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016 王子の決めた扉


 王子は最奥の扉まで来た。

 廊下のドンツキだ。

 振り返ればそれまでの部屋が見えるが、途中の部屋は完全に無視だ。

 そして、手を伸ばす。

 

 「ここのは特別に強いニャ……見るだけにするニャ」

 猫が忠告をする。


 それに頷いて、扉を開けた。

 部屋はそれまで見てきた部屋と同じ。

 ただ奥に座る人形は二体あった。

 着ている服の色の違いは有るが、どちらも同じ形の西洋人形。

 片方が青。

 片方が赤。

 

 不思議に思った王子は部屋の奥に入り、その人形をじっと見た。

 遠目では座っているせいでか、わからなかったが三等親の体……だが見えている部分は陶器に見える。

 もちろん異様に大きい、白い顔の頭部もだ。

 目玉はガラス玉だろうか?

 頭髪はどちらも綺麗な金髪で、後ろで結ばれたポニーテール。

 顔は……キモカワイイ……。

 ソッと触ってみる。

 冷たく固い肌。

 服に隠れた体は思ったよりも細い感じだ。

 そして、間接は球体間接。

 微妙に西洋人形とは違うのだろうか?


 しかし、王子が気に為ったのはソコでは無い。

 この部屋には人形が二体ある。

 猫はたしかに、一部屋に一体と言っていた。

 二体で一体……そこには何か意味が有る筈だ。

 そして、特別と言う言葉。

 王子はこの部屋に決めた。

 しかし正攻法では無理なのはわかっている。

 だからさっきの思い付きなのだ。


 王子は踵を返して部屋の外に出る。

 扉を後ろ手で閉めて、すぐに……ドラゴンのぬいぐるみからイカ串を出した。

 「考える時間が欲しいから、休憩をしよう」

 目線は猫を見ずに、今までの続く扉を順に見る。


 「ニャニャニャ!」

 猫の目が王子の手元に釘付けに成る。

 「それはニャんだ?」


 「イカ串って食べ物だ」

 猫の前でヒラヒラと揺すり。

 「食べたいか?」

 後ろ手の手でソッと部屋のノブを回す。

 

 「くれるのかニャ!」

 食い気味に返事を返す猫。


 その時、部屋の中からクスクスと笑う小さな女の子の声が漏れ聞こえて来た。

 

 「あ!」

 猫が叫びを上げて、王子の後ろを指差した。


 王子も振り返り。

 「ああ……完全に閉まって無かったか」

 わざとらしく演技をして。

 「閉めた積もりだったのだが、ナゼにこんなコトに……」


 「あははは……クスクス……」

 部屋の中からの声。

 「声が聞こえたよ……プペ」

 「聞こえたわね……アン」

 「何処に行ったのかしらね……プペはどう思う?」

 「さあ何処かしらね……アンはわかる?」

 

 猫は今更ながらに口を押さえて慌てていた。


 「声は二人……」

 「そして扉の外ね……」

 

 ビクリと肩を竦ませた猫。


 「遊んで貰いましょう」

 「どんな遊びかな?」

 部屋の中でガタン、ゴトンと音もする。

 人形が動き出したのだろう音だ。


 扉の外でそれを聞いていた王子。

 嬉しい誤算にほくそ笑む。

 「鬼ごっこかな? かくれんぼかな?」

 そう叫んで返して走り出した。

 ここ迄の廊下の扉を順に総てを開ける為に。

 

 猫が口を押さえながらに騒ぎだす。

 王子も無言で扉を開け続けた。

 

 バン! と、音と共に扉が開かれる。

 「見付けた」

 「見付けた」

 お互いをプペとアンと呼んだ人形は、床から少し浮いてスケートの様に滑り、逃げ遅れた猫に襲い掛かった。

 

 驚き、飛び上がった猫。

 脱兎のごとく走り出す。

 そして、王子を抜き去って最初の玄関ホールに辿り着いた。

 その頃には、王子も右の廊下の扉を全部開いて猫と合流する形に成る。

 猫は声に出せないジェスチャーで、王子に抗議した。

 右手、左手、右足、左足、総ての肢体と体を使っての孟抗議だった。

 ……なんてコトをしてくれたんだ!……

 たぶんこんな意味だ。


 王子も答えてジェスチャーを返す。

 ……勝てそう?……

 そう、王子は自分で人形を倒そうとはしていない。

 猫や他の人形を使っての他力本願だった。


 「うふふ……」

 「きゃはは……」

 二体の人形は廊下を滑る様に進んでくる。


 ……アンなのに勝てるわけがない……

 猫のジェスチャーだが、おかしな話だ。

 猫は傀儡師だろう?

