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050 見返りの無い御願い


 王子は、自分に少しばかりだが……ガッカリしていた。

 ヒールとヒールを思い間違えるとは……。

 回復専門職のエウラリアがヒールと言えば……回復魔法と為るのは当たり前。

 確かに女の子なのでは有るが、履く方のヒールと何故に間違える。

 ……確かに踏み付けて攻撃はしていたが。


 「それ……いらないのか?」

 箱の中に収まっているヒールを指差した王子。


 少しだけ考える仕草を見せたエウラリアだが。

 「これはこれで貰っとく」

 箱の中から出したヒールを、床に置いて履いて見せたエウラリアだった。


 装備品であるヒールに足を入れると、シュルっとサイズが変わり、エウラリアの小さい足にフィットした。

 宿屋の借りた三人部屋をコツコツと歩いて見せる。


 「これ、見た目と違って歩きやすい」

 ピョンピョンと跳び跳ねて。

 クルクルとその場で回って見せると、ローブの裾がヒラリと舞う。

 実際に履いてみると、とても嬉しそうな顔に変わっていた。


 それを、羨ましいそうに見ているマルタを見て、王子は。

 「マルタも買うか?」


 「どうしよっかな」

 と、悩みだす。

 「足……痛く成らない?」


 「大丈夫みたい、サンダルと変わらない感じ」

 もう少し複雑な足の動きを見せて。

 「軽い感じで動きやすい……マルタも履いてみる?」

 エウラリアはヒールを脱いで、マルタに貸してやった。


 「ホントだ」

 ヒールを借りたマルタも、さっき迄のエウラリアと同じ様に動いている。


 王子はそれを見て、感心してしまった。

 見た目はとても履き難そうに見えるのに……。

 と、箱の中に紙を見付けた。

 説明書きみたいだ。

 そこには、”舞踏会でも履ける武道家専用装備” と有る。

 ……ヤヤコシイ。

 でも、戦闘用でも有るようだ。

 踊る様に動けて、実際に踊れるらしい。

 そんな魔法の靴だった。


 「だって」

 説明書きを二人にも見せると、マルタが。


 「私も買ってくる」

 そう告げて、部屋を飛び出して行った。


 格闘家用の靴なのだが……何を目指しているのだ? とは言わない。

 喜んでいるのだし、欲しいと言うならそれで良いと思う。

 部屋に残ったエウラリアは相変わらずに踊っている。

 その足元のプペとアンも、同じ様にクルクルとだった。

 

 

 それを微笑ましく見ていた王子は、気付いた。

 「あれ? そういえば……エウラリアは治った?」

 腰が抜けていた筈なのだが。


 「少し休んだら、もう大丈夫」

 エウラリアの声も弾んでいた。


 「そうか、なら」

 王子はギルドで売らなかった、ウサギの当たり札を出して。

 「明日は、ここに行こうか」

 今日はもう夕方だし、明日だな。


 そこにゼノ達が帰って来た。

 「あら、楽しそうね」

 部屋に入るなり、踊るエウラリア達に驚いたリサが声を掛ける。

 

 その後ろに続いたゼノとガスラは渋い表情だ。

 何か有ったのだろうか?

 そのゼノはリサの肩をポンと叩く。

 と、リサが楽し気な顔のままに王子に向き直り。

 「ねえ、あなた達は……明日はどうするの?」

 そう聞いてくる。

 その表情は造り笑顔にも見えた王子は逆に尋ねた。

 「何か有ったのか?」


 顔を見合わせたゼノ達、三人。

 

 王子は続けて、明日の予定を告げる。

 「明日は当たりのダンジョンに行って、その後は暫くこの町に居ると思う。新しく武器を造って貰う事に成ったから」

 リサが王子達の予定をわざわざ聞いたのは、王子達と別行動に成らなければいけない用事でも入ったと、そういう事だろうと予測したので、それを話易い様に先に自分達の予定を告げたのだ。


 「そうですか……」

 話始めたのはガスラだった。

 そのまま『有難い』と、でも続けたいとそんな顔だが。

 「少しばかり面倒な事に成りまして」

 そう続けた。

 

 王子は黙って話の続きを待つ。


 「町の周りの魔物の討伐を頼まれまして」

 

