表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/87

058 王子を演じる本物の王子


 さて、ベンナには明日の朝には屋敷に行くと告げて帰らせた。

 ハッキリと言ってしまうと追い返したが正解だ。

 何時までも見ていたい気持ちも有ったが、それ以上に面倒臭いが勝ったのだ。

 もちろん帰り際には忠告もした。

 「王族が貴族の屋敷にいく以上は……今の暮らしは出来なく成るかも知れないぞ」

 と、だ。

 貴族の主が決めた事に待ったを掛けるのだ、普通では出来ない。

 それを無理矢理ごり押すのだから、どうなるかはおおよその予測はつく。

 最後の最後に、その何度目かの注意に頷いたベンナを見て。

 その覚悟に王子も頷き返した。


 

 そして、部屋の外で事の成り行きを見ていたゼノ達三人を、中に呼び寄せて少しの頼み事をした。

 「聞いての通りだ、明日は伯爵家の屋敷に行く事に成った」

 王子は三人を見る。


 三人は、かなりまごついていた。

 それはそうだ、王子が自分の立場を隠さなく成ったからだ。

 どう返答するかも悩む事だろう。

 そして、三人の態度もあやふやだ。


 「そこでだ……俺が一人で行っても追い返されるのが落ちだ」

 エウラリアとマルタを指差して。

 「この二人が着いて来ても、それは変わらんだろうから……お前達に頼み事をしたい」

 今も王子とは名乗っては居ない、だから頼み事。

 「王宮勤めの格好をして着いて来て欲しい」

 三人にとっては、それが本当の姿なのだろう。

 「護衛役を演じてくれればそれで良い」

 これも王からの命令の筈だ。

 ……ややこしい。

 本来の姿から別の役を演じて、ここにいる筈なのに……もう一度、今度は本来の姿を演じろと言っているのだ。

 いい加減、自分が王子だと名乗ってしまいたくなる。


 そう言われた三人は、お互いに顔を見合わせている。

 三人にとってもややこしい事だ。

 それを口に出して、お互いに確認も出来ない。

 長年の仕事仲間であっても、それをアイコンタクトだけで理解は出来ないだろう……まあリサは明らかに若いのだけど。

 だから、この場で返答させる。

 三人にして、何処かで隠れて相談はされたくは無いからだ。

 「演じるだけだ」

 

 それでも返答に渋っている……迷っている?

 いや、窮しているだけか?

 返事は無い。

 

 「駄目か?」

 三人を睨め付けた。


 たじろぐ三人。

 まだ、返事は無い。


 王子は大きく溜め息を吐き出して。

 「では、ガスラの爆弾を幾つか分けてくれないか……ゴリ押しで屋敷に入る」

 

 「それは危険すぎる」

 やっと口を開いたのはガスラ。

 「無理矢理に入っては斬られてしまう」

 今の姿の王子では……と、それを上手く飲み込んでの返答だ。


 「そうだろうな……」

 小さく肩を竦めた王子。

 「それでも約束はしたからな」

 少し笑って。

 「それに俺が切られれば父が黙っては居ないだろう? なら、それでもベンナとの約束は守られる」

 斬られて痛いのは覚悟出来る。

 それでも80%の確率で教会行きだ。

 そして、その数字も大きく変えられる、最大で98%にだ。

 その方法は簡単、ギルドに行って経験値の全てを売れば良い。

 Lv1なら49%で、神器が有るのでそこから二倍だ。

 つまり、運の悪い数字は2%に迄下げられる。

 ほぼ死なない。


 そして、死ななくても王子が斬られれば王と国は動くだろう。

 クルスー伯爵家の取り潰しは確定だ。

 そう成ればベンナの婚儀も無くなる。

 王子が少し痛いのと、レベル10だけの経験値を諦めれば済む事だ。


 王子の父が動くと、その言葉に慌てた三人。

 「一緒に行きます」

 最初に我慢が切れたのはリサだった。

 

 「同行しましょう」

 リサの言葉に背中を押されたゼノも答える。


 最後はガスラだが。

 リサとゼノを驚いた顔で見て……そして、最終的には頷いた。

 「わかりました」


 「まあ、演じるだけだから」

 王子は軽く、そう答える。

 「三人なら迫真の演技が期待出来そうだ」

 迫真も何も……本物なのだが。


 

