046 アルミラージ
アルミラージの出現と共に動き出したゼノ達。
王子達の前に出るという事は……この魔物は王子達のレベルでは手に負えないって事だろう。
王子とエウラリアを守るべく、前に立ったリサに聞いてみる。
「コイツらは……レベル幾つ?」
大剣を構えて、周囲を警戒していたリサは……それでも答えてくれた。
「20相当です、ただしそれはダンジョンの中での話で……」
話の途中で飛び付いて来た一匹を凪ぎ払う。
だが、ダメージを与えたというよりも、弾き飛ばしたとそんな感じだ。
「ここの様な広い場所では……速さと魔法でその厄介差が上がる……」
「本来はダンジョンの魔物なのか?」
王子も桧の棒は構えてはいるが、どう戦って良いのかがわからない。
「ダンジョン限定では無いですが、この辺りでは余り地表には出てきません」
「それはなぜ?」
「レベルを上げる魔物が少ないからです」
成る程……風船イカやスライムではもうレベルアップが望めないから、ダンジョンの中で経験値の稼げそうな奴を探しているのか。
蟻が飼育していた鶏は例外としても……アレもダンジョンに連れて行き成長させたのだろう、だから横に居たのはサムライ蟻だったのだろうし。
それ以外でもせいぜいウサギだが……あれは形的に見てもアルミラージの進化前……って事は同類だから餌にはしない感じか。
「では何故に地表に?」
風船イカの湧いていた崖の下がダンジョンなのだから、近いと言えば近い。
「さあ、わかりません……子供でも産んでいたのか、それとも兄弟を育てていたのか? ですかね」
また一匹、飛び込んできたアルミラージを弾いた。
リサの大剣は切る事よりも叩くといった剣技なのだろう、その場合は軽い相手だとダメージも半減か?
弾き飛ばされて転がされてもスグに立ち上がる。
上から叩いて地面と挟めば力も乗るのだろうが……それをやるには速さが邪魔するのか。
そのリサに飛ばされたアルミラージをガスラが後ろから切り伏せた。
仕込み杖で一閃。
紙を切るように刀だけがスッと動くと、魔物は上下で二つに為った。
強い。
だがガスラには積極的に動ける速さは無かった。
向かって来る敵をカウンターで斬る。
向かって来ないなら魔法で攻撃……だが、その魔法はアルミラージには躱わされていた。
それでも今ので二匹を倒している。
最初の一匹は、マルタの居た側に転がっていた。
そのマルタは、ガスラの後ろに守られていた。
そして、王子達と合流。
「残り三匹か」
リサがガスラに確認をするように。
六匹居た筈のうち、二匹はガスラだ。
目の前のリサはまだ一匹も倒しては居ない。
と、周囲を見れば……ゼノが少し遠い所で戦っていた。
片手剣の切れ味はガスラ程の事も無いが、それよりも動きが速かった。
速いアルミラージと同等の速度で動いている。
そして、何発かの攻撃で魔物を倒した。
「残り二匹」
ゼノが何処かで既に一匹、倒して居たのだろう。
そのゼノが叫んだ。
「来るぞ!」
王子が見ていた方とは違う方向から、青い火花を飛ばした塊が飛んで来た。
直接に当たったわけではない。
王子達の手前でそれは爆発した……のだが。
ビリビリと痺れる感覚と同時に痛みが襲う。
「魔法か?」
呻く王子に、感心した声を掛けたガスラ。
「今の雷魔法の痺れを耐えたか」
「痺れ?」
「マヒだ」
ガスラはマルタとエウラリアを指した。
二人は全身に青い瞬きを纏って、硬直した様に動きを止めている。
それは、目の前のリサもそうだがマヒに為る程では無いのだろう。
動きの制限は有るが止まっては居なかった。
「今のは……マトモに食らってしまったな」
ガスラが苦笑いしている。
「アルミラージの雷魔法は、小範囲魔法だから……食らっても仕方無い」
リサは始めから食らう事を諦めて居たようだ。
「それよりも魔法は撃てるか?」
「駄目だな、痺れが詠唱に影響している様だ……復帰には暫く掛かる」
ガスラの魔法は封じられた様だ。
そのガスラ、体の動きも少しギクシャクして見える。
「暫くは耐えるしか無さそうか……」
リサが飛び込んで来たアルミラージに剣を振るったが、それは掠めるだけ。
攻撃を躱わした魔物は体を捻り、後ろ足でリサの腹を蹴飛ばした。
角には雷の魔法の残り香か? 青いモノをパチパチと纏っている。
そして、その顔は笑っている様にも見えた。
痺れで動きを制限すれば、もう勝てたとでも思ったのだろうか?
