002 王子……スライムに逃げられる。
城の外壁外にペイっと捨てられた王子。
ファンファーレに釣られて集まってきた城下街の住人達にクスクスと笑われる事に成る。
だがそんな事はお構い無しに、スクッと立ち上がった王子は、硬く閉じられた城門を叩き続けた。
「中に入れろ! 行きたくない!」
ドンドンドン!
しまいには蹴飛ばして。
ドンドンドン!
そんな王子の両脇を抱えた二人の娘。
顔を真っ赤にして。
「王子……恥ずかしい過ぎる」
そう告げて、服を引っ張った。
「兎に角ここは、一度離れましょう」
12歳の小さな娘が二人でも、流石に16歳の男子を引っぱるのは無理な筈だが、そこはレベル1の王子……レベル3とレベル4には敵わない様だ。
ズルズルと引き摺られて、街を抜けて行く。
「嫌だー、放せー……」
ズルズル……。
バタバタ……。
城下街を素通りして、街の衛兵に少女二人が適当に挨拶して……そして、今は完全に街の外。
衛兵は引き摺られる王子を見てみぬフリをした。
どうやら街中に御触れでも出したかのようだ。
そして今は、街から少し離れた草原の中。
春の装いか色とりどりの花が咲いていた。
「いい匂い」
鼻をクンクンと鳴らすエウラリア。
「風も気持ちいいわね」
マルタは大きな深呼吸。
「何を現実逃避しているんだ」
王子は引き摺られたままに顔だけを上げて。
「城に帰るぞ」
立ち上がった俺の服を引っ張り、足払いを掛けたエウラリア。
「まずは自己紹介ですね」
と、にこりと笑う。
「私はエウラリア、白魔術士でLv4です」
「私はマルタ、黒魔術士でLv3です」
「知ってるよ……Lvは、さっき聞いたし」
もう一度立ち上がり、街の方に足を出す。
「私は犬耳族です」
慌てたエウラリアは頭に被っていたローブ脱いで、頭? 白い毛並みの犬耳を見せた。
「知ってるよ……左大臣の孫だろう?」
左大臣が犬耳なら孫も犬耳だろう、当たり前だ。
「私は……」
マルタも慌ててローブを剥ぐが。
「猫耳なんだろう?」
右大臣が猫耳だと王子は知っていたので、それも当たり前だ。
黒い毛並みの猫耳が前に垂れる。
「挨拶はすんだか?」
王子はもう一歩を踏み出して。
「なら帰ろうか」
王子の服の裾を二人して掴む。
「駄目ですよ今、帰ったら叱られます」
「そうだよ、チョッとだけ……ね? 先っちょだけでも良いからドラゴンを見に行こうよ、ね?」
「なんだよ、先っちょだけって……」
ドラゴンに先っちょだけって有るのか?
尻尾の先か?
「とにかくだ、俺はアウトドアが嫌いだ!」
産まれてこの方、インドア派だ。
そして、この先もズッとそれは変わらない。
王子はそう吐き捨てて足を動かすが……残念な事に一歩も動かなかった。
そんな事をしていると、突然に何処からか軽快な音が鳴り響く。
ピロロロ、プーパープーパパー……。
「何事だ?」
「この音はモンスターです」
「何処よ何処よ」
少女二人は辺りを探る。
王子も見れば。
ズザッっとスライムが現れた。
プパラッパラパラ、プープープパー……。
何処からか聞こえる音楽が皆を焦らせる。
「スライムです」
「闘わないと!」
二人の少女は杖を構えた。
王子はスライムを初めて見るようで、まじまじとその姿を見詰めている。
青い半透明のプヨプヨとした体、大きさは高さが30cm程の下膨れの水滴……見るからにゼリー状、そんな魔物だった。
「弱そうだな?」
王子の初スライムの感想はそんな感じ。
「弱いですが……慎重に倒しましょう」
「そうだね、旅に出て初めての魔物出し……」
二人はニジリ、ニジリとスライムに近付こうとする。
「あっそう? じゃあ適当にお願い」
どうでもいいと投げ遣りな王子の発言。
「なにいってるんですか、王子も頑張らないとレベルが上がりませんよ」
「レベルって仲間なら一緒に上がるんだろう?」
自動で振り分けかな?
