053 ウサギの当たりのダンジョンのボス
ウサギの当たりダンジョンの攻略は順調に進んだ。
それはそうだろう、経験値を稼いでレベルが上がる前からそれなりに戦えて居たのだから。
そして、今は王子もLv10に成っている。
もちろん傀儡士もだ。
そして、得たスキルは、王子が ”先送り” と。
傀儡士は ”人形合体” だった。
”人形合体” は、そのまま合体だ。
プペとアンが合体してビスキュイに変わる。
例の巨大化だ。
だが、まだレベルが低いのか……1.5mサイズだが、それでも強く成った。
前に出て盾役がこなせる程に頑丈だ。
真っ裸に成るのが少し残念だが、それも仕方無い。
しかし、この合体はプペとアンだから出来る事だろう。
最初の人形が、この二体以外ならどう成ったのだろうか?
例えば藁人形とか……マネキンとか……だ。
もしかすると、Lv10で得られる傀儡士のスキルは、その時の人形の固有スキルか何かなのだろうか?
今、プペとアン以外に別の人形も所持していれば……背中に背負っているドラゴンのヌイグルミを見て、コレが動いていれば ”人形合体” にプラスして何かもだろうか?
ドラゴンだから火を吐くとかかな?
まあ、今無いモノを考えてもしょうがないと笑うしかないが。
そして、もう一つのスキルは……これは王子のスキルなのだろう。
”先送り” すべての結果の先送りとある。
つまりは、これを発動させて、魔物を叩くとその時点ではダメージは入らない。
その状態で、二度三度と叩いてから ”先送り” を解除すると蓄積されたダメージが一気に襲うとそんな感じだ。
ただ、ダメージ量がそれで増えるわけではない。
だから、普通に叩いても結果は同じだ。
……。
これはどう使うモノなのだろうか?
先送りと聞いてイメージするのは、どっかの政治家が問題を次の世代に押し付けるってそんなイメージなのだけど……時間が解決するとか何とかのいいわけで。
だけど実際は、その問題は時間と共に雪だるま式に大きく成る事が殆どの筈。
……王子としてのスキルなら、その使い方が本当なのだろう。
有識者に確認してから、とか。
暫く様子を見よう、とか。
を口にする時にでも発動するのだろうか?
結果は酷い事に成りそうだが。
まあ…… ”先送り” の使い方を考えるのを先送りするか。
と、メイン・ボードを確認しながら歩いて居ると。
イキナリ開けた場所に出た。
そして、そこは明るい。
以前では、巨大なガチャが在った場所にも似ている。
もちろんそのガチャは、今は見えないが……って事は、ここは最後の部屋?
今回で言えば……ボス部屋。
そう考えが及んだ時に、背後の通って来た通路が閉じられた。
岩肌の壁が動き、自動扉が締まる感じだ。
そして、上と左右の広い何も無い部屋に三人と二体が取り残される。
「え!」
「なに?」
エウラリアとマルタが慌て出した。
「ウサギの当たりのダンジョンのボスが来るぞ……」
王子はそれが何処から来るのかと、首を振り回して目線を走らせた。
何処からだ?
