026 エウラリアの足の小指
用意された部屋で三人は小声で話す。
「なんだか、マズイよね」
マルタだ。
「でも、私達は一匹だけですよ」
エウラリアはベッドに腰掛けて。
「それでも、その一匹の証拠が出れば、俺達が盗賊団にされかねない」
王子は狭い部屋をウロウロと。
「レベル20のクエストに成っているんだ……捕まれば相当に酷い目に会わされそうだ」
ブルルと何かを想像したマルタ。
「逃げようよ」
「そうしたいが……」
チラリとエウラリアの足を見る。
「怪我をしたままで村を出ると……確実に怪しまれないか?」
「エウラリア……足はまだ治んないの?」
「傷はもう無いようだけど……歩くと痛いの」
「腫れているのか?」
そう王子に言われて、包帯をほどくエウラリア。
その足は白く小さい。
そして、小指だけがもう一段と白く成っていた。
「腫れてはいないのか……」
ほんの少しの色の違いを除けば、それ以外におかしなところは見えない。
「動かせる?」
小指に触れない様に、土踏まずから手添えてで支えながら。
頷いたエウラリアは、足の指をクパクパと広げたりすぼませたりを繰り返す。
しかし、色の変わった小指だけが動いていなかった。
「こうしてても痛くは無いの……でも歩こうとして体重を掛けると」
エウラリアは自分でその指を触った。
「曲がらないし、動かせないし……固いし」
王子もソッと触ってみた。
手を出してもエウラリアは拒否はしなかったので大丈夫だろうと、優しくだ。
反応は無い。
摘まんで揉んで見た。
なんだか固い感触だが、それも反応は無い。
曲げて見ようとすると、エウラリアの手が延びてきた……これは痛いらしい、少し顔が歪んでる。
王子はその手を離した。
「回復職としては……わかんないの?」
マルタも王子の横から覗いていた。
「鑑定を使って見ても……要治療状態って出るだけ」
フウっと溜め息のエウラリア。
「それは状態異常って事か?」
王子が触った感触を思い出して。
「わかんない……単純にレベルが低いからそう表示しているだけかも知れないし」
弱々しく首を振った。
「状態異常なら……毒とか? 呪い?」
マルタも考えている様だ。
「呪いなら私の呪符師なんだろうけど……私のはLv1だし……」
「そういえば、マルタは鑑定って持ってる? スキルだけど」
エウラリアがそんなマルタに聞いた。
「アレは職に依存しているから、呪いならマルタが鑑定すればわかるかも知れない筈」
「持ってない」
それって必然なモノなのだろうか? と、フルフルと首を振ったマルタ。
「呪いにも色々と種類が有るだろうから、最初に教えられる筈だけど……呪符師には関係が無いのかしら」
首を捻ったエウラリア。
「教えられる? 誰に?」
驚いたマルタ。
「職を貰った人……私の時は、薬師のお婆さんだった」
「あ!」
マルタは渋い顔に成り。
「ほとんど喧嘩越しに話して……スグに追い出された」
そして青い顔に成った。
「鑑定は教えて貰ってない……失敗したのかな?」
オロオロとし始めたマルタにエウラリアは。
「トイレ掃除とかでも出るそうよ」
「えぇ……やった事ない」
顔をしかめて。
「それは、やりたくない」
でも、必要ならやらないと駄目?
