056 王子の客
教会を出て、少し歩いたところでマルタが声を出す。
「でも……私達って一度死んじゃったんだよね?」
神への愚痴という現実逃避から最初に戻ったのはマルタだった。
確かにそうだと王子も大きく息を吐く。
神様の事も確かに大事だが……本当のところはそちらの方が問題だ。
生き返るチャンスが有るのはわかった。
でも、負けて……死に続ければ何時かは終わってしまう。
「そうだな……俺達は失敗したんだよな」
王子は改めてその事実を口にした。
そして三人は下を向く。
それでもレベルは少しは上がって生き返れたのだから、それでもヨシとするべきなんだろうけど……。
やはりボスに勝てなかったのは大きい。
「何で勝てなかったのだろう?」
マルタが呟いた。
「そうね……当たりのダンジョンは勝てる実力が有るから入れる筈なのに」
エウラリアの声も小さい。
そして、王子も確かにおかしいとそう思う。
「アルミラージは何で出てきたんだ?」
「戦って……勝ったからでしょう」
エウラリアが王子を見た。
「勝ったのはゼノ達だろう?」
王子達はウサギ迄だ。
少し語気が強く出てしまって、自分にハッとする。
そうだ……勝ったのはゼノ達だ。
あの場にはゼノ達も居たんだ。
「もしかすると……ゼノ達の実力が反映されたのかも」
それに気付くと、また声が小さく成る。
「どういう事?」
マルタが王子に尋ねた。
「あの当たりのダンジョンはゼノ達が倒したアルミラージと一緒に居たウサギのって事じゃないの」
答えたのはエウラリア。
「アルミラージもセットに成ってたって事?」
「たぶんな……」
「そんな……じゃあ、もう当たりのダンジョンには恐くて行けないじゃん」
「俺達だけで倒した魔物から出た当たりなら……大丈夫だろ?」
誰かに助けられたモノでホイホイとダンジョンには行けないって事だ。
それもパワープレイの制限なのだろう。
レベル差に制限が有るのだから、そちらにも何かが有って当たり前か。
「私達は……ズルをしたって、神様に思われたんだ」
大きく息を吐き出したマルタ。
この場合、神様は関係が無いとは思うが王子もそれに頷いた。
その後は全員が口を閉じる。
そして三人は、ショボくれて帰路に着いた。
教会から宿屋への道は昼間なのに人通りは多い。
下を向いて歩いているのは、三人だけの様にも感じられた。
と、宿屋の前に派手な馬車が停まっている。
入り口に、思いっ切り横付けだ。
その馬車を見て王子は顔をしかめた。
泥水を掛けられたヤツだからだ。
あの時の事を蒸し返しに来たのだろうか?
一瞬、そんな事も考えたが、それはないとすぐに思う。
これは貴族が乗る馬車だ。
無礼討ちをするのにワザワザ本物の貴族がで張る必要も無いだろう。
誰かに命じてそれで終わりの筈だ。
使用人や雇われ兵に、こんな馬車を使わせる理由もない。
それ相応のモノを持っているか……町中なら歩かせるのでもじゅうぶんだ。
「邪魔ね」
エウラリアがボソリと。
「マナーって言葉を知らないのかしら」
「でも、ココって普通の宿屋だよね?」
マルタはそちらの方が気になった様だ。
「そうだな、普通なら貴族様が立ち寄る様な所では無いな」
そんな所に王子達は泊まっているのだが。
「宿屋の主人が税金でも誤魔化したんじゃない?」
マルタが首を振りながら。
「神様もお金に細かいなら、領主様もそうなんじゃあないの?」
「神様は細かいわけでは無いわ……キッチリしているのよ」
エウラリアがたしなめた。
やはり、白魔法士は神様よりか。
しかし、それもどうかと王子は思うが……キッチリね。
「まあ、俺達には関係は無いだろう」
馬車の方だ。
別に神様の方だって関係が有るとは言えないが、今は邪魔なコッチ。
馬車の脇には、あのイヤな従者も居たが王子達を睨んだだけで何も言っては来なかったので、その馬車と建物の隙間に入り込み、宿屋の入り口をくぐった。
中に入ると、ロビーにもカウンターにも貴族らしき者は見えない。
この建物の何処かには居るのだろうが、顔を合わせる事も無いのならその方が良いと、急いで部屋に向かった。
と、その部屋の前にゼノ達が居た。
扉の前に集まっている。
王子はそんなゼノ達に声を掛けた。
「早いね、もう頼み事は終わったの?」
ゼノ達三人が同時に王子を見た。
苦笑いの様な、困った様な顔をしている。
「ん?」
「いえ……その途中で、ギルドの職員に呼ばれまして」
何か言葉を濁している様なそんな素振りが見えた。
「討伐は中止って事?」
エウラリアも不思議そうだ。
「はい……領主様が」
ゼノはガスラを見た。
「領主様って、外の馬車の?」
頷いたガスラが。
「はい、人を探していると……」
「誰を?」
「私達と一緒に町に入った……その……」
言い難そうにしているのが、少し苛立つ。
「俺をか?」
ハッキリと王子をとか言えないのか?
