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030 鶏泥棒の証拠


 マルタの叫びに飛び上がった王子は脱兎のごとく走り寄る。

 

 「 ”鶏” だな……」

 マルタに相対するそれを見て。

 突然に頭の中に ”鶏” と出たのだ。

 それを思わず口に出す。

 コレが鑑定なのだろうか?

 情報としては少ないが……たしかレベル依存だった筈。

 今の段階ではこんなものか……。


 王子は鶏を見つつ、少しの間が空いた。

 鑑定に付いて考えていた時間だ。

 そして、鶏はその間の空いた時間を不思議げに、王子とマルタを見ながら首を傾げた。

 「コケッ?」

 その仕草は……貴方達は何者? もしくは、私に何か用? と、そんな風にも見える。

 それは、敵意は感じないとそういうことだ。


 「ど……どうしよう」

 マルタは飛んで来た王子に、目の前の問題を投げた。

 倒してももちろん、戦ってもイケナイという事は理解している。

 だけど、どう対処して良いかはわからない。

 このまま、逃がして見てみぬ振り?


 王子もどうしたモノかと考えた。

 金具の首輪も着けて居るので、件の鶏なのは間違いない。 

 捕まえるべきか?

 鶏を宿屋の主人の返して……落ちていましたよ……とか?

 いや、そんな事をすれば疑われないか?

 今はまだ、鶏を食った事もバレていないのに……それがバレる?


 まずい……。

 コメカミから頬に……そして顎先にまで伝う汗。

 思考が高速でグルグルと回り、答えに辿り着けない……八方塞がりだ。

 

 「そもそも……なんでココに鶏が居るんだ?」

 それでも、何処かに答を得ようと絞り出した疑問がそれだった。

 「盗まれたなら……普通に歩いて居るわけも無い筈」


 「そんな……わかんないよ」

 マルタは王子に尋ねた筈。

 どうしたらいいか? と。

 なのに逆に聞き返された、それもマルタには答えられない質問で。

 それでも、一生懸命に考えてみる。

 「最初の……食べちゃったヤツも、普通に歩いていたよね」

 今の目の前の鶏の様に。


 「たしかに……」

 マルタのその答えに、王子はまた考え込んだ。

 「盗んだヤツは居ないのか? ただ……逃げただけ?」


 「それだと、他のも何処かに居るのかな?」

 マルタも考え込む。


 ただ逃げただけと定義して……他の鶏を探せるだろうか?

 それは、たぶん無理だな。

 村の外は広い、しかもフィールドに制限は無い。

 今のこの鶏も、とてもレアな偶然と考えるべきだ。

 「やはり、捕まえて宿屋の主人に渡すべきかな……」

 踏ん切りは付かないし、誤解される可能性は大だが……逃げたのではないか? と主張するしか無い気がする。

 出来れば逃げたという証拠が欲しいのだが。

 今あるのは、鶏が一匹居るという事実だけ。


 そんな事をグダグダと考えていると。

 流石に鶏も飽きたのだろう。

 プイっと横を向いて歩き始めた。

 森の方へと向かっている。


 「あ! 逃げる」

 マルタは慌てて追い掛けた。

 何かを考えての行動では無い様だ。

 注視していたモノが動いた……だからそれに釣られたとそんな感じだ。

 「仲間の所に行くのかな?」

 何も考えずに、ただ呟いたのだろうそれ。


 しかし、王子はそうかも知れないとも思う。

 鶏の習性? 社会性は知らないが……養鶏場で飼われているという事は、集団でも喧嘩をし難い?

 もしくは喧嘩をしても順列が決まればその集団を維持する?

 そうで無ければ、数をイッペンには飼えないだろう。

 犬や狼の様に順列が決まるなら、野に放たれても集団行動だ。

 そう結論付けた王子は、マルタの頭を押さえて。

 「隠れて後を着けてみよう」


 一匹が複数に成っても、宿屋の主人に出来る言い訳は無いが。

 それでも逃げたという信憑性は増すのではないか?

 人の手が掛かっていない様に見える集団なら、それも出来るかも知れない。


 

 森に入った鶏は、たまに地面をつつき、トコトコと歩いて行く。

 王子とマルタは姿勢を低くして、下草を最大限に利用しながら後を着ける。

 鶏は何処かに行く目的も無いかの様にアッチうろうろコッチうろうろとして居るだけの様にも見えた。


 「ただのハグレなのだろうか?」

 一匹だけ逃げた?

 養鶏場から?

 それとも盗人から?

 もしそうなら、今の行動は徒労に終わる。

 無駄骨?

