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014 王子のサブジョブ

 

 王子は大きな屋敷のホールに居た。

 背中には二枚扉の正面玄関口。

 目の前、正面には途中で左右に別れる大階段。

 右を向いても左を向いても同じ造りの廊下が延びている。

 貴族の洋館としても、位は上の方の屋敷なのだろう……。


 が、王子には全くピンとこなかった。

 それはそうだ、城からほとんど出ない上に、他の貴族の屋敷等は入った事も見た事も無い。

 相手が大貴族では在っても、王子がその屋敷に出向く事などは有り得ない。

 用が有るなら呼び付けるのが当たり前で、礼儀だ。

 それは相手に取っても優しさに成る。

 王族をもてなすホストとも為れば、一財産どころの騒ぎでは無くなるからだ。


 そして、王子は立ちつくす。

 案内のメイドも執事も近衛兵もが見当たらないからだ。

 それ以前に人の気配も無いのだが。

 いや、人以外なら……白と黒のハチワレ猫が一匹、目の前には座っていた。

 首輪もしているので飼い主はいる筈だ。

 声を上げるべきか?

 しかし、王族の自分が声を上げても良いのだろうか?


 慣れた城ならばそんな事は考えないし。

 エウラリアやマルタは、出会いが王族らしくない自分でなので気にする以前に仲間に成れた。

 弟王子の友人だというのも、有る意味では助けに為ったかも知れない。

 街でも、おしのび気分で冒険者を演じていたが、他人の……たぶん貴族の屋敷ではそうもいかないだろう事は流石にわかる。


 さて……どうしたものか。

 待つ以外の選択肢を模索する。

 つまりは立ち尽くす。


 「なにしてるニャ」

 突然に猫に話し掛けられた王子。

 驚いて困惑した。

 しかし、まだ案内は来ていない。

 このまま猫と話をしても問題は無いのだろうか?


 「なんか言えニャ」

 しつこく話し掛けて来る猫。

 そして、無礼でも有るが……所詮は猫だ礼儀も何も無いのだろう。


 「黙ってられてもわからないのニャ」

 

 「わからないのはこっちだ」

 我慢が切れた王子は猫に返事を返す。


 「喋れるならそう言うニャ」

 やれやれとそんな顔をした猫。


 「ここの主を呼べ」

 

 「この屋敷の主は自分ニャ」

 座っていた猫が、二本足でスクッと立ち上がる。

 喋る上に立つのかと、更に驚いたのだが……。

 「猫が屋敷の主?」

 そちらの返答にはもっと驚かされた。


 「猫じゃあ無いニャ……ケットシーだニャ」

 ニヤリと笑う猫。


 「猫の妖精か……」

 マルタも猫耳だが、アチラは人間だ。

 一応は種族的な繋がりでも有るのだろうか? などと考えてみる。


 「何を不思議な顔をしてるニャ、お前は何しにココに来たニャ」


 「何をと言われても……職業のスクロールを見ていたら突然にココに」

 王子にも良くわかっていないのだ、説明は難しい。


 が、猫はそれでわかったようだ。

 「珍しい客だったニャ」

 驚いていた。

 「傀儡師に成る者なんて何十年ぶりだニャ」


 「くぐつし?」


 「人形使いの事だニャ」

 猫は自分を指差して。

 「ココは傀儡師の館だニャ」


 「人形使いなんて聞いた事が無いな」


 「それはそうニャ……職業のランダム・スクロールは公平なガチャじゃ無いのニャ、ファースト・ジョブを越えられないし、適応や適性も加味されるニャ」

 頷き。

 「傀儡師に適性なんて滅多に無いニャ」


 「俺にはそれが有ったと……」

 ふと、抱いていたドラゴンのぬいぐるみに目を落とす。


 「可能性は有るかもだけど……たぶん薄いニャ、もっと根本的な何かだと思うニャ」

 王子の目線でそう答えた猫。

 ぬいぐるみを抱いていただけでは駄目な様だ。

 

 ウーン……と唸る王子。

 根本的な……と、言われても、それが何だかはわからない。

 性格か?

