキツくは無いのだが……。
それでも少し息のアガリ始めた王子。
少しづつだが、確実に歩く速度が落ち始めた。
「この辺で休憩する?」
後ろから声を掛けたのはリサだった。
リサは結局、フルプレートアーマーは辞めて町娘の格好をしていた。
本人はどちらでも良かった様だが、朝食の時にもう一度その話をしたら、ガスラが一言。
「アレは……目立ちすぎると、思っていたんだ」
そんな事を言ったのだ。
リサはビックリした顔で。
「だったら、先に言ってよ」
と、少しムクレた顔に成っていたが、言われたガスラはゼノの顔を見ていた。
たぶんだが、ゼノが三人の配役を決める係か何かなのだろう、それが何も言わないので、今回はそう言う役だと皆が勝手に自分で飲み込んでいた様だ。
そのゼノは、何が? とそんな顔をしていた。
王子達が混ざった今は、そんな役処を変える意味は無いだろうからと、それの仕事は頭から抜けていたようだ。
因みにだが……その鎧はガスラが持っているらしい。
ガスラの灰色のローブの前にはポケットが着いていて、それはは大きく開くドンブリの様に成っていた、それはエウラリアやマルタの持つ鞄の様に、魔法具にも成っているのだそうだ。
装備品でもあり魔法具でもある。
中々に優れたモノだった。
色や形は王子の趣味では無いが……それを抜かしても欲しいと思ってしまった。
でも……どうやら特注品らしい。
ガスラに聞いた時には、売っている店は無いと……そう言っていた。
もしかすると、王国軍の軍用装備品なのかも知れない。
そうだとするなら、今度城に帰った時にコッソリ拝借してやろう。
夜だけと制限は有るがロザリアの手引きなら何処にだって入れる。
軍の倉庫なら、もっと他にも良さげなモノも有るかも知れないし。
……それに、家に有るモノを借りるのだし問題も無い筈だ。
城は王子の家なのだから、他人の持ち物を盗むわけでは無い。
家のモノを持ち出すだけだ。
「城のモノは俺のモノだ」
そんな呟きと共にニヤリと笑みを溢した。
全てが王子のモノに成るには、それは四年後の話なのだが……その時は王。
そうなれば……城から出るだけでも大事に成るので、そんなモノを持っていたところで使い道も無いのだが……。
「少し早いけど……お昼にしましょう」
リサの提案で、皆が好き勝手に腰を下ろし出した。
王子もマルタの側に寄って地べたに座る。
俺達の昼食用のバスケットはマルタが持っているからだ。
だから三人で集まる。
ゼノ達のバスケットはガスラが前ポケットから出していた。
そちらも三人で集まっていた。
バスケットを二つに分けたのは、ガスラの提案だった。
敵に襲われてバラバラに成る可能性も有る。
食料を持ったものが襲われて、置いて逃げなければいけない時も有る。
と、そんな理由で食料等の大事なモノは分散させて持つのが当たり前だと言っていた。
それを聞いたマルタが不安そうに王子を見ていたが、王子は頷いて。
「そん時は、また背負ってやるよ」
と、笑ってやった。
だが、良く考えればパーティーで全滅すれば、生き返ったとしても最後に寄った教会に飛ばされる。
それもパーティーごとなので、ゼノ達とパーティーを組めないなら、その時は離ればなれだ。
成る程……それが合理的でも有ると理解出来た。
「ガスラは本職の軍人みたいだ」
なんて感じで誉めていたら、それに対してシドロモドロに成っていたのだけど……。
もういい加減に諦めれば良いのに、とは心の中にしまって置いた。
さて、バスケットの中身はウサギ肉とチーズのサンドイッチだ。
香辛料の効いたピリ辛な感じでとても美味しい。
本当は温め直してチーズのとろける感じを楽しみたいところだが、それは今は仕方無いと諦めるしかない。
それでも……冷めても美味しいのだから文句も無い。
流石はロザリアだ……とも思ったが。
今朝の話を思い出した王子。
「あれ? これはリサが作ったの?」
「はい、そうですよ」
リサが少し離れた所から返事を返してくれた。
「ロザリアの料理に近い感じがしたから、迷ってしまったよ」
「だぶんロザリアさんも南部の出身なんでしょうね」
ニコリと笑うリサ。
「リサもそうなのか?」
「カダンザーロが私の故郷です」
「ロザリアはシチリアだ」
「そうなんですか?」
驚いた様な振りを見せるリサ。
「それは隣ですね……どちらも南の端ですし、料理も似てて当然ですね」
昨晩の料理も南部の特徴が出ていたから、リサも薄々は気付いていたのだろう。
少し演技が大袈裟だ。
「そのうちで良いから、今度はクスクスかアランチーニを作ってくれ」
王子はリサに注文を着けた。
「ロザリアは出身はシチリアだが、北部に来て長いから少し本場から変化しているらしいんだ、それでも美味しいんだけどね……でも、本場の料理も食べてみたい」
「良いですよ」
もちろん構わないと頷いたリサだが。
「でも、ロザリアさんの料理には敵わないと思いますけどね、確かに南の味から少しアレンジされていますけど……ビックリするくらいに美味しいですから」
「うん、私も驚いた」
マルタが話に割って入った。
「宮廷料理よりも美味しいと思う」
エウラリアもだった。
二人は今はロザリアの料理のファンだ。
すっかり胃袋を捕まれているらしい。
それはもちろん王子もだったが。