ユックリとした動作でシャガミ込んだアルミラージ。
尖った角をリサに向ける様にして、狙いを定めている。
そのまま、微妙に体を揺らし、真っ直ぐにリサに向かって跳んだ。
攻撃に備えて剣を構えたリサの動きは遅れている。
そこに、草の影からプペとアンが飛び出した。
陶器の体に痺れ等は無縁だと、普通に動いている。
そして、油断して大技を出そうとしたアルミラージを捕まえるのは簡単だった様だ。
二体同時に飛び付いた。
慌てたアルミラージ。
自身に電気を流したのだろう、全身にバチバチと光が走る。
敵に掴まれても、本来ならそれで逃げられるのだろうが……プペとアンには意味は無い。
地面に引き摺り落とされたアルミラージを、王子が桧の棒で叩いた。
どうも、この中では王子が一番に動ける様だ。
そう言えば……マヒ耐性を持っていたと思い出す。
ガスラもリサもそれは持っていないのだろう。
地面に落ちたアルミラージを王子が一人で叩いている。
必死で何度も叩いた。
「マトモに動けるのは俺だけか?」
そんな声に成らない愚痴まで溢して。
だが、それは違ったようだ。
目の端にリサの剣が走るのが見えた。
それは、最後の一匹……ゼノが追い掛けては居たが、追い付けなかったのだろうそれを見ていたのだ。
が、今度の奴もリサの剣は当たらなかった。
また、腹に蹴りを食らっている。
横からガスラの細剣が突き立てられるが、それも躱わした。
「成る程……コイツまで相手にする余裕は無いのか」
バチバチと光続ける、地面に組伏せられたアルミラージを見た。
この状態なら後回しと考えたのだろう。
そして、最後の一匹の攻撃に耐えればゼノが追い付いて、その剣が届くと考えた。
だがそれも雷の魔法を受けたからだ。
本来ならそれも避けられるのだろう。
ガスラはそんな口振りで話していた。
それはリサもだ。
受けるしかないとは、俺達がここに居るからだ。
王子はその雷を纏ったアルミラージを睨み付け。
腰の剣を抜いた。
桧の棒なら電気は通さない。
でも、王子にはマヒ耐性が有る。
電気は痛いだけで済む。
と、その剣をアルミラージに突き立てた。
ブスリと刺さる剣。
そして、伝わる電気。
それに耐えながら、もう一段を突き刺す。
何度かそれを繰り返して……アルミラージの纏う電気が消えた。
倒しきった様だ。
だが、まだだ。
次は最後の一匹! と、そちらを向くと。
ゼノがそれを切り結んでいた。
「終わった?」
王子のその問いにガスラとリサが頷いた。
戦闘終了後。
暫くしてガスラの痺れも抜けたのか、回復魔法を掛けてくれた。
服が若干に焼け焦げていたが、それは仕方の無い事の様だ。
エウラリアやマルタのローブは、ダメージが見られないのは装備品だからだそうだ。
王子は右袖の焼けた穴に、指を突っ込んで。
「買い換えか……」
と、足元を見れば。
プペとアンも見た目が凄い事に成っている。
髪の毛は爆発して、服もボロボロだ。
「うわ……」
どうしたものか?
町に人形屋とか……有るんだろうか?
どう修理するべきか。
人形だから修理だよな?
そんな事を考えていると。
マルタが叫んだ。
「レベルが上がってる」
「ほんとだ私も」
エウラリアもだそうだ。
なら王子もと ”メイン・ボード” を開ける。
レベルは8に成っていた。
そして、新たにスキル ”人形修復” と、増えていた。
「有難い」
早速、それを試す。
人形達の足下に魔方陣が光輝いて……その中に滑る様に落ちていくプペとアン。
完全に姿が消えて……それでも魔方陣はそのまま。
「え! 大丈夫だよな?」
とても不安に為る程の時間が過ぎて……また、人形達がその魔方陣からせり上がってきた。
綺麗な姿に成ってだった。
「良かった」
ホッと胸を撫で下ろす王子に、プペとアンは笑いかけてくれた。
いかがでしたでしょうか?
面白そう。
楽しみだ。
続きは?
そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。
ブックマークや★はとても励みになります。
改めて宜しくです。




