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004 人形を抱いた小さな女の子の姫


 宝物庫を出て、夜の廊下を歩く。

 城の最奥で、この辺りは王族の居住区でも有る。

 なので、廊下には灯り一つ無い……当たり前だ、灯りを持つのはメイドの役目だ。

 常にメイドが付きっ切りの王族の居住区では廊下を照らす照明等は不要ってことだ。

 

 その闇の中を三人は歩いていた。

 王子の姿には変化は無い、カボチャパンツに白タイツ。

 腰には細剣と、胸に首からぶら下がる首飾り。


 少女二人は肩から掛けた鞄が増えている。

 ボテリとした丸っこいのがブラ下がっていた。

 白いローブに灰色の鞄。

 黒いローブに灰色の鞄。




 「ここって……」

 エウラリアが呟く。

 弟王子の部屋にでも来た事が有るのだろう、キョロキョロと確認しているのが、王子にもわかる。

 

 「まさか……自分の部屋にでも行くとか?」

 マルタも気付いている様だ。

 「私達……連れ込まれるの?」

 少し、歩く速度を落とした。


 そんなマルタを見て、ついでにエウラリアにも視線を這わし。

 「子供には興味は無い」

 王子も流石に、つるペタの寸胴にとまでは言わなかった様だが、そこは女の子二人……勘はそのまま女性だ。


 「今……絶対に胸を見たよね?」

 「服の下を透視しみたいな目だったね?」

 少女二人はローブの胸の辺りをギュウっと掴み、絞るように隠した。


 苦笑いの王子。

 二人の言動は無視して。

 「俺の部屋には戻らない……多分、見張られているからな」

 あれだけ強引に追い出したんだ、何かは有るだろう。

 何も無くても、本来は無人の部屋に人の気配がすれば誰かが駆け付ける……つまりは灯り一つ付けられない、そんな部屋は面倒だ。

 そんな事をブツブツと考えながらに歩いていた王子は、一つの部屋で立ち止まる。

 「今晩はここに泊まらせて貰う」

 扉をコンコンとノックする王子。


 スウッと開かれた扉には、一人の女性。

 王子に驚いたその女性は、ハッと口許を隠してスグに大きく肩を動かして胸を膨らませる。

 その女性に対して、王子は口の前に指を立てて。

 「叫ばないで……妹に挨拶に来ただけだから」

 

 その言葉に止まった女性。

 姿形を見れば、メイド姿だった。

 もちろん王子はそのメイドを知っている。

 名前はララ、20代の前半だ……確か何処かの貴族の三女とか言っていた筈。

 美人でスタイルも良い。

 暫く考えたそのメイドは、静に息を吐き出して……そして、王子に頷いた。


 部屋に入ると、そこは可愛らしい物で溢れていた。

 王子の妹なら、お姫様の部屋なのだろう。

 後ろから着いて来た少女達も理解して続く。

 そして二人は、声は押し殺してはいたが黄色い声で呟く。

 「ワア……人形が多いね」

 「色もカラフルで可愛い」

 宝物庫では、これ程の驚きは見せなかった二人だ。

 

 やはり二人はまだ子供だ……と、溜め息を付く王子。

 この二人の子守りをしながらの旅に成るのかと項垂れる。

 もう王子は覚悟を決めていた。

 二度も放り出されたのだ、しかも衛兵も兵士も決して王子の言う事は聞かなかった。

 何が何でもドラゴン退治に行かなければいけないのだろう。

 それが王族の務めで……王に成る為の試練だと言われれば、城中がそれに従うのは仕方無い事だと諦めるしかない。

 頑なに、行きたくは無い……との王子の主張は認められなかった。

 それは王子の立場では覆す事の出来ない程の、位が上のやらなければいけない事。

 城に住んでいればそんなモノは幾らでも出くわす事なのだが……行事や仕来たり? 王に成ってもそれには縛られる。

 それが今回は、少し特別でドラゴン退治なわけだ。


 「はあ……」

 もう一度、大きな溜め息を吐いた。


 「ナギお兄様? どうされました?」

 部屋の奥から声がする。

 ピンクのドレスを着て、胸に子熊の人形を抱いた小さな女の子。

 遠慮がちに王子を見ている。

 王子にではなくて、後ろの少女二人を気にしている様だ。

 

 「ああ、暫く城を離れないといけない様なので、挨拶に来た」

 王子はその小さな女の子の前に進んで、しゃがみ、そしてニコリと笑う。


 少し困った顔の小さな女の子。

 王子の顔を見て。

 奥に控えているメイドの顔を見る。


 見られたメイドは。

 「王国の仕来たりです、王子は王に成る為の試練に行かれるのです」

 簡単な説明をした。


 「スグに戻ってくるよね?」

 言葉づかいが少し変わった小さな女の子。

 それが自分でもわかったのか、王子の後ろの少女達に目をやり、自分の口を押さえる。

 

