表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/87

031 蟻の巣


 森の木々の合間に在った、少し開けた場所。

 そこは掘り返された軟らかそうな土で小高い丘の様に成っていた。

 そしてその丘の頂点では、槍を持った蟻が出たり入ったりを忙しなく繰り返している。

 それは見た目では判断は出来ないが、明らかに複数の蟻……それも相当数の数だとわかる。

 何故ならそこから出た蟻は、何処かに向かい歩いて行って……帰ってくる蟻は別の方向からだからだ。

 意味も無く出入りをしている様には思えない。

 何か仕事か目的を持っての行動だろう。

 そう思えるだけの規律も感じられた。


 それを森の中から見ていた王子は、ゴクリと唾を飲む。

 「コレは……駄目か……」

 この丘の頂点から下は巣穴だろうと思われる。

 つまり、地面の下は……大量の蟻だらけ。

 「俺達だけで勝てるわけがない」

 見付かれば袋叩きだ。


 「そ……そうね」

 王子の後ろから覗いて居たマルタもそれには同意した。

 「鶏は……やっぱり……巣の中よね」

 証拠となるモノを見付け出すのに……いったい何匹の蟻を倒さなければいけないのか。

 さっきの十数匹のバッタの比では無い。


 「逃げよう」

 王子の決断だった。

 「ここの巣の事をギルドか誰かに報告して対処してもらおう」

 ジリジリと後退りを始めた。

 「鶏は……その時の誰かが見付けてくれるさ」


 マルタは王子の向ける、固く造られた笑顔に頷いた。

 二人してソーッとその場を離れる。

 細心の注意を巣穴に向けながら、後ろへと下がる。

 

 その時。

 ガサリと音がした。

 

 見付かったか!

 慌てて振り向いた先に居たのは……ギルドで声を掛けてきた男。

 冒険者だった。

 銀色の胸当ての剣士。

 

 人だ! と、ホッとした気持ちと、ナゼに? が、入り交じり。

 「え?」

 と、間抜けな声を出した王子。

 

 「初心者冒険者がたった二人で森に入るのが見えたからな」

 にこやかに、キラリと歯を光らせた男。


 「少し遠くから見掛けただけだから、追い付くのに時間が掛かったがな」

 男の後ろから、灰色のローブを着たおじさんが顔を出した。

 手には杖を持っていた。

 

 「途中で見付けたバッタの死骸は貴方達がやったの?」

 その横からまた一人。

 今度は若いお姉さん。

 それでも、王子より五つくらいは上だろう年上の美人だ。

 王都で見掛けた町娘の様な普通の軽装で、でも背中にはデカイ両手大剣が見える……斬るのでは無くて、その重さで斧の様に振り回して骨を砕くそんな剣だ。

 

 そんな三人組の冒険者達。

 表情や仕草に余裕も感じられる。 

 冒険者としてのレベルも相当に高いのでは無いかと安心感すら漂わせていた。

 

 王子は安堵の息を吐く。

 「助かった」


 そしてマルタは。

 「ごめんなさい」

 消え入る様な声で謝った。

 危険な事をしたと理解していたのだ。

 そして、そんな時に大人に見付かれば怒られるものだとも理解していた。


 「無茶をしたってわかっているのね」

 両手大剣のお姉さんは、王子とマルタを交互に見ながら、少しキツイ口調で。


 やはり怒られると肩を竦めたマルタ。

 王子も今更ながらに項垂れる。

 そうか……コレは怒られるのか……と、そんな事を考えながらだ。


 「リサ……それは後だ」

 両手大剣のお姉さんをリサと呼んだのは片手剣の男。

 「それよりも、どうして森に入った? 理由が有るのだろう?」

 優しく問い掛ける。


 「蟻が鶏を抱えているのが見えて……」

 王子が説明を始めた。

 怒られるのは確定にしても理由の説明はしたい。

 それが言い訳に聞こえても言い分はある。


 「ああ、レベル20のクエストを受けたのか……」

 ローブのおじさんが呟く様に。


 「あれを受けたのか?」

 驚いた男。

 「いや、でもレベルが足りないだろうに……ギルドのヤツ等は確認を怠ったのか?」

 顔をしかめた。

 

 「ん?」

 ローブは片手剣を見る。


 「この子達はまだ初心者だ、レベルも二か三だろう」

 苦々しい顔で。


 「ゼノ、それは本当か?」

 眉間にシワを寄せたローブのおじさん。

 

