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003 王子……泥棒をする。


 城下街に戻りしなに、王子はステータスを確認していた。

 歩きながらに見るガラスの小窓……宙に浮くステータスウインドウ。

 そこには+1と有る。

 「スライムを逃がしても経験値が1か……」


 「倒せば10でしたけど……」

 エウラリアは小さく肩を竦めた。


 「って事は褒賞金は1ナーロぽっちか……」

 深い溜め息のマルタ。


 「1ナーロとは、この国の金の単位だよな? ナーロ……йってヤツ」


 「そうですよ、この国の王子なのに知らないんですか?」


 「いや、知っているから聞いたんだ……その1йは……どれくらいの価値が有る?」


 「飴玉、一個も買えませんよ」

 首を振ったマルタ。


 「飴玉一個が10йです」

 エウラリアが補足する。

 「子供がスライムを倒して、その褒賞金がピッタリ飴玉一個分ですよ」


 「つまり……1йとは?」

 フムと顎を抑えた王子。


 「何も買えません」


 「それは……赤字って事か?」

 王子は腰に差す折れた剣に触れた。


 「赤字も赤字……大赤字ってヤツですね」

 半笑いのマルタ。


 「それでも金は金だ……しかし、金は何処に入るんだ?」

 王子はステータスウインドウをいじくり回して。


 「ステータスには入りません」

 呆れ声のエウラリア。


 「さっきの札をギルドに持っていくんですよ……そしたらお金に変えてくれます」

 マルタは鼻で笑って。

 そんな事も知らないんですか? ってな感じだ。


 王子は考える。

 そんなもん知るわけもない。

 街に出て買い物なんてした事も無いし。

 欲しい物はメイドに頼めばスグに手に入るのだから。


 「じゃあ、そのギルドに行くのか?」


 「もう遅いですし……」

 エウラリアは空を見上げた。

 

 西の空が赤く染り始めている。


 「この時間にギルドに行っても、混んで行列ですよ……1йの交換なんて嫌がらせにしか為らないです」

 首を振って否定するマルタ。


 「なら……どうするかな」

 考え始めた王子。

 

 「武器屋にでも行ってみますか?」

 エウラリアが提案。


 「成る程……街に行けば武器も有るのか」

 フムフムと王子。


 「買うんですよ? 理解出来てますか?」


 「金がいるのか?」

 小首を傾げて。

 「適当に貰ってくれば良いだろうに……面倒臭い」


 「それじゃあ泥棒ですよ」

 またもや溜め息のマルタ。

 「この国の法では、欲しい物はお金で買うんです」


 「一応はお金も有るみたいだし」

 ジャラリと音のする革袋を出して見せるエウラリア。

 ほっぽり出された時に、同時に投げられた革袋の様だ。

 あの時に拾って置いたのは流石だ。

 王子はその存在すらも忘れて居たようだから。

 

 「それは……結構な額なのか?」


 「そうですね……遣えばスグに無くなるでしょうけど」

 革袋を懐にしまうエウラリア。

 

 「そうだよね……お金ってスグだよね」

 しみじみと、自分のお小遣いの消えた先がわからないと嘆くマルタ。


 「無くなるのは悲しいしな……」

 うーんと唸った王子は。

 「よし、着いて来い……良い武器が置いて有る所を知っている」

 ウンと頷いて。

 「ついでに、良いベットも有る」


 着いて来いとは言っても、さっさと勝手に歩き出した王子。

 二人の少女はお互いに顔を見合わせて着いていく。

 「お城には……入れないと思いますよ」

 一応の忠告だけは忘れずにしてだった。




 さて街に戻った王子は城の外壁に沿って歩いていた。

 城門は後ろなので、二人の少女も首を傾げている。

 「お城って……裏口でもあんのかな?」

 マルタはチラリと後ろを振り向いて。

 

 「無かったと思うけど……」

 エウラリアもヤッパリ不思議そうだ。


 「裏口は無いよ」

 王子はその二人の疑問に答えてやる。


 「もしかして塀を乗り越えるの?」

 マルタが見上げた先は、はるか遠くの塀の上。

 

 「そんなの無理よね?」

 釣られたエウラリアも上を見上げる。

 

 街を囲う外の外壁とは違ってまだ低い方だがそれでも10mは在りそうだった。

 そしてやはり城を囲う城壁は、広い道路の様な形に成っていて塀の側には綺麗な芝生で切られた……安全地帯? それとも警告ラインなのだろうか、が在る。

 もちろん、街路樹も建物も足掛かりに成りそうな物は塀に面していない。

 当たり前と言えば当たり前だ。

 