 生まれとかか? 例えば血統や何か……。

 どちらも今一ピントこない。

 自分の性格などは考えもしないし。

 血統と考えても……王子が知っていたのは初代の王の、それもおとぎ話程度だ。

 ……。

 あとはと考えて、王子は手前で指を滑らせた。

 メイン・ボードを開いて見る。

 今、確認できて目に見えるモノはスキルくらいしか思い付かないからだ……。

 しかし、王子はLv1だ、まともな攻撃スキルは何一つ無い。

 指で裏を捲る。

 火耐性?

 水耐性?

 風耐性?

 物理耐性?

 呪い耐性?

 毒耐性? 関係が無いだろう。

 痺れ耐性? これもだ。

 指を滑らせて、上から順に確かめた。


 「攻撃スキルは無いのに、耐性スキルは沢山有るのだニャ」

 いつの間にか、猫が横から覗いていた。

 あれ? 突然に声を上げて1つのスキルを指差す。

 「傀儡耐性? クグツ耐性? 初めて聞いたニャ」


 「ああそれは、カイライと読むのだ……傀儡と書いてカイライ」

 王子もそれを見ながら説明をする。

 「まあ珍しい耐性スキルでは有る」

 王や王子にしか無い耐性スキルだ。

 まあ簡単に言えば傀儡政権を目論む者に対抗する為のスキルなのだが、それは王か王子にしか起こり得ない事なので当たり前と言えば当たり前だ。

 それに耐性スキルが多いの王族ならではかもしれない。

 強い権力は、何かと物騒なのだ。

 だからか優先して取らされる。

 スキルはジョブを元に、経験や行動から発生するものだから色々とやらされた。

 しかしジョブがLv1なので成長はそこで頭打ちでは有る。

 つまりは全部がLv1なのだ。

 だが最初に耐性スキルを取れるだけ取っておけば、ジョブレベルと同時に上げる事が出来るのでレベル上げがしやすいという利点も有る。

 後から取ると、差が付くからだ。


 王子が今までLv1だったのはそれも有ってだ、最近やっと傀儡耐性が着いた程に付き難い……まあレアなのだからしょうが無いが。

 だが王に成る者には、これが何よりも重要で大事なスキルなので、その間のレベル上げは止められていたのだ。

 その点では、第二王子にはそれが端から付か無いとわかっているので、与えられる自由が早かった。

 姫にも可能性が下がるが有るには有るので、これからも自由は与えられないだろう……王子が王に成るまで、もしくは嫁ぐ迄だ。

 可哀想だとは思うが、それも第一と付く王族に産まれた者の宿命なのだから仕方無い。

 「俺だって我慢した」

 苦虫を噛み潰した顔で呟く王子。

 いや、その環境に慣れて今度は外に出るのが億劫には成っている。

 レベル上げが必要な事はわかるが……どうにも面倒臭い。

 なに不自由も無いのだから城に引きこもって居たいのが本音だ。


 「ん? 何がニャ」

 

 「何でもない」

 そんな思いを猫にぶつけても仕方が無いともわかっている。

 他人に訴えたところで、贅沢な悩みで一蹴されるだけだ。


 「そうかニャ」

 そしてその傀儡耐性を指して。

 「たぶんこれのセイだニャ」


 「意味は全然違うと思うが?」


 「神様も適当な所が有るニャ……字面で決められたニャ」


 「神様って……そんなのが本当に居るのか? 会ってみたいな……何処に行けば会えるのだろうか?」

 いずれ王子が成る王よりも上の位だ。

 それはとても興味がわく存在だった。


 「無理だと思うニャ……神様はとても忙しいニャ、神界はとてもブラックな仕事場ニャ絶対に行きたくない所ニャ」

 ケットシーはそこに行けるのだろうか? そんな口振りにも聞こえるが。

 「まだ地獄の方が楽ニャ、痛いとか苦しいとかは有るけど死んでるから死にはしないし……何よりも指示を聞いているだけで良いから楽だニャ」

 極端な例だが本気で嫌がっている様だ。


 「ふーん」

 興味深く聞いていた。

 王子も大概ブラックな職業では有るが、それ以上なのかとの興味だった。


 「そんな事よりも、さっさと人形を選ぶニャ」

 ハッとそんな顔で叫んだ猫。

 「ノンビリしてると……神様に叱られるニャ」

 両腕で自分の体を抱え込み、辺りをうかがう様に首を左右にめぐらして……ブルッと背中を震わせる。

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