015 傀儡師と人形
「人形を選ぶとは?」
王子は目の前の猫……ケットシーにたずねた。
「傀儡師は人形使いの事だニャ、だから使役する人形を選ぶのニャ」
「これでは駄目なのか?」
抱えているドラゴンのぬいぐるみを指差した王子。
「レベルが上がればそれでもいいニャ、でも今は人形に込める魂の生成は出来ないのニャ」
「魂の生成?」
「人形も魂が無ければ動かないのニャ、それを造り出すのも傀儡師だニャ」
ウンウンと頷いて。
「ちなみにだけどニャ、高レベルに成れば人形そのものも造れる様に成るニャ」
「で、その魂が既に入っている人形がココには有ると?」
選べというならそうなのだろう。
「そうだニャ、傀儡師に成っても人形が無ければレベルは上げられないからニャ」
「そりゃあそうだ」
王子も納得した。
人形を造る……それ以前の魂の生成もレベルの制限が有るなら、最初はどうするかだが、元から出来合いのモノをココでくれるとそういう事のようだ。
「納得したかニャ」
王子を見て、ケットシーは続ける。
「右はヒトガタだニャ」
ここから見える廊下の右側を指す。
「左はそれ以外だニャ」
次に左の廊下を指す。
「それには、どう違いが有るのだ?」
性能差?
「単純な能力つまり攻撃力なら、それ以外ニャ……魔物とか、それこそドラゴンも有るのニャ」
王子のぬいぐるみを指差す。
「でもヒトガタは汎用性が高いのニャ、使い勝手が良い感じだニャ……例えば喋れるモノも居るし、モノによっては人の使う武器も装備出来るニャ、制限は勿論有るけどニャ」
「わかった」
王子は迷わず右に進もうとした。
「決断が早いニャ」
アワアワと慌てて着いてくる猫。
「迷わないのかだニャ?」
「レベルを上げればそれ以外も手に入るのだろう? なら、最初は使い易いモノで訓練も兼ねるのが良いだろうと考えたのだが……間違いか?」
ヒトガタを選んだ理由としてはそんなもんだ。
決断が早いのは、王子としての訓練を受けているからだ。
普段から悩む事は許されない、王に成れば数分の判断の遅れで戦争に成るなんて事も有るのだからだ。
ただし決断の必要の無いものは、流す事も有る。
例えば今日の食事はと聞かれても、何でも良いと答える。
それは料理人と食材とを考えれば流すべき事に為るのだからだ。
だから、常に考えるのは今のは決断が必要か流すかを瞬時に判断する事……王子はそれを産まれた時から強要されていた。
そんなだから、王にドラゴン退治と命じられた時も即答で嫌だと答えた。
そして一度決めた事は出来る限りは変えないのも必要だ、指示を出すものがコロコロと意見を変えればその下は混乱するだけだからだ。
多少のみっともなさは仕方が無い……。
だが、全く決断が出来ない時も有る。
ココに来た時がそうだ……決断をしようにも情報が無さすぎる、そんな時は判断が出来るものが揃うまでは動けない事に為るのも仕方無い。
それは王子が経験が少ないというのも理由として有るのだし、それにまだ訓練の途中でも有るからだ。
まあ、王に成れば情報が少ないなんて事は有り得ないのだが……そんな類いの話は王の耳には入らない。
常に決断が出来るだけのモノが揃ってから、右大臣なり左大臣が王にたずねるからだ。
城から出た今は、それも増えるのだろうと王子はウンザリと考えていた。
何処かで立ち尽くす……そんな事だ。
廊下に立つ王子。
左右には幾つもの扉が見える、それぞれが部屋なのだろう。
「どうすれば良い?」
後ろから着いて来た猫に話し掛けた。
「それぞれの部屋の中に一体の人形が居るニャ、それを選んで倒すのニャ」
「何処の部屋にナニが有るのかはわからないのか?」
「覗くだけなら襲って来ないニャ……でも、一言でも声を聴かせればその声の主を襲うニャ」
「例えばその声が……あなたでも?」
