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055 神の奇跡


 多いなら、理由は何でも良い。

 王子は勢い込んで、ガチャに手を伸ばした。

 ハンドルを掴み、そして回す……。

 が、回らなかった。


 「お金をいれないと回らないわよ」

 教えてくれたのは、半透明な蘇生ガチャの管理者の女性。

 「凹みに、大銀貨を一枚」

 ニコリと笑った。


 「ここでも金か?」

 一瞬、呆れた王子だが。

 「まあ……宗教なんて金に汚ないのが当たり前か」

 そんな呟きを溢しながらに、ポケットを探る。


 「生き返るのに、その対価は必要だと思うけど?」

 

 王子はポケットにお金を見付けられ無かった。

 幾らかの小銭は持っていた筈だが、武器屋の親父に有り金全部を預けたからだ。

 

 「その金を持って死ねるとは……限らないのでは?」

 王子は左右に在る棺桶を交互に見て。

 「開いても大丈夫か?」


 「冒険者のたしなみの一つだと思いますけど?」

 棺桶の方はどうぞと手振りで示して。

 「地域によっては、葬儀の時にお金を棺に入れる風習も有るでしょう?」


 成る程……聞いた事がある。

 南の方ではミイラにして、その口に銀貨を咥えさせるとか……。

 王子は開いた棺桶の中に横たわるマルタを見付けた。

 電撃と体当たりで死んだ筈だが、その死体には傷はおろか……乱れた所も無い。


 ほんの少しだけ、眉が動いた気がした王子だが、そのままマルタのローブに手を突っ込み……お金を探る。

 小銭はそのまま持っている筈だ。

 

 と、少し大きなモノがポケットに見付けられた。

 出してみると、王子が城を出る時に貰ったガラス玉の嵌め込まれた首飾り。

 何でこんなモノをマルタが?

 これは王族の式典用の飾りの筈だが?

 王子は自分の首にぶら下がる、同じモノを出して見た。

 見た目は全く同じだ。

 だが、王子の持つ方がチャチイ気がする。


 「成る程……それをお持ちでしたか」

 蘇生ガチャの女性が横から覗き込んでいた。


 「これに意味が有るのか?」

 王子は二つのそれを見て。


 「神器の一つですね」


 王子は自分の首飾りを見る。

 「このチャッチイのが?」

 心の声がそのまま出た。


 「そちらは偽物ですね」

 女性はマルタのポケットから出てきた方を指差して。

 「本物はこちら」


 「ふん」

 まあ、確かにそれっぽい。

 

 「それを持つ者はガチャの確率が二倍に成るのですよ」

 

 「二倍だけか?」

 それだと……100%は越えないじゃあないか。


 「確実に……は、ガチャの意味が有りませんから」

 ニコリと笑いかけて。

 「神の奇跡も運次第で無いと」


 まあそうか。

 絶対……確実ならそれは奇跡でも何でもない。

 100%叶うモノに、誰も祈りや願い事をする筈もない……か。

 神が神で在る為には、成否の運が必要不可欠なのだ。

 99%迄が神で、100%に成ればそれは空気と同じで当たり前に成り下がるというわけだ。

 失敗するかも知れない中での成功だから、有り難みも在る。

 そして、失敗はより祈りを深くする。

 失敗の責任は自分の信仰心が足らないのだと、自分のせいにしてだ。 

 ……そして、人々はその信仰心を形にする。

 それは、ある時は御布施という形で……つまりは金だ。

 やはり、この世界の神はごうつくばりな様だ。


 「それで……マルタはどうしてこれを?」

 少し漏れた溜め息は仕方無い事だ。


 「さあ?」

 女性は掌を上に向けて。

 「生き返った時にでも、本人に聞いてみて下さい」


 王子は女性に目線をズラして。

 「そうする」

 全知全能の神等は存在しないと結論が今の今、出たところだ。

 いや単に手を抜くのが神のワザか?

 

 「私は神では有りませんよ」

 王子の心でも読んだか?

 それ以前に、わかりやすい顔をしていたのかも知れないが。

 「あくまでも蘇生ガチャの管理者です」


 「セイゼイがトコ……神の遣いって感じか」

 王子はもう一度、マルタのポケットを探る。

 そして、今度こそはコインを三枚見付けた。

 大銀貨だ。


 

 最初のガチャを回した。

 何かが出てくる気配は無い。

 変わりにか、棺桶の一つが消える。

 中に見えているカプセルが出てくるわけでは無いようだ。

 

 「蘇生……出来たのか?」


 王子の問いに。

 「さあ?」

 と、答えた女性。

 それも戻ってから、その目で確かめろと……そんな感じか。


 もう一度……ガチャを回す。

 二つ目の棺桶が消えた。


 三つ目を……回す前に、また疑問が出てきた。

 「人形はどうなる?」

 ここに居たのは王子を含めて三人。

 あれは生き返らないのか?