 しかし、酷く慌てている。

 

 ……なんで勝てない?……

 王子はジェスチャーでたずねる。

 職業の訓練や指導をする立場なら、高レベルだと思うのだが。


 ……今は使役している人形が居ないからだ!…… 

 

 ……なるほど、傀儡師はレベルが上がっても戦うのはあくまでも人形だからか……

 つまりは傀儡師そのものには戦闘能力は無い。

 そして決して強くは成らないと、そういう事か。


 なら……。

 王子は二体の人形を見て。

 あれはそもそも無理ゲー?

 ココではトラップ扱いか?

 でも……それを伝えていた猫も居たから、意味は有るのだろうか?

 素直な人間なら……たぶん王子以外は猫の忠告は聞くのだろう。

 やはりあの二体の人形の居る意味がない。

 

 そんな事を考えていた王子。

 と、マネキンが部屋から飛び出して二体の人形に飛び付いた。

 明らかに攻撃をしている。

 ……やはりか、他の人形も使えるわけだ……

 王子のジェスチャーは独り言なのだが、それをジェスチャーに表す意味は無かった。


 とにかくだ、もっと味方を増やそうと今度は左の廊下に走り扉を開けていく。



 全部の部屋の扉を開け放った時には、屋敷は大混乱に成っていた。

 二人の人形は、足の遅いモノの攻撃は素早さでかわし。

 速いモノが居れば短い肢体で格闘家のごとくになぎ払っていた。

 簡素な人形も大きなマネキンも、複雑な動きをする操り人形もだった。

 そして、猫が言った特別なとの言葉通りに強さは見せ付けていた。

 だが、敵と成ったモノが多過ぎたのか王子の元には中々に辿り着けない様子。

 それでも小さな女の子の声音の笑い声は絶やす事もなく続けている。

 今の混乱も二人の人形に取っては楽しい遊びなのだろうか?


 と、左の廊下の最奥の部屋から三体の人形が飛び出してきた。

 一体は大きなライオンのぬいぐるみ。

 もう一体は木と布と紐で造られた山羊の操り人形。

 最後の一体は竹を繋ぎ合わせた蛇の人形だった。

 こちらの最奥の部屋も複数で一つの人形の様だ。

 やはり何か意味が有るのだろう、王子はその三体を見守り続ける。

 今は人形達の意思の有る無しは別にしてもこちら側の味方の筈だからだ。

 敵の敵は味方ってヤツだ。

 

 だが、強さに関してはどうなのだろうか?

 三体の方はバラバラで強そうには見えない。

 まあ、二体の人形も見えないのだが実力は戦って示している、今までは圧倒的だった。

 しかし、右の廊下の奥が特別と言うのなら。

 左の廊下に奥も当別な筈。

 それを猫に直接に聞いたわけでは無いが、それは普通に想像できる。


 竹で出来た蛇が鎌首をもたげて飛び掛かった。

 カタカタと音を立てるそれは、とても強そうには感じないが速さは有った。

 だが、二人の方がそれよりも速いようだ。

 赤色の服……アンと呼ばれた方が素早く伸ばした手で蛇を掴み、ライオンのぬいぐるみの側に投げ捨てる。

 それを合図にか……プペと呼ばれた方が山羊に取り付いた。

 プペとアンも自分達に向かってくるモノの中では、その三体が最強だと感じているようだ。

 王子には、その人形達の表情が今までとは違う様にも見えたからだ。

 

 アンもまとわり付く雑魚を蹴散らして参戦しようとライオンに飛び付こうとした時。

 突然に三体が光を放ち始めた。

 そして光は液状に変化をして交わりだす。

 その状態は何かの波動でも出しているのか、山羊に組み付いていたプペを弾き飛ばして……そして光は一つに集束に向かう。

 残ったその場所には、ライオンの頭と山羊の頭と蛇の尻尾の生き物が居た……人形では有るがそれは紛れもなくキマイラと言う名の魔物だった。

 

 それを見てか初めて怯んだプペとアン。

 だが、次の瞬間。

 お互いが笑みを返して、クルクルと回りながらに踊り出す。

 回転に勢いが着いた時。

 お互いの左腕を重てそれを軸に小さくコマの様に回転を速めて……最後は溶け合う様に一つに成る。

 服は消え去り裸で、髪の毛はポニーテールからツインテールに変わり、体躯の大きさは王子の身長の二倍程の、巨大な二頭身の球体間接人形。

 

 その二体が対峙して睨み合う。

 王子は知った……特別なの本当の意味をだ。

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