王子は振り返り猫を見る。
猫はそれに頷いた。
「人とか妖精とか……魔物でも関係が無いニャ、ここの人形達は主人がいないニャ」
部屋の扉を指して。
「つまりは判断が出来ないのニャ、だから扉は開けたら絶対に閉めるのニャ」
なるほどと、一番手前の扉を開けた。
部屋はなんの変哲も無いリビング。
中央の目立つ所にテーブルとソファー。
左右は絵が飾られている……そして奥には飾り棚。
その中央に置かれていたのは、ワラ人形。
それがこの部屋の本命なのだろう、それ以外に意味は持ちそうにない……部屋の内装もただのカキワリと同じだ。
王子は静に扉を閉めた。
「気に入らないかニャ」
猫が喋る。
少し驚いた王子だが、すぐに理解をする。
「扉を閉めていれば声は届かないのか」
「しっかりと閉じていれば大丈夫ニャ」
猫も頷いている。
頷いた王子は次の部屋の扉を開けた。
部屋の内装はさっきと同じ造り。
そして奥には、木の胴体と縄の手足の簡素な人形。
首を振って扉を閉めた。
「これも駄目かニャ」
フムと頷く猫。
「あんまり選り好みはしない方が良いニャ、奥に行く程に強く為るニャ」
「倒すと言っていたが、段々と難しく為るということか」
「そうだニャ……失敗すると強制的に最弱の人形に為るニャ」
「それはどんな?」
「ちり紙で適当に丸めて造った人形ニャ」
「フーム……さっきのワラ人形と変わらん気もするが」
顎の下に拳を当てた王子。
少し考える。
失敗のペナルティーがそれなら、死ぬとかでは無さそうだ……多少は痛い事も有るかも知れないが大事には成らんのだろう。
ならチャレンジしてみるのも良いかも知れない……何せ元からLv1だ。
スライムすら倒せないのだがら、さっきのワラ人形も怪しいだろう。
結果がちり紙人形なら、適当に遊ぶ積もりでやって見るか。
王子はそう考えて、次の部屋の扉を開けた。
木で出来た人形。
クルミ割り人形か?
その次も木の人形。
ピノキオみたいな操り人形の様だ。
「同じ様な人形が続くなぁ」
人形そのもののLvが低いのだろう。
少し部屋を飛ばして、奥に進んで扉を開けた。
……デカイ。
等身大のマネキンが有った。
一度その扉を閉じて考える王子。
今のはそれなりに強そうに感じた。
しかし、廊下はまだ奥に続いている……つまりはもっと強いヤツが居るという事だ。
ウーン……と、唸る王子。
抱いているドラゴンのぬいぐるみを抱き締める。
勝てる見込みはどれくらい有るのだろうか?
たしかに素では確実に勝てないだろうが、もう既に傀儡師としての職は得ている筈。
それの補正とか調整とかは無いのだろうか?
人形が相手だと強く成るとか何とかだ。
その可能性はたぶん無いのだろうが……一応は猫に聞いてみようと顔を向けた。
猫は目を瞑り鼻をヒク付かせてヨダレを垂らしていた。
「なんか……良い匂いがするニャ」
ん?
と、すぐに何を言っているのかが見当が付く王子。
下を見れば握るぬいぐるみが歪み、口が少し開き掛けている。
イカ串の匂いに反応をしたか。
すぐに力を緩めて、口を閉じさせる。
「そうか?」
肩を竦めて誤魔化した。
猫は ? な顔を見せる。
突然に匂いが消えたからか?
そのまま猫を観察し続けて。
ドラゴンのぬいぐるみの口に指を突っ込み、少しだけ開いた。
は! と、した顔でキョロキョロと顔を振る猫。
また、すぐに閉じる。
なるほど、コイツは相当に食い意地が張っている様だ。
いや、猫の本能に逆らえないのだろうか?
ヨダレや仕草には理性が欠けて見える。
ヨシと膝を打つ王子。
良い事を思い付いたとそんな顔だ。
「どうせダメ元だ……試す価値は有るかもだ」
少し悪い顔に歪む。
いかがでしたでしょうか?
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