何処かの壁が開くのか? 後ろの通路が閉じた時の逆の様に……。
だが、壁は動かない。
広場の中央に白い霧の様なモノが集まり、それが型を成していく。
倒したウサギの肉体が消える、その逆再生の様だった。
そしてその霧が晴れたその後に、三匹の魔物が現れた。
左右にウサギを従えたアルミラージだ。
「こんな登場の仕方か」
王子は桧の棒を構えた。
そして、叫ぶ。
「プペ! アン! ビスキュイに合体だ!」
足元に居た二匹の人形は、お互いの左腕を重ねて混じり合い……強大化した。
1.5mの二頭身の裸の球体人形。
赤ん坊を模したフランス人形って感じか。
髪型もポニーテールがツインテールに変わり。
そして名前も変化する……今はビスキュイだ。
サイズが二倍以上に成ったので、それまで使っていた足軽蟻の槍は短すぎて使えない。
だから、そのまま素手で中央のアルミラージに向かって行った。
スキル的には ”格闘” を使うのだろう。
アルミラージとガップリ四つで組み合うビスキュイ。
「今のうちに、雑魚のウサギを倒すぞ」
王子はエウラリアとマルタに指示を出し、そして自分も走り出す。
ウサギ二匹なら、今までと変わらん。
王子はその一匹に桧の棒を振り下ろした。
それを簡単にかわすウサギ。
それも仕方無いか……今は押さえる役のアンとプペはビスキュイと成ってアルミラージを押さえている。
なら、エウラリアのマヒ毒で……と、振り返れば。
そのエウラリアのマヒ毒もかわされて居た。
広くなったボス部屋では、速さを生かして縦横無尽に走り回るウサギ達。
それを捉えきれる者は居なかった。
それはウサギの攻撃を見切る事も出来ないと……意味する。
王子は腹にウサギの頭突きを食らった。
速い速度で走り、低い体制でジャンプして……身体ごとぶつかるウサギの体当たりの様な攻撃だ。
脳に痺れを送り込む程の痛みが襲う。
それでも倒れる事無く棒を振るう王子だが、闇雲に攻撃しても掠りもしなかった。
ジリジリと追い詰められた三人……王子とエウラリアとマルタ。
ビスキュイはアルミラージと組み付いて、一歩も動けない状態。
三人で固まった状態で、マルタに声を掛けた王子。
「……罠爆弾は使えないのか?」
王子は地上でのウサギとマルタの対決を思い出していた。
「無理……人形達の援護も無いから、罠を仕掛ける隙がないの」
マルタは半泣きだった。
エウラリアはもう、マヒ毒は諦めたのか……それとも使いきってしまったのか。
王子とマルタの体に触れて、覚えたてのヒールを唱え続けている。
一回の回復量はしれて居るので、何度も複数回だ。
「それでも回復が有るのは有難い……」
王子の呟きが、エウラリアにも聞こえた様だ。
「マヒ毒が届かないから……これしか出来ない」
「それももう無いのだろう?」
「あと……一回分だけ」
「まだ、有るのか……」
王子は考える。
速すぎて逃げられるのだから、掴まえればいい。
アンとプペの軽い体の二人でも押さえ付けられたのだ……王子の体重ならそれも可能だ。
捕まえるタイミングは……王子が体当たりの攻撃を受けた瞬間か。
痛い思いはするが……エウラリアの回復は有る。
「マヒ毒の用意をしていろ」
王子はそう告げて、固まった集団から一歩……前に出た。
その王子目掛けて、一匹のウサギが走り来る。
王子は桧の棒を捨てて両手を広げた。
ウサギの頭突き。
それを体を折り曲げる様にして受け止めて、全身で押さえ付けた。
そして叫ぶ。
「俺ごとマヒ毒をぶつけろ!」
躊躇するエウラリア。
王子はもう一度叫んだ。
「痛いんだから、急いでくれ!」
と、同時に粉が舞う。
痛いと言う言葉にエウラリアが反応してくれた様だ。
体の自由が奪われると感じた王子。
筋肉が硬直して、全身が腓返りを起こした様だった。
王子の持つ耐性にはマヒは無かったのだからそれも仕方無い。
それでもウサギの一匹は無効化できた。
後は二人に任せるしかない。
虚ろに成る視線をその二人に向けた。
王子と目と目が会ったマルタは、泣きながら何かを叫んでいた。
王子の耳ではその意味を捉えられない無意味に聞こえる叫び。
そして、マルタは一人で残りの一匹のウサギに向かって走り出した。
何をするのかと、それを見ていた王子は動けないまま。
その、マルタは王子と同じ事をしたのだ。
ウサギに相討ち覚悟で抱き付き……そこまでは同じ。
違うのはそこから、マルタは自爆したのだ。
もちろん自爆そのもにマルタはダメージを負わない……が、そこまでのウサギの攻撃は通っている。
ガッチリと受け止めるには強烈な攻撃をマトモに受けるほかない。
視線の先に踞るマルタを指して。
「エウラリア……マルタを」
王子の治療をしていたエウラリアに向かって叫んだ王子。
マルタの傷は致命傷と迄はいかなくても相当なダメージの筈だ。
そしてアルミラージを見た。
王子も動けない。
マルタも駄目だ。
今はビスキュイが抑えてはいるが……その拮抗状態がいつまで続くか。
そしてその方向……ビスキュイの方に傾いてくれればそれで良いのだが、はたしてどうだろうか?
アルミラージはバチバチと雷を鳴らしながらに、ビスキュイを押し込もうとしていた。
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