「あ!」
慌てたマルタ。
「まだ、パーティーを組んでない!」
それに釣られて慌てるエウラリア。
「王子! 早くパーティーを!」
ん? な顔の王子。
「それって、どうやるんだ?」
「なに言ってるんですか、今までパーティーを組んだ事が無いんですか?」
さあ早くとエウラリア。
「そんなもん無いよ」
肩を竦めた王子。
「うそーん……その年で一度も?」
マルタが変な声を上げた。
「無いよ」
馬鹿にされた気分で適当に答える王子。
「ボッチじゃん……」
マルタが言葉を落とす。
「友達は居なかったんですか?」
「居たら……レベル1なわけ無いだろうが」
「威張って言うことじゃあ無い……です」
情けなさ過ぎると、エウラリアも首を落とした。
ブリュリュ……ペシペシ。
マルタが-1のダメージを受けた。
足を叩かれた様だ。
「痛くないのか?」
「それよりも早く……」
「コマンドの出し方はわかりますか?」
ほぼ同時だ。
「それくらいはわかるさ」
王子は目の前を仰ぐ様に掌を横に動かす。
半透明なガラスの様なモノが目の前に現れた。
「それのコマンド、仲間にするです」
叫ぶ様にエウラリアが、その部分を指差して。
「こうか?」
王子も面倒臭そうにそれに触れる。
コマンドが変わり、人物の指定を促された。
適当に指を指して。
「エウラリアとマルタ」
そう口にすると。
ピピピ、ピピピン、パラリラリーン。
やはり何処からの音かは不明だが、短い音楽が聞こえる。
そして半透明なガラスに文字……エウラリアとマルタが仲間に加わった。
ステータスも見られる様だ。
「フムフム」
試しにマルタを指定してみる。
職業1……黒魔法士 Lv3
HP……
MP……
「どうでも良い情報だな」
適当に流す王子。
スキル……火の玉 水の玉 風の玉
「ほう……これは攻撃呪文か? 流石に魔法使いだな」
少し驚いた声を発してマルタを見た。
その魔法を使う様だ。
構えた杖の先に、とても小さな火の玉が浮かぶ。
「随分と小さい様だが……小指の爪位のサイズだ……」
それでも魔法だと見ていると。
その火の魔法は、フワフワと宙を飛び……50cm位の所で力尽きた。
フッと消える。
もちろんスライムには届きもしていない。
ええ……ガッカリとした顔の王子。
「それだけ?」
「火の玉! 火の玉! 火の玉!」
マルタは頑張って連発しているが……その火の玉を王子がはたき落とした。
ペシッと……。
地面に焦げ目も付けられないマルタの火の玉。
線香花火の様にポトリと消える。
首を振った王子……エウラリアを見る。
見られたエウラリアは、頷いて。
両手で杖を構えて持ち上げた。
「ライト!」
叫んで居るのだが……何が起こったのかもわからない。
「それは?」
とにかく聞いてみた。
「明かりの魔法です、周囲を少しだけ明るくします」
「そうなの?」
エウラリアを見て……そして空を見上げる。
明るい太陽がそこに在った。
「もしかして……太陽に負けた?」
王子の一言に真っ赤に成って叫ぶ。
怒っているわけでは無い様だ。
恥ずかしいらしい。
「私は白魔法で回復専門ですから……回復なら任せてください」
マルタの側に寄って。
「今からマルタに回復を……」
「いいよ……怪我してないし」
さっきからスライムに叩かれている方の足を避ける様に横に動かす。
「その魔法……後が臭くなるし……」
「臭い?」
魔法に臭いが有るのか?