「文句でも言いに来たか?」
「いえ……そんな雰囲気では……」
ゼノが慌てた様に。
王子は扉を指差して。
「中に居るのか?」
ゼノ達三人が同時に頷いた。
それを見た王子は、力一杯扉を開けた。
バンと音が響く。
部屋の中には一人の女性が椅子に座っていた。
馬車に乗っていた、綺麗なお姉さんだった。
「領主……では無いのか」
以前は馬車の窓越しに見ただけだったが、やはりか王子の好みのタイプだ。
うん……美しい。
その女性は王子を見るなり、椅子から飛び降りて深々とお辞儀をした。
そして、道を開ける。
狭い宿屋の部屋なので、横に避けただけの事だが……それでも明確に上座を譲った。
それは、貴族然とした格好の自分よりも、庶民の普通の格好の者の方が位が上だと理解した行動だ。
つまりは、王子と知っての事だとわかる。
王子はツカツカと部屋の奥に進み、窓を背に振り返る。
「俺の事を知っているのか?」
「はい、そのお顔は存じております」
顔は下げたままの令嬢。
「そうなのか?」
泥水を掛けた時には、何も言っては来なかったが?
それを言えば、ただの嫌味か。
令嬢は、その事も気付いていて何も言わない様だ。
肩が少し震えているのは、出来るなら知らない振りを通したいのだろう。
あの事は無かった事にしたいと。
まあ、美人だし……それは許そう。
それ以前にお忍びってのも在るが……。
貴族なり王族なりは自分の身分を示す義務が有るのに、それをしていないのだから、罰しようが無いのも確かだ。
「で……なに用だ?」
さて王子は困った。
例え貴族でも、直接に王族を訪ねるのはそのまま無礼討ちだ。
だが、今の王子は……どうなんだろうか?
自分の身分は示していないのに、相手は王子と認めて頭を下げている。
この場合の態度はどうすべきなのだろうか?
王子として振る舞うのが正解か?
それとも、王子らしき者と……位を下げるのが正解か。
「私は、この地を治める領主……クルスー伯爵の孫娘で」
令嬢が顔を上げた。
「国王の最初の妃と成ったイザベラの娘ベンナです」
「イザベラ?」
一瞬、誰だそれはと思ったが、最初の妃と言ったので理解出来た。
妃が王とは別の男との間に造った娘だ。
第二王子の姉でも有る。
有る意味、元王族か?
いや、王族には成れなかったが、王族の姉である事は確かだ。
今の王子とは全くの無関係なのだが。
しかし、それもまたややこしい。
でも、ココまでややこしいのなら態度も適当でも良いだろうと決めてかかった。
「第二王子のユダの事か?」
ユーイー・ダミッの事だが、姉なら通称のユダでも良いだろう。
「いえ……」
ベンナと名乗った令嬢が首を横に振る。
そして、潤んだ瞳で王子を見詰めて。
「私を助けて欲しいのです」
いかがでしたでしょうか?
面白そう。
楽しみだ。
続きは?
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