 そんな言葉が頭に掠めた頃。


 鶏の向こう側に動きが有った。

 木々の間から、黒い体をした1m程の……蟻が出てきたのだ。

 二本足で立ち、片手に槍を持った姿は人を模した様にも見える……が、姿形は蟻ソノモノだ。

 三角の顔にゴツい顎。

 細い六本の手足。

 そして後ろに突きだした大きく膨らんだ尻。


 「なにあれ?」

 マルタが小声で尋ねるが。

 「蟻だな」

 としか答えられない王子。


 その蟻は、キョロキョロと辺りを確認して。

 そして鶏を見付けた。

 なんの躊躇も無く鶏に近付いて、ごくごく自然に鶏を捕まえて抱き上げる。 

 これは自分のモノだと言わんばかりに。

 

 「取られた、持ってかれる」

 マルタは慌てて立ち上がろうとする。

 慌てて居ても発した声は小声だったのが幸いと、王子はマルタの手を引きもう一度屈ませる。


 「これは好都合だ」

 ニヤリと笑った王子。

 盗んだ犯人があの蟻……いや、例え犯人では無くても、偶然に鶏を見付けて捕まえただけだとしてもだ。

 今の行動は、犯人に仕立て上げる事が出来る。

 王子はそう考えたのだ。

 あとは何処に鶏を持っていくのか? と、それっぽい証拠が有ればいい。

 



 鶏を抱いた蟻は、森の奥深くへと進んで行った。

 太い木の根を乗り越えて、進路の邪魔をする下草を槍で払う。

 顔や胴を叩く枝葉も気にせずに。


 王子達は、少しづつ離されていった。

 気付かれない様に後を着けるには、邪魔な草木を叩くわけにもいかないからだ。

 魔物である蟻でも槍ではらうのだ。

 人である王子がその邪魔が抵抗に成らない筈もない。

 距離を開けられるのは当然だった。


 しかし、その事に王子は焦りは無かった。

 何故なら、蟻は常に真っ直ぐに進んでいたからだ。

 それは方向さえ間違わなければ、いずれは追い付ける筈。

 蟻も何処かの目的地に向かっているのだからだ。

 ソコに到着すれば必ず止る。


 「ううう……膝が痛い」

 常にしゃがみながらの移動にマルタが根を上げ始めた。

 先頭は王子で、顔に当たる枝葉は無くても辛いのは確かだろう。


 王子も腰にダルさを感じ初めていた。

 「休憩を挟むか?」

 目線は前を向きながら、後ろのマルタに声を掛ける。


 「でも、見失わない?」

 マルタも蟻を追う意味は理解出来ている。


 「大丈夫だ」

 王子は、蟻の槍に叩かれた枝葉を掴み。

 「印は有る」

 真っ直ぐにだから、それも必要の無い事でも有るが……見失っても大丈夫だとの理由付けには為る。


 「……もう少し頑張る」

 マルタ自身もコレは千載一遇のチャンスだと感じているのだろう。

 何が有っても蟻と鶏は逃したくない……と。

 今回、レベルが上がって嬉しかったがそれを共有出来る友達のエウラリアがその場に居なかったのが寂しくもあった。

 そして、その原因はアノ鶏なのだ。

 エウラリアの為にレベルを上げたのだが……出来るなら一緒にそれをやりたい。

 新しいスキルをお互いに確認して、凄いでしょう、凄いよねと言い合いたいのだ。

 それは目の前の王子では代替えの効かない重要な事だった。

 だから、頑張るのだ。

 それに今居る森も本当は怖いと思っている。

 森に入れば強い魔物も居るのはわかっているし、それと戦うのも楽しそうだ……けど、やっぱり怖いのも本当だ。

 強い魔物に叩かれれば痛いのだから。

 ココにエウラリアが居れば、森に入るのを絶対に反対するだろう。

 それはエウラリアの重要な役目だ。

 マルタが森にと言う。

 エウラリアが森は駄目だと言う。

 そういう役割なのだ。


 マルタは先に進む王子を見て。

 そして、その決断をするのは王子の役割なのだとも思う。

 頼り無いけど……年上なのだし。

 王子なのだから……と。


 と、その王子が止まった。

 マルタはどうしたのかとその先を覗いた。

 

 そこは少し開けた場所だった。

 そして、土の山がこんもりと出来ている。

 その山から蟻が頭を出しているのが見えた。


 「蟻の巣だ」

 王子の呟きが聞こえた。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

楽しみだ。

続きは?


そう感じて頂けるのなら、是非に応援を宜しくお願いします。

ブックマークや★はとても励みになります。

改めて宜しくです。


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