 「仕事か……それは良い事では?」

 本来の仕事では無いかも知れないが、一応はフリとはいえ冒険者を名乗っているのだから仕方の無い事だろう。


 「それが……」

 少し苦い顔に変わり。

 「依頼では無くて御願いなのですよ……つまりは仕事でもない」


 「なんだそれは?」

 魔物退治も命を掛ける事には違い無いのに、それを見返りの無い御願い? そういう事だよな。


 「冒険者ギルドからの御願いです……意味がわからない」

 リサも吐き捨てた。


 「なぜ……そう成った?」


 「結局は予算です」

 ゼノも苦虫を噛み潰す様に。

 「領主が金を出さない……が、魔物はどうにかしろと口は出す。それをギルドの職員に相談されました」


 「それを飲んだのか?」


 「殆ど脅しですよ」

 ゼノが続けて。

 「魔物を退治しなければ、市民の安全は保証できない。もちろん魔物に喰われても補償も無い……それを見捨てるのか? とアルミラージを売る時に預けた私達の冒険者カードをチラチラと見せてです」


 領主は市民には自己責任で何とかしろと告げて、それを今度はギルドが、通り掛かりの冒険者に押し付けた?

 断れば冒険者カードにでも難癖を書き込むか何かか?


 「ここのギルドは腐っているのか!」

 語気も荒くなる王子。


 「ギルドも切羽詰まっているのでしょう……問題は……」


 「領主か」

 命の掛かる事を頼み事で済ますとは……それをさせた奴が悪いのか。

 しかもその領主は一度も顔を出していない。

 頼み事も人任せだ。


 段々と腹の立って来た王子は。

 「俺が一言、言ってやろうか?」

 自分が王子である立場を公にしていない事も忘れて怒鳴る。


 しかし、その王子の怒鳴り声に驚いたのは、ゼノ達の三人。

 自分達の立場を思い出したのか、それとも王子が表に出てしまっては大事に成りすぎると感じたのか。

 それとも、王子の事が心配に成ったのか。

 とにかく、慌てて止めに入った。


 「いえ……そんなわけで明日は1日居ないので……」

 その先は言葉に詰まる。

 気にしないでくれとか心配するなとかと、言える立場でもない。

 もちろん、だから町から一歩も動かないでくれとも頼めない。

 隠密の護衛なのだから。 

 

 王子にしては、もう既にわかっている事なので面倒臭くてしょうがないのだが、それでもゼノ達の本当の仕事なのだから多少の気を使って知らないフリは続けようと努力はするが。

 しかし、腹が立つ。


 そんな王子を察したのか、ゼノ達は。

 言葉もそこそこに部屋を出た。

 もう一つの借りた部屋……隣に向かったのだ。

 その後ろ姿を見送った王子も、余計な気苦労をさせてしまったか……と、少しの反省もする。


 「まあいい……明日はそのままの予定の当たりのダンジョンだ」

 語気は強いままで、呟いた。

 もちろん出ていくゼノ達にも、聞こえるようにだった。




 さて、翌朝。

 先ずは武器屋に顔を出した王子。

 新しい棒は今日に夕方には渡せると言う。


 「えらく早いな」

 嬉しくも驚いたの王子は、声に出して喜んだ。


 「はい、良い素材のアルミラージが昨日手に入りまして」

 ニコニコと答える武器屋の親父。


 「あ! それ昨日、ギルドに売ったやつ?」

 マルタもそれが武器の素材に成る事に驚いていた。


 「え? あなた達が売ったんですか?」

 輪を掛けて驚いた親父。

 

 「そうだよ」

 マルタが倒したわけでもないのに、何故か鼻を高くして。


 「そうでしたか、お陰で良い王笏擬きが造れそうです」


 擬きと来たか。

 「にしても早くないか?」


 「柄の部分は、穂先の壊れた槍が有りましてそれを加工しようかと……」

 

 「壊れた槍?」


 「あ! いえ」

 慌てた親父が。

 「柄の部分には問題は無いのです。それどころか世界樹の素材の柄でして、とても良いモノです……それを長さを調整して再利用しようかと思いまして」

 

 「成る程……」

 中古品か? とわ聞かない。

 変わりに。

 「では、楽しみにしているよ」

 そう告げて、武器屋を出た王子だった。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。

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