 「使役されている人形はパーティーメンバーでは有りませんよね?」

 女性は淡々と答える。

 「ご自分のスキルか何かで、修理なりをして下さい」


 人形修復のスキルでか。

 その場合……魔物使いとか精霊使いとかはどうなるのだろうか?

 職によっては……使い捨てにするしかないのだろうか?

 そうだとしても、今の王子には関係がない。


 王子は最後のガチャを回した。

 


 

 王子は教会に居た。

 目の前には、首をキョロキョロとさせたエウラリアとマルタの姿が有る。

 

 「無事に成功したようだ」


 「ここは?」

 不思議なのだろう。

 エウラリアが呟いた。


 「俺達は、失敗したようだ」

 何処まで教えて良いのかと迷う王子。

 誰にも言うな……は、パーティーメンバーにもか?

 でも、後で聞けと言ったのは蘇生ガチャの管理者だ。

 教えずに聞く……出来なくは無いが、それは面倒臭い。

 どうするべきかと悩んでいると。


 「秘密はパーティーメンバー以外に漏らさないので在れば共有しても良いですよ」

 後ろから教えてくれたのは、教会に居た神父。


 「貴方は知っていたのですか?」

 王子は驚いて、そう尋ねた。

 

 が、神父は首を振る。

 「秘密が何かは知りませんが、教則にはそう答えよと有ります」


 「そうですか……」

 想定される返事だけを記して有るのか。


 「でも、パーティーメンバーは変更や追加が出来るのでしょう? その時はどうすれば?」

 次々と変えて……出来るのなら国中の者を一度、パーティーメンバーにすれば、秘密も何も無くなるのでは?


 「パーティーから外れた時に……神の奇跡が起きますから、大丈夫です」


 それは、記憶が無くなると……そう言う事か。

 まあ、それも特別と言われた王子の様な存在だけの話なのだろうけど。

 普通なら蘇生した段階で記憶は無いとそんな事を言っていたのだし。


 「それでも、神に関する秘密の話は、ココ……教会の中でだけでお話下さい」

 神父はそう付け足した。


 それには何か意味が有るのだろうか?

 結界?

 教会の外に出れば忘れる?

 でも、どうしてそんな面倒な事を?

 今回得た知識を忘れても、有効に活用するための相談をしろとでも言うのだろうか?

 忘れる事を前提に、大銀貨を肌身離さずに持てと……その方法なり言い訳なりを考える時間とかか?

 親の遺言とか教会の教則に有るとか……そんな感じで言いくるめるとか。


 「わかった」

 王子は神父にそう答えて。

 そして、二人に向き直る。

 「今から説明をする」

 王子は神父に見えない様に仕草で、マルタに伝えた。

 札か何かに書き写せ……と。


 


 教会から出た王子は、エウラリアとマルタに尋ねた。

 「覚えているか?」

 特別だと言われた王子は、もちろんすべてを覚えていた。

 

 そして、二人もそれに頷く。

 声に出さないのは、神父に言われた……神の秘密は教会の中だけ……を怖れたからだろう。

 不用意な言葉は、何がそれに引っ掛かるのかが怖いからだ。

 神罰は記憶が無くなるだけだろうけど、それでも嬉しくは無い事だ。


 王子は次に、握り締めていたマルタの書いた札を見る。

 細かい字で書かれた筈のそれは……殆どが読めない程に滲んでいた。

 辛うじて読めたのは……大銀貨一枚を肌身離さず……だけだった。


 「成る程……これも神の奇跡の一つか」

 王子は札を細かく破り捨てた。


 「大丈夫かな……どこもオカシク成ってない?」

 それを見ていたマルタの声が震えている。


 「なにがだ?」

 その怯えたマルタを見た王子。


 「だって……神様を試す様な事をして……」

 王子のやった事の恐怖を今、理解した様だ。


 「大丈夫だろう?」

 王子はマルタに笑い掛けて。

 「言われたのは話すな! だ」

 紙に書くなとは言われていない。

 それも、対処が出来るから言われなかったのだろう事だ。

 こんな誰でも思い付く事を注意しないのはそう言う事なのだろう。


 「エウラリアも何も言わないだろう?」

 王子はマルタにエウラリアを指差して見せた。

 職からして、神を一番に信じている筈のエウラリアが黙っているのだし。


 「大丈夫ですよ」

 エウラリアもマルタを宥める。

 「神の心はとても広いのです……御布施さえチャンと渡せばそれで赦されるのです」


 「御布施?」

 マルタが不思議な顔をした。


 「御布施を誤魔化すのは大罪です……神罰が下ります」

 エウラリアが真面目な顔で。


 「この世の神は金次第って事だな」

 王子もそれに頷いた。

 もうそれは事実だと理解している。

 神はごうつくばり……だ。


 マルタだけは何か苦い顔をしていた。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。

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