それは初耳だと、エウラリアを促した。
見てみたい。
と、エウラリアはおもむろに自分の指を口に入れて……唾液がベッタリの指でマルタの足に触れた。
治療をしたであろうその箇所は、エウラリアの唾で光っていた。
「ああ……それ、昔にばーちゃんにやられたわ」
溜め息しか出ない。
「なるほど……二人共に役立たず、か」
ほとんど声に成らない呟きだが、二人にはそれが聞こえたようだ。
「なら王子が殺ってくださいよ……歳上でしょう?」
マルタが切れる。
エウラリアもウンウンと頷いていた。
「ああ、わかったよ」
スライムは魔物の中でも最弱と聞いている。
いくらLv1でも倒せるだろうと、飾りの細剣を抜いて構えた王子。
大きく振りかぶって、スライム目掛けて振り下ろす。
……サッと避けたスライム。
ポヨヨンと震えている。
その横にカキンと振り落とされた細剣が……地面に当たってポキリと折れた。
真ん中で折れた剣の鍔を持ち……ジッと見る。
「駄目じゃん」
「うわぁ」
ズザザザザ……。
スライムに逃げられた。
同時に音楽も止む。
折れた剣でも、スライムには脅威に感じた様だった。
「恐れを為して逃げたか……」
逃げたスライムのいた場所に、青い光で出来た飴玉の様なモノが浮いている。
「スライムに逃げられるなんて……最悪」
「これは……初めての経験ですね、有る意味貴重です」
マルタはジト目。
エウラリアは呆れ返っていた。
「お前達は、スライムの討伐経験が有るのか?」
さっきのアレでか?
「はい、弟王子様とですが有ります」
エウラリアの答えにマルタも頷いていた。
「そうか……」
王子も頷いて。
「一つ質問が有るのだが……良いか?」
「なんでしょう?」
「なぜに弟は様付けで、俺は王子だけなんだ?」
気には成っていた事の一つだ。
「それは……」
二人してソッポを向いた。
少しだけ睨む王子。
「弟王子様はLv7ですし……」
エウラリアが言い難そうに。
「スライムに逃げられる事も無いしね……ねぇ」
マルタはエウラリアに同意を求める様に。
「さいですか」
鼻を鳴らして肩を竦める。
「じゃあ帰るぞ」
もうどうでも良いとその場を後にしようとすると、エウラリアが呼び止める。
「なんだよ、武器も折れたし……このままじゃあ駄目だろう?」
折れた剣を目の前にかざして見せて。
「旅に出るにも新しい武器が必要だろうに」
「いえ、一応は戦闘の経験値を拾っとかないと……」
さっきのスライムが残した飴玉の様なモノを指差したエウラリア。
「アレが経験値なのか?」
「はい、それと戦闘の証明書にも成ります」
「そう……」
適当に返事をして、その飴玉に触れる。
が、手はそれを素通りした。
「いえ、札に書き込みます」
ん?
少し首を捻るが。
「良くわからんが……じゃあ任せる」
「はい、マルタ……札を出して下さい」
エウラリアはマルタに手を差し出すが。
「いや、持ってないよ私」
目の前で手を左右に振るだけ。
「エウラリアは持ってないの?」
「私も持ってないです」
二人して俺を見た。
「何時もは弟王子様がしてくれて居たので……」
「俺の仕事って事か?」
それにハッキリと頷いた二人の少女。
「わかったよ」
キョロキョロと辺りを見渡して。
草原の少し先に見付けた一本の木を睨み。
「ここで少し待て」
そう言って王子はその木に迄行って、戻って来た。
手には何枚かの札を持ち、それをエウラリアに渡す。
「これで良いだろう? 後は任せる」
「はい」
と、受け取ったエウラリアとマルタは小首を傾げていた。
ナゼに木の側まで行ったのかが不思議らしい。
が、それよりもと催促をする王子は飴玉を指差していた。
今一納得のいかないエウラリアだが。
一枚の札でスライムの残した飴玉に触れると、その飴玉はフッと消えて無くなる。
そして、王子に見せてくれた札に良くわからない文字が刻まれていた。
「それで終わりか?」
頷いたエウラリア。
「じゃあ……帰ろう」
王子は城下街に戻る様に歩いて行った。
いかがでしたでしょうか?
面白そう。
続きが読みたい。
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