048 服屋で買い物
腰の抜けたままのエウラリアを宿に残して、町を歩く王子。
横にはマルタも着いて来ていた。
日が沈む迄の短い時間だが、買い物に行くと告げると私もと手を上げたのだ。
町並みと、そこに並ぶ色んな店をキョロキョロと覗いては移動する。
王子が先ず行きたかったのは、服屋だ。
焼けて穴の空いたシャツはサッサと着替えたい。
それ以外にも気になる店は有ったが、ヤハリ服が先だ。
今の格好で、武器屋や防具屋は恥ずかしくて入れないからだ。
「あそこは?」
マルタが指差した店は、少しお洒落なディスプレイが大きなガラスの向こうに飾られている。
そんな感じの服屋だった。
「入ってみよう?」
マルタはショーウインドウに飾られた、マネキンを見いったままに王子を誘う。
可愛い感じの女の子のマネキン。
幾何学模様を編み込んだカラフルなポンチョを着ている。
足元は白色のハイヒールだ。
王子は、あれ? っと思い出す。
「確か、エウラリアはヒールが欲しいって言ってなかったか?」
マネキンの足元を指差した。
「ヒール?」
小首を傾げたマルタ。
「確かに言っていたけど……」
「エウラリアには攻撃手段が無いからな、あれで踏まれたら痛そうだ」
「……ん?」
マネキンのハイヒールを見る。
「そういう……こと?」
「前にスライムを踏んづけて居たからな、エウラリアの攻撃はあれしか見てないし」
「そう……なんだ」
納得いったのか、いってないのか。
本人にもわからないとそんな様子だ。
そんなマルタの手を引いて、店の中に入った王子。
スグに店員を見付けた。
いかにもお洒落ですよって顔をした、たぶんお洒落な服なのだろうを着ている女性だった。
一瞬、身構えてしまった王子だが、それでも勇気を出して聞いてみた。
「そこに飾ってある、ヒールだけど……サイズは有る?」
エウラリアもマルタも同じ年で、同じくらいの身長なのだから、足のサイズも変わらんだろうと勝手に予測して。
だけど店員の返答は少し違った。
「あれは、装備品で魔法具でも有りますから、装備者に合わせてサイズも変わりますよ」
「成る程……それは都合が良い」
「色はどうしますか?」
マルタのローブを見たのだろう。
「黒?」
「いや、白色で頼む」
エウラリアにだから、ローブに合わせる方が良いのだろう。
白魔法使いでも有るのだし。
白色にはこだわる筈だ。
王子のかってな思い込みだが、外しては居ないと思う。
店員はショーウインドウに飾ってあるヒールをそのまま手を伸ばして掴まえた。
それをくれるのだろう。
その店員に。
「男物のシャツは無いだろうか?」
王子は自分の袖を見せる。
「魔物にやられてね」
「ああ、災難でしたね」
小さく頷いて。
見事な営業スマイルを見せて。
「色々と取り揃えておりますよ」
いったんヒールをカウンターに乗せて。
「こちらです」
店の奥まった所の棚を手で指した。
色々とと、言われたが……余り種類は無いようだ。
棚の一角だけ。
うーんと唸る王子。
一着を手に取り拡げてみる。
白いシャツで胸元にヒラヒラも有る。
肌触りは絹の様だが……少し違う気もする。
「そちらも装備品ですよ」
店員は勢い込んで、王子に勧めた。
「優れた防刃性と防水性も兼ね備えた逸品です。しかも絹に限り無く近い肌触りで着心地も抜群……お客様の赤いマントとも相性は良いと思いますよ」
「うーん、良い品だとは思うけど」
王子は自分の下半身を見る。
赤いカボチャパンツに白いタイツ。
その上に白シャツは……どうなんだろう?
