039 王家の呪い
その日の夜は、道路が見える場所に迄戻ってテントを出した。
張ったでは無くて出しただ。
エウラリアやマルタの持つ鞄の中の小さいテントの模型のようなモノを投げれば、人が入れるサイズに成る。
そんな魔法具だ。
それを二つ並べて、真ん中にトイレとシャワーが一緒くたに為った、もう少し小さなテントを出す。
形は三つとも同じだ。
真ん中に芯と成る棒が立ち、そこから円錐形に広がる。
ワンポール型……ティピーテントの引っ張りロープ無しだ。
トイレ以外に二つなのは……エウラリアとマルタが王子と一緒を嫌がったからだ。
だから、正面から右側が王子一人の為のテント。
左側はエウラリアとマルタの二人の為のテントだ。
「面倒臭い……」
広いテントにゴロリと寝転がる王子。
真ん中に柱が在るのが、それでも四人は楽勝で寝られるサイズだ。
「12歳の子供と一緒でも問題は無いだろうに」
けっして一人寝が寂しいと思ったわけでは無い。
ただ、一緒は嫌だと言われた事が気に入らないだけだ。
信用されていない事に腹が立つ。
「子供に手を出す趣味は無い」
ブツクサと愚痴を垂れながらに、枕にしていたドラゴンのヌイグルミの位置を整えた。
そして毛布を頭から被る。
不貞腐れているわけではないぞ……そう言い聞かせる様にして寝た。
寝ようとした……。
ウトウトと夕食時の事を思い出していた。
メニューはウサギのシチュー。
ロザリアの料理はいつ食べても美味しい。
王子が産まれた時から居るのだ。
乳を貰ったわけでは無いが乳母の様な存在だ。
だからロザリアの料理は母の味と同意語だ、不味い筈がない。
焚き火を囲んだ反対側に居る、エウラリアとマルタも美味しそうに食べている。
それを見るとなんだか王子も嬉しい気にも成る。
「なに?」
マルタがそんな王子を見咎めて。
「ニヤニヤして気持ち悪いんだけど」
少しムッと為った王子。
気持ち悪いとはなんだ。
食事を美味しそうに掻き込む姿を見て微笑ましいと思っただけで、何故にそんな言われようだ。
「別に……」
二人を見るのを止めた王子は、空いた器をロザリアに差し出して、御代わりを要求した。
もう見ない。
「それはそうと……さっき変だったよね?」
マルタはそんな王子の態度には目もくれずに話始める。
「ウサギの時だけど……音楽が中途半端だったよね?」
プペがウサギに飛び付くまで、何時もの軽快な音楽は無かったのだが。
捕まえた瞬間に。
ピロ……と始まった、が。
すぐさま、走ったアンがトドメを刺したので、無茶苦茶に短く終わったのだ。
「あの状況で、音楽が鳴ったら……ウサギに逃げられるからだろう?」
後ろに隠れている楽隊も遠慮したんだと思うのだが。
マルタは気付いていない?
「そっか」
能天気に頷いたマルタ。
エウラリアも見れば、同じ様に頷いていた。
二人ともの様だ。
「以前の狩りは……第二王子とだけしか行っていない?」
「そうだよ」
二人で頷いた。
第二王子も王族だ。
同じ様に護衛が付いて居たのだろう……音楽付で。
「そう」
どう返事をして良いのかわからない王子。
護衛の事を教えて遣っても良いが……さっきのマルタの態度が気にいらない。
やはり黙って放っておこう。
第二王子とってのも何だか嫌な気分だし。
王子と第二王子は別段中が悪いわけでは無い……が、けっして良いとも言えない関係だ。
それは、母親のせいだ。
王子と第二王子とでは、母親が違うのだ。
父が王に即位して最初の妃が第二王子の母だ。
イザベラと言うが……仮にAとしておこう。
そのAと王の間には中々子供に恵まれなかった……。
王が種無しとかAが不妊症とかではない。
実際にAは子供を産んだ……ただし王以外の子だ。
それも二人も。
第二王子に取っては二人の姉が居る事に成る。
王族でも何でも無い二人の姉だ。
第一王子に取っては全くの他人。
さて面倒臭いのは、王以外の男の子を成したAだ。
王族であろうと貴族であろうと結婚に愛は無い、有るのは金と権力だけだ。
だから別の男の子を成しても文句は言われない。
が、産まれた子供はその魂を水晶に映してその血を確かめるのだ……王家の子として相応しいかどうか。