微妙な葛藤が始まったようだ。
顔をアチコチに向けて、複数の変な顔を見せたマルタ。
「まあ、それは良いてして」
そんなマルタを見つつ、王子は立ち上がり。
「状態異常なら、薬か札で治るんだろう?」
見たところは傷は無い、骨に異常は患部そのものが固くてわからない。
が、骨折なら腫れるだろうし……場合によっては熱も出る筈。
それらが無いなら、やはり状態異常だ。
そう決め付けた王子は。
「とにかく薬か札を買ってきて、手当たり次第に試せば良いだろう」
エウラリアを部屋に残して、外に出た王子とマルタ。
正面にギルド会館の見える通りの左右を見た。
ギルド会館と宿屋が有る通りだ、この道は大通りか商店街通りの筈だ。
「どっちに行く?」
王子はマルタに訪ねたが、ただ肩を竦めるだけのしぐさで返された。
仕方無いので、適当に右に歩き始めた。
来た方は左だったし、そんな店は無かったと決め付けたのだ。
ただし、自信は無い。
村に入ってスグの頃は薬屋も札屋もまったく気にしていなかったからだ。
人は気にしなければ見ていても意識にまで届かない。
だから、たぶん無かったのレベルにも到達しないほどに王子にはわからなかったのだ。
そう、王子が右に行くのはただの勘。
グダグダと考えたのは、その勘を正当化するための理由付け。
それでも、王子は運が良かったのか、歩き出してスグに薬屋を見付けた。
フム……と、王子とマルタは顔を見合わせて中に入る。
入れば小さな店だが、幾つもの棚が並びその中に所狭しと小さな薬瓶が並んでいた。
「う……沢山有る」
種類に圧倒される王子。
「半分は攻撃用だよ」
奥のカウンターに座るおじさんが王子の出した声を聞いていた様だ。
「いらっしゃい……冒険者かね?」
おじさんは掛けている眼鏡をクイッと正しながらに。
少し驚いた王子だが、丁度良いとおじさんの居るカウンターに進み。
「この辺りで成りそうな状態異常の回復薬が欲しいのですが?」
「魔物用のか?」
頷いたおじさん。
「なるほど良い心掛けだな、事前に用意しておけばイザという時に焦らなくてすむ」
「そうですね」
王子も頷いて。
「一通り頂けますか?」
「ああ、そこの棚だよ」
おじさんが指差した棚にも幾つもの小瓶が整頓されて綺麗に並んでいた。
「手間から毒消し、痺れ消し、マヒ消し……」
店のおじさんが教えてくれる小瓶を一つづつ取っていく王子。
と、何も無い一列が目に入った。
その空っぽの場所で手が止まる王子を見てか、店のおじさんは。
「その場所は石化回復薬なんだが……今は無い」
「何故です?」
石化に引っ掛かるものを感じた王子が尋ねる。
「ヤコポが買い占めていったよ」
「ヤコポ?」
何処かで聞いたような……と、首を傾げる王子。
「宿屋の主人だよ、養鶏場も経営しているからね……まあ、必需品だな」
「ああ……コッコ麦の宿の……」
と、そこでまた首を捻る。
「宿屋に石化って? 何故?」
「宿屋には関係が無いが、養鶏場の鶏はツツかれると希に石化するからね、だからだよ」
「え! 鶏って石化攻撃をするんですか?」
驚いた王子が声を上げた。
それはエウラリアの足がそうだと理解したからだ。
「あはは、知らないのかい?」
「はい、まだ冒険者に成ったところですので……勉強不足で……」
苦笑いの演技をしてみた。
実は背中には冷や汗も掻いている。
今の不用意な会話でバレるんじゃあ無いかとだ。
「鶏は進化すれば、最終的にコカトリスに成るからね石化は初めから持っているんだよ」
笑いながら。
「危なく無いですか?」
養鶏場っていうくらいだ、多数の鶏を飼っている筈だ。
「大丈夫だよ、経験値さえ上げさせなければ鶏として成長してそのまま寿命を迎えるから……それ以前に肉にされるしね」
「はあ……でも石化はやはり危険では?」
「それもたいした事は無いよ、所詮は低レベルの鶏だ、石化なんてまれの事故だし、成ったところで小指の先位の範囲だしな、薬が有れば一発だ」
「でも……無いですよね?」
王子は空の棚を見る。
「ここらで鶏を飼っているのはヤコポだけだし、野生は居ないからな普通は必要ないな」
「なるほど、鶏を飼うのも大変だ」
空いたスペースを指差しながら。
「こんなに薬が必要ってことは、ヤコポさんもしょっちゅう石化してるんですね」
「しないよ、石化なんて年に一回か二回だし、ヤコポはベテランのプロだからね……ここ何年もそんな事故は無いんじゃあ無いかな?」
「え? でも薬を買い占めたんでしょう?」
「それはわざとだよ」
ニヤリと笑ったおじさん。
「冒険者なら知っているだろう? 最近の鶏泥棒の話」
頷いた王子。
ここまで話して知らないとは言えない。
「流石に素人が鶏を触ると石化の事故の確率も増える」
王子も理解した。
「ってことは、慌てて石化の薬を買いに来るヤツは……」
「そう、ソイツが犯人だ」
薬屋のおじさんは、ビシッと言い切った。
ドーン……と、効果音と共に。
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