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033 サムライ蟻と鶏


 森の中の追撃をかわし。

 草原に飛び出た王子達を待ち受けていたのは、蟻の軍勢。

 広い草原を黒く染め上げる勢いだ。

 

 「失敗した?」

 あまりの数にそう尋ねしまう王子。

 マルタは見える数に圧倒的されて、その場にへたり込んだ。


 「これくらいは出てくるさ」

 森側の背中を守るゼノが冷静に答を返す。

 

 「この森のダンジョンはサムライ蟻が掘ったモノだからな……もともと数が多いのだ」

 リサを退けて、先頭に立とうとするガスラ。


 「サムライ蟻?」

 王子は反芻するように。

 「コイツ等がそうなのか……」


 「違うは」

 リサが王子に。

 「コイツ等は足軽蟻……サムライ蟻はコイツ等の進化した魔物よ」


 「因にだが、その上に将軍蟻が居るぞ」

 ゼノが補足。


 「ダンジョンを掘れる程に大量にサムライ蟻が居るから、その元の足軽蟻も多いって事?」


 「そうだな」

 笑ったゼノ。


 「刀を持った蟻が居れば、ソイツがサムライ蟻だ」

 ガスラは後ろを見ずに。

 「そいつ等は強いぞ」

 そう言って、蟻の集団に向かって走り始めた。

 魔法では無くて、仕込み杖から細い剣を抜いている。

 淡く光る刀身が、足軽蟻を簡単に両断していた。


 「強い」

 王子はそのサムライ蟻を探して居たのだが、前を向いていたリサは。

 「ガスラは刀身に風の魔法を纏わすからね、あの魔法剣の切れ味は抜群よ」


 「魔法剣?」

 へたり込んでいたマルタが反応した。

 ゼノ、ガスラ、リサの三人の冒険者達の余裕を見て、少し安心したのだろうか、話せる余裕も出てきた。

 単純に走って……足にきて、息が上がって居ただけかも知れないが。


 「ガスラは魔法剣士よ」

 その場に止まり、注意深く辺りに目線を送るリサ。


 「黒魔法と白魔法と細剣を使う職だ」

 ゼノも後方を警戒している。

 「ガスラ本人は中途半端で器用貧乏だって言っているが……あのレベルに成れば強すぎるだけだ」


 王子はガスラを目で追った。

 黒光る集団の中心に向けて、一本の線を引くように走る。

 邪魔をするモノは次々と斬るだけ。

 圧倒的に強い。

 だが……ふと疑問に思う。

 ゼノとリサは見ているだけで動かない。

 王子達を守っているのはわかるが、ガスラだけの単独行動の意味はわからない。

 一人でこの数を全滅させるのだろうか?


 「来るよ」

 叫んだリサは、その場にしゃがみ姿勢を低くした。


 何が来るのかと、驚いて辺りを探る王子の背中が掴まれて無理矢理に地面に座らされる。

 そして振り向けば、ゼノが前方を指差して。

 「ガスラの自爆魔法だ」


 蟻の集団に見えなく為ったガスラを中心に、地面に光が走った。

 とても巨大な魔方陣だった。

 リサのすぐ前をその光が掠める様に走る。


 「自爆って……死ぬのか!」

 王子はゼノの掴む手に逆らう様に立ち上がろうとしたが。

 「黒魔法はその使用者には影響しないから大丈夫だ」

 そう告げて、もう一度力を込めたゼノ。


 「あの自爆魔法はガスラの必殺技よ」

 リサも答える。

 「自爆魔法のそれ自体は黒魔法士の中級の魔法だけど。普通は最後の最後、見方が殺られてどうしようもない時の悪足掻きの魔法なのよ……ガスラはそれを積極的に使うの。単身で敵の集団に斬り込んで、魔方陣を完成させる事が出来るからね」


 「見方が近くに居れば巻き込むから最後の魔法なんだが」

 少し呆れた声音も交ざるゼノ。

 「ガスラだから出来る魔法の使い方だな」


 と、その時。

 魔方陣の中心が光った。

 同時に大爆発が起こる。

 

 爆風と振動が王子を通り過ぎる。

 その揺り返しの逆風を背中に感じた時。

 「さあ……俺達も行くぞ」

 ゼノに引っ張り上げられて無理矢理に走らされた。

 

 

 ゼノに押されて、草原で在った筈の焼け野原の中心、ガスラがいる場所まで進んだ王子達。

 ガスラの自爆魔法は、相当数の蟻を焼いた筈なのだが……それでもまだまだ取り囲む様に蟻が群れている。

 その中に、ポツポツと背の高い蟻も見えた。

 手には刀を持っている。


 「あれがサムライ蟻?」


 「マズイな……思っていたのよりも多い」

 ガスラが呻く。


 「サムライ蟻ってそんなに強いのか?」

 群れの中に、確かに見えるが……そんなに多いとも思えない数だ。


 「単体でもソコソコ強いが……奴等のスキルが問題だ」

 ガスラは火の玉を撃ち始めた。

 狙いはサムライ蟻。

 倒れはしないがダメージは通っている様に見える。

 

 「刀を持っているから近距離スキルでは?」

 囲まれているとはいえ、距離は十分に開けた筈。

 近付く前に倒せないのだろうか?