 「この子達の事は気にしなくてもいいよ……少しのあいだ、俺と一緒に旅をする事に為ったんだ」

 小さくても一応は姫だ、言葉には気を使っていたようだ。

 特にあまり見掛けない顔だからだろう。

 ジイっと、見詰めている。

 「ユダお兄様と一緒に居るのを見掛けたと思います」

 何か思い出した様だ。

 「たまにですけど、窓の外で……楽しそうに……」

 

 「ああ、そうだ」

 王子は頷いて。

 「ユダのお友達だそうだ」

 ユダとは弟王子の事だ。

 

 「それがなぜ?」

 わからないと首を捻る姫。

 

 「成り行きだよ」

 と、肩を竦めた。

 レベル云々の話は、王子がサボっていた事がバレるのでお茶お濁した。

 「でだ、暫くはベリーナとは遊べ無く成るからな……」


 ベリーナと呼ばれた小さな女の子の姫。

 少し寂しそうな顔をした。

 王国の仕来たりと聞いて、それが抗えるモノでも無いとは小さな姫でも理解はしているのだが、精一杯の我慢でも顔に出てしまった様だ。

 

 「だから、今日はその分一緒に居よう」

 ベリーナの小さな肩を抱いてやる王子。

 「俺が寂しいからな……ベリーナと遊べないのは」

 その言葉に嫌がる素振りは見せないが、遠慮がちにメイドをチラチラと見た姫は、そのメイドが頷いた事に破顔の笑顔を見せた。

 

 

 子供部屋とはいえ、流石に姫の部屋は広い。

 何も無い真ん中のスペースに、メイドがフカフカの絨毯を敷いてくれた。

 小さい子はどうしたって地べたに座りたがる。

 ベリーナ姫はもう6歳なので、それを我慢できる歳では有るが、甘える時はやはり地べたに座る方がまだ嬉しいのだ。

 その絨毯だが、メイドが持ち出した時には手の中に収まる程の小ささの巻かれた布……30cm程の布の巻物だったのだが、真ん中の結んである紐をほどいて広げれば、八畳程の大きさに成った。

 そしてその絨毯は宙に浮いていた。

 床から10cm程では有るが、それがフカフカの絨毯を更に柔らかくしてくれていた。


 その端の方に胡座をかいて座る王子。

 その膝にベリーナ姫が座る。

 胸には、今度は子熊から耳の垂れたウサギのぬいぐるみに変わっていた。

 そして王子の持つ絵本を熱心に読んでいる。

 虹色の王子がドラゴンを退治して、この国を創るそんな建国のお話だ。

 まあ、いわば御先祖様の物語を絵本にしたものだった。

 つまりはこの御先祖様のおかげで、今の王子がドラゴン退治に行かなければ成らなく為ったのだ。

 迷惑な噺だ……とは、顔には出さずに絵本を読んでやる王子。


 「仲が良いのですね」

 部屋の端の方で、エウラリアとマルタは宝物庫で手に入れた魔法鞄の中身を確認しながらに、王子に声を掛ける。


 その二人の事は既にベリーナ姫には軽くでは有るが紹介はしていた。

 白い方がエウラリアで、黒い方はマルタ。

 右大臣と左大臣の孫。

 そんな感じの紹介だが、身分がわかれば姫もメイドも騒ぐ事もない。

 どうもメイドは始めから知っていた節はあったのだが……まあ、姫に付くメイドだ、その辺りは優秀なのだろう。


 そのメイドは一度、部屋を出て。

 ワゴンを引いて戻って来た。

 「皆様、お食事はお済みに成られましたか?」


 首を振る王子と二人の少女。

 

 「でしたら、軽くですがご用意させていただきました」

 メイドは隅に追いやられているテーブルに夕食を並べていく。

 軽くとはいいながらも、そこは王族の食事だ、少女二人の目にはきらびやかで豪華に見えた。

 右大臣も左大臣も上位の貴族で、二人の何時もの食事も他者から見れば豪華な部類では有ったのだが、目の前のそれはもう一段のその上。

 実際のところは夕食の残り物なのだろうが、元の次元が違う。

 揃って腹を押さえる二人の少女は……チラリと王子を見た。


 見られた王子は、どうぞと手を差し出す。

 見られたと思った姫も同じように手を差し出していた。

 それに笑い会う王子と姫。

 一緒に座っていればわからないよなと、二人して肩を竦めた。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

続きが読みたい。

そう感じて頂けたなら、ブックマークやポイントで応援していただければ幸いです。

なにとぞ宜しくです。

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