 そうと決まれば、だ。

 王子はその場の全員に聞いた。

 「屋敷を訪ねるにしてだ……この格好はどうだろうか?」

 王子は両手を広げて見せて、自分の服について尋ねた。

 

 「うーん」

 唸るエウラリアとマルタ。

 

 「やはり、安っぽいか?」

 王子に見えない、その自覚は有る。

 そこいらの店で買った服なのだから、当たり前っちゃあ当たり前だ。

 

 「でも、流石にそれっぽい服は手に入らないよね?」

 マルタは首を振った。

 王子らしい服など、普通の町に有る筈もない。


 「一応は儀礼用の剣と……」

 腰に下げている細剣を見せて。

 「後は……」

 王子はポケットを探って。

 「これかな?」

 マルタが持っていた神器を出した。


 「あれ? それ」

 神器を見たマルタが声を上げる。


 「マルタが持っていたんだろう? 教会で見付けたんだ」


 「それって、最初に渡されたヤツよね?」

 エウラリアも覚えていたらしい。

 城を放っぽり出された時にだった。

 「なぜ、マルタが?」

 怪しむ目をマルタに向けたエウラリア。


 「別に取ったわけじゃあ無いよ」

 両手を体の前で振り。

 「宝物庫で拾ったんだよ……落としたんでしょう?」

 王子に問い掛ける。

 

 だが、王子は胸元から神器の偽物……安っぽいそれを出して見せた。

 「有るよ」


 「え……あれ?」

 頭が斜めに傾いたマルタ。


 「まあいいや」

 王子は本物の方を首にかけ直して、安っぽい方をマルタに渡した。

 もちろん、今度は目立つ様に……マントの留め具の外にぶら下げる感じにだ。

 「これを見せれば、それっぽいかな?」


 そして、次にエウラリアとマルタを見る。

 「二人はそのままでも大丈夫だな」

 白と黒のローブだが。

 王の横にいる二人の大臣も、杖を含めてそれと同じ格好だ。

 

 「一緒に行っても良いの?」

 エウラリアが少し不安そうに尋ねたが。

 それには、王子はエウラリアの横を指差した。

 「置いてくって行っても着いて来そうだし」

 そこには鼻息の荒いマルタが居た。


 「あ……そうね」

 エウラリアも納得。


 「あんまり無茶しないようにな」

 王子はマルタに笑ってやった。

 ベンナの事で、子供理論を領主に押し付けそうな勢いだ。

 家よりも愛が大事だ! なんて叫ばれても困ってしまう。

 それはエウラリアも同じだが、まだ自制心が見えるだけマシか。

 「なんなら、その安っぽいのをぶら下げておくか?」

 王族では無いが、構いはしないだろう。

 王族の王子が許可を出すのだから。


 「これで、武器屋の王笏が間に合えばモットそれっぽいのだろうけど……」

 チラリとゼノ達三人を見た王子は。

 「お供役のゼノとガスラとリサに期待だな」

 三人に頷いて見せて。

 「格好も含めて完璧なら、足らない部分も補えるだろうからね」



 

 翌朝、護衛役を頼んだ三人が迎えに来てくれた。

 思わず声を出すエウラリアとマルタ。

 それもその筈、三人は見事な姿で現れた。

 

 ゼノは貴族風の軽装に銀の胸当てに銀の脛当て、腰には銀の剣……そして銀の丸い盾も持っている。

 その風貌からして、本物の貴族で城勤めなのだろうか?

 それとも、冒険者から貴族に成ったとかか?

 元が冒険者なら、今回の王子の護衛には打って付けな気もする。


 ガスラは赤黒いビロードのローブに銀の飾りが巻き付かれている。

 手には例の仕込み杖。

 成る程、本職は宮廷魔術師か。

 いや、魔法剣士だったか。

 

 リサは銀色のフルプレートアーマーだ。

 今回はヘルメットは外しているが、誰がどう見ても王宮騎士団のそれだった。

 背中にはやはり両手大剣。

 鎧の至る処に飾り絵が彫り込まれている。

 バラの絵だろうか?

 そのキリッとした立ち姿から、騎士団でも隊長クラスの風格が見える。


 見えるでは無いか……。

 これが、この三人の本当の姿なのだろう。

 これで演技だと言われれば、もうそれは本職の役者以上だ。

 ただの役者が、ココまで強い筈もない。

 つまりはこの格好が本職なのだ。


 「これなら、すんなりと屋敷に入れそうだ」

 一人、驚いていない王子は大きく頷いた。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