その目の動きを見ていた店員は、サッと隣の棚から、ズボンを出してきた。
「こちらの黒いズボンも装備品です。しかもこちらにも同じ耐性が付いていますよ、色合いも良いですし」
肌触りは言わないのは、王子も触ってみてわかった。
少しゴワついている。
まあ、ズボンなのだから、それでも問題は無いのだけれど……。
「防刃と防水か……」
雨に濡れた経験からは、確かに良いかもと思ってしまう。
地味だが……。
唸る王子に店員は、もう一段と押してきた。
「上下でお揃えなさるなら、今ならボウタイとベルトもお付けしますよ」
ササッと、出してきて、ズボンを持つ手にかける。
それらを見比べる王子。
「一度、試着されてはどうですか?」
決めかねているのは、悩んでるとだけと解釈した様だ。
奥の、小部屋に通される。
そこには全身が写る鏡も有った。
着替えては見たもの、ヤハリに地味だ。
王子の趣味では無い。
「いかがでしょうか?」
「うーん……悪くは無いのだが……」
王子がそう答えると、店員は扉を開けて入ってくる。
返事の仕方で着替えが終わったと判断できる技を持っているようだ。
そして、靴下を手渡されて……足元には黒い革靴まで並べられていた。
フルセットで売る気だ。
「それも装備品?」
「はい、靴下も靴もですよ」
もう細かい説明もない。
一応の抵抗に。
「なんだか、執事か文官が着てそうだが……」
店員には、その言葉を遮られた。
「お似合いですよ」
ニコニコと。
グイグイと。
まあ……選択肢も無いのだし。
装備品と言うなら、それでも良いか。
と、無理矢理自分を納得させた。
圧が凄すぎたのだ。
「全部で、幾らだ?」
「おまけして、金貨一枚です」
「ヒールも含めて?」
「え?」
店員はカウンターのヒールを見て。
「あちらは、穴あき金貨一枚です」
それは別な様だ。
王子は頷いて、脱いだ服から大金貨と小銭を出す。
数えると少し足りない様だ。
「マルタ、確か金貨を預かってくれていたよな?」
「はい、でも王都の時のお釣りがまだ有りますからから」
と、ポケットから穴あき金貨を出してくれた。
「服は、このまま着ていくから……構わないよな?」
「はい、もちろんです」
ヒールは、紙の箱に入れて渡してくれた。
それは、マルタに預ける。
魔法の鞄はそれくらいは簡単に入るからだ。
マルタもそれで文句も言わない。
「そう言えば、マルタは服は良いのか?」
「もう、買っちゃいましたよ」
自分の鞄をパンと叩いたマルタだった。
いつの間にだ!
いまいち納得はしていない王子だが。
それでも新品の服だ。
気分は悪いわけもない。
店を出て、通りを歩く。
その王子の鼻をくすぐる良い香りがした。
そちらを見ると、果物屋だ。
ひときわ目立つ、赤色が目に入る。
「リンゴか……美味しそうだな」
「ほんとだ」
マルタも鼻をヒクヒクとさせていた。
「買って帰るか?」
「そうだね」
大きく頷いたマルタ。
その二つ返事は、たぶん王子と同じ気持ちな筈だ。
エウラリア抜きで、服屋で買い物。
少し……本当にチョッとだけ悪いかな? って気に成ってるのだ。
確かにヒールは買った。
エウラリアの分だが……それ以上に王子もマルタも買っていると感じているのだ。
なぜだろう……ほんの少しの引け目?
そんな良くわからない気持ちで、袋一杯のリンゴを買ったのだった。
でも、美味しいそうなのは確かだ。
そして、また歩く。
今度は、防具屋に入った王子達。
そこは、来る途中で見付けて居た店だ。
破れた服では入りづらいと、行きは素通りしたが。
今は堂々と入れる。
が、入ってから気付いた。
もう、王子の装備は揃っている。
今さっき、服屋で買ったばかりだ。
それに……流石は防具屋だ。
見事にゴツイ。
フルプレートアーマー?
金属の胸当て?
革の装備品?
籠手や盾も、モノモノしい。
一通り店の中を歩いた王子は、これはチョットと上を向いた。
と、マルタが帽子を見付けてきた。
「これなんか、似合うんじゃあない?」
赤色のつば広の帽子だ。
白い飾り羽がワンポイントに成っている。
「それは良いよ」
店の親父が、イキナリ声を描けてきた。
「硬い革の帽子で、これから雨が多くなるこの時期にはピッタリだよ」
「と言うと……これも防水?」
「防水というよりもだ」
親父は大仰に。
「そいつは、雨が降ると大きな空間を造って、体全身を濡れなくするんだよ」
そうなのか?
なら、これ一つで……さっき買った服の意味が無くなる?
「もちろん打撃耐性も上がるぞ」
これもさっきの服屋では言われなかった事だ。
「防刃は?」
「そんなのは、当たり前に付いているよ……防具だぜ」
大笑いの親父に、苦笑いで返すのが精一杯の王子だった。
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