赤子の額に当てた水晶の半分は母親の魂の色と合致した。
当たり前だ、膨らんだ腹から出てきたのだ合致して当然。
だが、もう半分は王とは似ても似付かない色を示した。
王は……まあ父なのだが、薄々は気付いていたらしく何も言わなかったが。
慌てたのは側近達だ。
このままでは、王家の血が絶えると、騒ぎ。
本来なら十年を開ける筈の次の妃を探す事にした……まあ、三年で二人の王以外の子を儲けたAでは期待出来ないと考えてもおかしくはない。
それ以前に腹に子が居る時点で、王は種付けを一年間は休まねば成らないからだ。
ヤッタところで無駄なのだから。
そして登場したのがエマ……王子の母だ。
一応だが、イザベラをAとした手前……Bとする事にしよう……。
……。
とても田舎……国の南の端の貴族の出だったエマ、本来なら王家に入れる筈も無かったのだが。
何時もの仕来たりなら、選ばれる妃は十年に一度となる。
つまり、前回のAの時に選ばれなかった適齢期の貴族の娘は高く売れるうちにと全員が他に嫁いだ後だった。
国の御触れを聞いた貴族達は騒然となる。
そりゃあそうだ、次のチャンスはまだ七年先だと、それに合わせて子を作っていたのだから。
妃レースに出せる娘はギリギリ子供ばかりだ。
回復魔法や治癒魔法の発展した世界では無闇に子供を作る必要も無い……それは無駄な権力争いを生む火種に成るだけだ。
そんなだから、貴族の娘は下は8歳、上は11歳……嫁に出せる年齢じゃあない。
王家に嫁ぐは子を成す事と同義語だからだ。
子が産めない子供ではチャンスすらない。
だが、端からチャンスは無いと諦めていた田舎貴族……王子の爺さんに成るのだが。
そこの娘のエマは丁度16歳だったのだ。
国に居た唯一の適齢期の貴族の娘だった。
焦ったのはA……まだ余裕が有るとたかをくくっていたのだが、新しい妃が急に現れたからだ。
二人目を産んでスグだったがそれでも、あしげく王の寝所に足を運んだが……。
王は新しい妃の方を選ぶ事が増えた。
二人も産んだそのブヨッとした腹に萎えたのだろうと予測できる。
Aが元の綺麗なスタイルに戻せる時間も無かったのだろうからそれも仕方無い。
まあ、若いというのも有ったにかも知れないが……Aに取っては自業自得だとも思う。
そして王家に嫁いだエマは、第一王子を一年で産んで……正式に王妃となった。
第二王子が産まれるのはその四年後……。
Aも諦めなかった根性は認めるしかない。
いや……一発で引き当てたエマの根性を誉めるべきか。
実際、エマは第二子の姫を身籠る迄に十年も掛かったのだから。
またそれも仕方無い、父と母にはそもそも愛は無いのだ。
子作りの為の作業に慣れる前に第一王子を産んでしまったのが余計に疎遠に成ったのかも知れないが。
それは……王子のせいでは無い。
だからか、王子も含めてエマを王宮であまり見掛ける事もない。
王子の部屋には絶対に来ないし、妹姫の部屋にもたまにだ。
それでも廊下でスレ違えば、エマは母だとわかるし、適当だが挨拶もする。
まあそれも王族だから仕方がないのだろう。
有る意味……呪いのようなモノだ。
王家に代々と伝わる、けっして解けない呪い。
そして……その呪いは王子も受け入れるしかない。
国の法では20歳に成れば王として即位しなければ成らない。
後……四年後だ。
今の王はその時に引退なのだが……王子も早く引退したければスグにでも男の子、王子を産んで貰わねば成らない。
それでも、最短でも二十一年は王なのだが。
だから、王子も愛よりも産める娘で我慢するしかないのだ。
好みでは無くても関係無い。
さっさと王家の呪いから逃れるにはそれしかない。
自由にいられるのも後……四年。
今も大して自由でもないのだが。
ちなみにだが、王に即位する前に子を成したとしても、その子は王族には慣れない。
血の繋がりは関係無く、現王の養子と成る。
王子の子供だが弟と成るのだ。
これも王位継承権で争わない為のルール……仕来たりってヤツだ。
第一王子は、あくまでも王が成した子だけが成れるモノだから。
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