 「ああ、掲示板で見掛けた時はそうだった」

 ゼノと呼ばれた剣士。


 今はLv5だが……それは言わない方が良いだろう。

 王子はそう判断したが。

 「クエストは受けていません」

 こちらは言わないと駄目だ、後々ヤヤコシイ事に成る気がする。


 ローブの男が王子を見た。

 「では……何故?」

 低く落ち着いた声で。


 睨まれたと体を硬直させた王子。

 

 「ガスラ、怖がらせるな」

 ゼノはローブのおじさんをガスラと呼んで、その肩を掴む。


 「ああ、悪い」

 ガスラはローブのフードを深く引き、顔を隠す。

 が、目線はまだ王子を見ていた。


 「宿屋の主人が飼っている鶏だと……」

 威圧感は消えない。

 「今……泊まっている宿屋で……」

 泳ぐ目。

 「もし鶏を見掛けたらと……」

 シドロモドロだ。

 鶏泥棒にされるかもとは言えないので余計に説明がバラバラだ。


 「蟻が鶏を抱えた時は……」

 マルタは少し泣きそうだ。

 「そんなに怖く感じなかったの……小さな子供見たいに見えたし……一匹だったし」


 「経験不足か……」

 ガスラは呟いた。

 「なるほど」

 

 「なら、今回のはいい経験に為ったんじゃあないか?」

 ゼノは笑った。

 

 「はい……」

 王子とマルタは同時に返事を返す。

 

 そんな二人を見て、リサが。

 「さて……これからどうする?」


 これから?

 王子は困惑した。

 どうすれば正解なのだ?


 だが、それに返事を返したのはガスラだった。

 「後ろにも……横にも居るな」

 首を左右後ろに動かして。

 「見付かっては居ないが……囲まれている」


 「突破する?」

 リサは背中の大剣に手を掛けた。


 それは逃げるという選択なのだろうと王子は理解する。

 そして、どうする? の行動の選択権は王子にもマルタにも無いともわかった。

 ここから先は目の前の冒険者達に付いて行くしかない。

 王子とマルタは……今は要救助者だ。


 「逃げるにしてもだ」

 ゼノは今は、蟻の巣が在る土の丘を見て。

 「奴等は足が速いからな……ゾロゾロと出てこられれば厄介だぞ」


 「そうだな、いったん巣を叩いてからだな」

 ガスラも同意した。

 そして何か丸いモノをゼノに手渡した。

 片手にギリギリ収まるサイズだ。


 「ギャンブルに為りそうね」

 リサが大剣を抜く。

 幅の広い刀身がギラリと光った。

 「他にも出入口が在れば、時間を捨てるだけよ」


 「その時は仕方が無い」

 ゼノも剣を抜く。

 「みんなで戦うしか無いな」

 そう言って王子達に笑い掛ける。


 最悪は王子達にも戦えって事か。

 一度マルタを見た王子は、ゼノに頷き返した。

 やるしか無い様だ。


 王子のそれが合図と成ったようだ。

 森から蟻の巣へ、真っ直ぐに走り始めたゼノ。

 道を塞ぐ蟻を斬り倒して丘を登った。


 ほぼ同時にガスラも森を出る。

 そして、ゼノを援護する様に火の玉を撃ち始めた。

 マルタの火の玉と同じだが、レベルが違い射程距離は長く威力も大きい。

 ゼノの剣の届かない所の蟻を正確に撃ち抜いていた。

 

 リサは大剣を片手で引き摺り、空いた手でマルタを掴んでから開けた場所に出た。

 「私の後ろに居て」

 叫びは王子にもと、そう伝えている。


 蟻にとっては突然の襲撃だった。

 慌ててふためく出来事だ。

 魔物である蟻でも、それはパニックに為る。

 右往左往とどうすれば良いのか、わからないうちに何匹も倒されていく。

 それでも何匹かは反撃に出た。

 秩序も統制も無いが、目の間に敵が居るとは判断できたもの達だ。



 三人の冒険者は圧倒的に強かった。

 王子には、さっきまでの相談の意味がわからなかった。

 これだけ強いなら、蟻を殲滅出来るんじゃあ無いのか?


 その疑問の答えは単純だった。

 王子の後ろから蟻が襲い掛かって来たのだ。

 それにマルタが小さな悲鳴を上げる。

 咄嗟に棒を突きだすが、蟻の胸元を小突くだけ。

 怯む事すらしない蟻を見て。

 そうか……俺達が邪魔なのだ。

 

 「蟻の体は硬い甲羅で守られてるから」

 リサが王子の前に回り込み、その蟻の首を撥ね飛ばす。

 「関節を狙いなさい」

 そしてまた、後ろの蟻に斬りかかった。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