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054 王子の初めての敗北


 ビスキュイと組み合っていたアルミラージがその短い手を振り払い、突然に後ろに飛んだ。

 離れた位置でしゃがみ込んで低い姿勢を見せる。

 相変わらずに電気を全身に纏いながらだ。


 そして、その姿勢は王子も知っていた。

 「体当たりだ」

 かすれる様な声で、ビスキュイに指示を出す。

 ウサギの攻撃はこの姿勢からだったからだ。


 その指示が届いたのか、ビスキュイは体を丸く縮めて下を向いた。

 逃げる、避けるでは無くて、その攻撃を受け止めると判断したのだ。

 そこにアルミラージが突っ込んだ。

 電気の帯びた尖った角が、ビスキュイの額に当たる。

 ガンと音がして、両者はまた離れた。

 

 ビスキュイの額にもアルミラージの角にも……どちらにも傷一つ見られない。

 

 今度はビスキュイが走り出した。

 その硬い頭をアルミラージ目掛けてぶつける様にだ。


 だが、アルミラージは避けるを選択する。

 速さの魔物が敵の攻撃をマトモに受ける筈もない。

 どんどんと広場の奥へと移動していく。

 ビスキュイがアルミラージを追い詰めている様にも見えるが……。

 実際は違った。

 余裕でかわしていたアルミラージに、ビスキュイが誘われたのだ。

 

 王子達の位置とビスキュイの位置が大きく離れた所で、もう一度アルミラージが屈み込む。

 そして、飛んだ方向はビスキュイの横をかわして……マルタの治療を続けていたエウラリアの二人の方だった。

 走るアルミラージ。

 それに気付いて追い縋ろうとするビスキュイ。

 だが速さには歴然とした違いが有る。

 

 もちろん先に届いたのはアルミラージ。

 マルタとエウラリアを、電撃と体当たりで吹き飛ばした。

 そして、その場所から今度は王子に向けて飛ぶ。

 それにもビスキュイは間に合わなかった。

 角の先が王子の腹を抉る。

 背骨が折れて砕かれる感触も初めて知った。

 ……。

 が、その先は……もう何もわからなく成った。

 

 王子はそこで、死んだのだ。




 暗い何も無い空間で、王子は目覚める。

 目の前には……中に浮いたいつかの半透明な女性。

 スライムのダンジョンで、ガチャの隣に居たヒトだった。


 「死んでしまうとは……情けない」

 その女性の最初の言葉だった。


 「ここは……死後の世界?」

 王子は間抜けな質問をした。

 死んだと成れば……それしかないのだから。


 「君は自分の死を疑わないのだな」

 

 「あの状況の後で……貴女に言われたからね」

 

 「私を知っているの?」

 不思議そうにした女性。


 王子もその問には首を捻る。

 「以前の……スライムの転職ダンジョンで……」

 確かにあの時の女性だと断言できる。

 こんな綺麗な人を間違える筈もない。


 「ああ……そうなの?」

 

 この女性は王子の事を忘れているのだろうか?

 王子はハッキリと覚えているのに、その相手に忘れられているのは……少し悲しくなる。

 それが美人なら特にだ。

 

 「別に忘れているわけじゃあ無いわよ」

 半透明な美女は王子に微笑みかけた。

 「貴方が以前に会ったのは転職ガチャの管理者で」

 女性は自分を指差して。

 「私は……蘇生ガチャの管理者」


 「別人?」

 王子には別人と言われてもその区別が着かない程に似ている。

 記憶が薄れるにも、勘違いするにも……ほんの数日前では、そんな事は有り得ない。

 どう見ても同一人物にしか思えなかった。

 

 「そうね……別人」

 そして、もう一度笑う。

 「そして私が自由に話せるって事は……貴方は特別なのね」


 「特別……前の時も、そんな事を言われた」

 違うと言うならそうなのだろうか?