 王子にはそんな疑問だったが。


 「奴等の本当の怖さは……他の魔物を奴隷化する事だ」

 ガスラが何発かの魔法で、一匹のサムライ蟻を倒し切って。

 「鶏を拐ったのもそのスキルを使う為だろう」


 「鶏って……でも弱いだろう?」

 レベルの低い王子達にも倒せたのだ、強い筈がない。


 「サムライ蟻が出てくるって事は……成長させた強い鶏が居るって事だ」

 ガスラはなおもサムライ蟻だけを狙いは続けている。

 「狼サイズならイクネウモーン……馬並みみならバジリスク」


 「ドラゴン並みならコカトリスだが、流石にそれは居ないだろうけどな……バジリスクは勿論だがイクネウモーンでも十分に驚異だよ」

 ゼノの声に少しの緊張が交ざる様に成ってきた。

 「とにかくだ……サイズは関係無しに、鶏っぽい形の魔物を見たら、正面には立つなよ。石にされるぞ」


 立つなと言われても……王子達はリサとゼノの側を離れるわけにはいかない。

 そんな事をすれば自殺好意だ。

 この場で一番に弱いとされる魔物……足軽蟻ですら敵う筈も無いのに。


 「しかし、このまま囲まれた状態ではじり貧だ」

 ガスラは黒い小さな粒を掌に出して、それを口に放り込んだ。

 「村の方に走るぞ」


 それなら何故にここで立ち止まったのだろうか?

 王子はそんな疑問も有ったが。

 たぶん、予想外の事だった?

 本当ならここで立ち向かう積もりで居たのだだろう。

 その先に居る鶏の進化版の存在を示す、サムライ蟻の数で予定が狂った?


 ここで戦っても勝てる筈が、逃げるしか選択肢が無くなったって事か。

 それはつまりは……ヤバイって事だ。


 先頭のリサが走り始めた。

 森の中での速度よりも速く。


 王子はマルタの手を掴み、そのスピードに遅れまいと足を動かす。

 自身の足が縺れそうな事を誤魔化す様に。

 「マルタ、あと少し頑張れ」

 そう声を掛けた。


 あと少しとは。

 走るリサと向かってくる蟻との会敵迄の時間だ。

 いざ蟻とぶつかればリサも速度を落とさないわけにもいかない筈だからだ。


 それでも遅れ気味に為るマルタ。

 王子もそれに会わせるのので、リサとの差が開く。

 中盤に入ったガスラと後ろのゼノはそれもわかってか、速度を調整してくれていた。


 ガキンっと前から音がする。

 リサと蟻との戦闘が始まった様だ。

 一振りで三匹を弾き飛ばす。

 音の招待は蟻の持つ槍ごと叩き割った音だ。


 「数が多い接近戦なら、リサの馬鹿力をでなぎ払えば大丈夫だ」

 どうにも焦る王子に、ゼノが声を掛けてくれた。


 「アイツも剣を振り回すだけなら一人の方が楽だろうから少し速度を落としても大丈夫だ」

 ガスラは魔法を撃ちながらだった。

 が、じきに剣の攻撃に変わる。

 リサが戦闘を始めたということは、蟻の群れに突入したという事なのだから、全員が接近戦に為る。


 もちろん王子も桧の棒を構える。

 役に立たないのは理解してても、気持ちでは戦いたい。

 守られるだけの足手まといには成りたくなかった。

 その気持ちにさせてくれたのは、マルタの震える手を握ったからだ。

 守られる立場で、守ってやりたいと迄は考えないが、それでもジッとはしていられなかった。

 勇気や義務感とかそんなものじゃあ無い。

 ただ……恐怖心を誤魔化す為の行動だった。


 実際には目の前に蟻が来る事も無かったのだが……。



 「コッケー!」

 突然に響いた叫ぶ様な鳴き声。

 

 「来やがったか……」

 後ろのゼノも叫ぶ。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。


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