 城壁に沿って随分と歩いた。

 もう完全に日は沈み、街の窓にも明かりが灯る。

 その街の景色も少し変わり始める。

 建物が少なくなってきた。

 違うか……道路の幅が広く成ってきたのだ。

 それは、このまま進めば外壁とぶつかるからだった、つまりは街の外れだ……それも最奥の端っこ。


 「在った」

 迷うことなく進んでいた王子が、小さく声を上げて指を差す。

 芝生の中にエウラリアやマルタの身長と同じ位の高さの岩だった。

 

 その岩の後ろ、城壁の下の部分をジッと見詰めて待つ王子。

 暫くすると、石組の一つが凹み……ズズズズっと中に引き込まれて穴が空く。

 

 「こんな所に抜け道?」

 

 「王族や、城の重要人物しか知らない抜け道だ……中からでないと開けられない」

 そう二人に教えて、王子は中に入って行く。

 大人が這いつくばってギリギリの大きさの穴を潜ると、そこはもう城壁の中だった。



 三人は王子を先頭に城壁と城の建物の間の庭? を、進み。

 夜の闇に紛れて城の中……建物の中に入る。

 そこも、中からしか開けられない抜け道……。


 「誰が開けてくれているのかしら?」

 「誰かに見られて居る風にも思わないけど……」

 二人の疑問は膨らむばかりだ。


 城の建物の中を奥に進み……また、その奥に行く。

 そして辿り着いた場所は、城の最奥の宝物庫。

 床には金銀宝石の入った箱が幾つも無造作に置かれていて、壁には武器が立て掛けてある。

 

 「こんな所に……」

 「簡単に入れちゃった」

 

 「イザという時には、どうしてもここの宝を持って出ないと駄目だからな」

 適当に指差して。

 「先祖代々の宝に、国宝級の物……そして、王族を証明するための宝もだ」

 王子は折れた剣を適当に投げる。

 「それを逆に辿って来たわけだ」


 そして、剣の代わりを探して物色を始めた。

 幾つかの剣を振って確かめる。

 どれもこれも、持ち手の所に宝石やら何やらで金ぴかだった。

 「駄目だ……重すぎて使えそうに無い」


 「レベルのせい?」

 

 「そうみたい」

 エウラリアの問にマルタが答える。

 マルタは勝手に自分用の魔法使いの杖を探していたようだ。

 いろいろ振っては、首を傾げていた。


 「ここの武器は駄目か……」

 溜め息の王子。

 「そこらの宝石か金貨をポケットに入れて行くか?」

 

 「あの剣は?」

 と、マルタが指を差す。

 宝物庫のど真ん中にドンとそびえる何の変哲もない大きな岩の天辺に刺さる剣。

 太く大きな大剣だが、それは装飾も少なくここではとても地味に見えた。


 「あれは……俺には持てないだろう、大き過ぎだ」

 

 「でも、一度は試して見れば?」

 マルタも無理だろうけどと半笑いで。

 「実は軽かったりして……ほら、魔法具とかで」


 「そうね魔法具なら見た目とは全く違うかも知れないわね」

 

 「成る程……」

 王子は頷いて。

 「駄目で元々だしな」

 その岩に登って剣を掴む。

 と、剣が光を纏ってシュルシュルと細く小さく成って……岩から抜けた。

 手の中には、さっきまでの大剣とは違い細剣が有る。

 驚いた三人。

 王子は床に投げた折れた剣と見比べていた。


 「スゴ……」

 「なに今の?」

 

 細剣を振ってみる王子。

 「成る程マルタが言った通りだ、多分……魔法具で握った者に合わせて形が変わるんだ」

 そして飾り剣の鞘に入れてみる。

 「入った……しかもピッタリ」


 「結局、同じ剣が手に入ったのね」

 マルタが笑った。


 「今度は折らないで下さいね」

 エウラリアも笑う。


 王子は肩を竦めて。

 「出るか」


 「そうね、ここに居たら目がチカチカするし」

 

 「あれは? 汚いけど」

 入り口横に二つの肩掛け鞄がぶら下がっている。


 「ああ……それか」

 王子が二人の側に寄り。

 「それはジイチャンが昔に旅に出た時の従者が使っていた……」

 あれ? っと、首を傾げて。

 「それって……お前達の爺さんじゃあ無いのか?」


 王子はその鞄を手に取って、二人にソレゾレを投げて渡す。

 「どっちがどっちかは、わからんが借りとけ……ってか、お前達ん家の物だ、多分」


 「ええ、要らないよ……お洒落じゃ無い」

 確かに、ねずみ色のボテッとした前ダレ蓋の肩掛け鞄。


 「でも宝物庫に在るんだし魔法鞄みたいよ」

 エウラリアは冷静に自分の持つ杖を差し込んで確かめている。

 鞄と寸法の合わない長い杖が、出たり入ったりしていた。

今日はここまでです。

明日も同じくらいの時間に投稿したいと思っています。

では、また明日。


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