 王子にはとてもそうは思えないのだが。


 「貴方が、その転職ガチャの管理者を覚えているって事は……その時に、制限が外れたのね」


 「覚えてと言うと……普通は忘れるのか?」


 「そうね……ダンジョンの記憶は曖昧に、ガチャの事も管理者の事も覚えては居ないのが普通ね」


 「ハッキリと覚えているのだが……」

 顎に手を当てて考える素振りで。


 「そうね、でもこの事は誰にも言ってはイケナイわよ……そうしたら、折角の特別が消えてしまうわ」


 「それは以前の時にも言われた、記憶が無くなると」


 「今、こうして話せているって事は、その約束をキチンと守ってくれたのね」


 そう問われて、素直に頷いた。

 別段、その機会が無かっただけだが……在ったとしても決して言わないであろうとは決めていたからだ。


 「そう……では、安心して蘇生ガチャを始めましょうか」

 

 「蘇生ガチャととわ?」


 「そのままの事よ、蘇生出来るかどうかのガチャを回すのよ」


 「蘇生とわ……生き返るって事だよね?」


 「そうね」


 「それは、俺が特別だからか?」


 「違うわ……全ての人に平等に与えられた権利よ」

 

 「そんな事……聞いた事もないが」


 「みんな、生き返っても忘れるから」

 

 それには首を捻る。

 死を忘れるのか?

 寝ている間に苦しまずに死ねば、夢かもと思うかもしれないが。

 王子は明らかに死ぬ様な目に会ったのだが……アレを忘れるのか?

 例え忘れたとしても、おかしいと思う筈だが。


 「辻褄の会う記憶も上書きされるのよ」

 考え込んだ、王子の疑問に答えてくれた。


 記憶が消せれば……改竄も出来るのか。


 「それに全員が生き返るわけでもないし……それは確率次第」


 「その確率は……低いのか?」


 「まずは平等に50%ね……そこからマイナスする事のレベルよ」


 「レベルが1なら……49%?」


 「そう、Lv50なら……0%に成るわね」


 「それが……平等」

 また首を捻る。

 「でも……なぜ?」


 「そうでないと、こんな魔物の居る世界では人は絶滅していたでしょうね」

 蘇生ガチャの女性はそう答えた。


 産まれ立ての赤ん坊や、子供はレベルは1だろう……それは子供の生存率を上げる。

 でも、魔物を倒せる様にレベルを上げれば、蘇生の確率は下がる。

 外壁に守られた町から一歩も外に出ないのなら……レベルが1でも良いだろう。

 けど、外壁の無い村や……他の町や村に行くには外に出なければイケナイ、それにはレベルが必要だ。

 最大で49%では、二度死ねば……生き残れない。

 実際にはその都度のガチャなのだから、毎回49%なのだろうけど。


 そう言えば、ギルドで経験値を売っている老人達が居たが……アレも利にか成った行動だったのか。

 その事を、経験で知っていた?

 違うか……知っていたなら、もっと話が広まっている筈。

 昔はそれは知っていて当然で、今はその話を忘れられたが、風習か何かで残った?

 良くはわからないが、何処かに理由が在ったのだろう。


 「もう良いかしら?」

 考え込んだ王子に、女性は即した。

 

 「ああ……御願いします」

 わからない事を考えても仕方無いと、王子は女性に頷いた。

 「エウラリアやマルタも……同じ事を言われて居るのだよな?」

 それでも聞かなければいけない事が有った。

 

 「パーティーリーダーは貴方だから、この話は貴方だけよ」

 女性は手を左右に大きく振ると、王子の左右に立派な棺桶が現れた。

 「貴方が三回……ガチャを引くの」

 右の棺桶を指差し。

 「一人目の仲間の分」

 左の棺桶を指差して。

 「二人目の仲間の分」

 そして、王子を指差し。

 「最後に貴方自身の分」


 ゴクリと唾を飲み込んだ王子。

 二人の生き死にが王子の肩に重くのし掛かる。


 「では……どうぞ」

 女性は王子に声を掛けると、王子の目の前にガチャが現れた。

 今回のサイズはそれほど大きくは無い。

 王子の腰ほどの高さのヤツだ。

 そして、中にはカプセルが詰まっている。

 

 「これが……確率?」


 「そう、丁度100個よ」


 「当たりは……40個か……」

 王子のレベルは10だから、引く事の10だ。

 いや、エウラリアやマルタはLv11か?

 なら、39個だ。

 王子はそのガチャの中身を覗いた。

 半分が透明なカプセルだが、中身は全てが同じ様な茶色い紙が筒状に巻かれているモノが入っている。


 女性も同じ様に覗いた。

 「あら? おかしいわね」

 その女性……少し首を捻る。

 「数が合わない」


 「少ないのか?」

 慌てた王子は、その答えを尋ねた。


 「多いのよ」

 ガチャの中身を数えだした。

 「78個も有る……」

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。

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