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011 外れのスクロール


 「アンデットならエウラリアの出番よ」

 半透明な女性を指差してマルタが叫ぶ。


 「両替……」


 「私には無理よ、まだ、明かりの魔法と癒しの魔法しか使えないし」

 エウラリアは大きく否定する。


 「両……」


 「光は……ここの明るさじゃあ意味無いか、なら癒しのヤツを試してみてよ、アンデットなら回復が攻撃でしょう?」

 

 「りょ……」


 「えええ……私のは触れないと駄目なのよ……幽霊を触るの?」


 「り……」


 「いいから!」

 背中を押し出されたエウラリアがつんのめる様に、半透明の女性に近付いて。

 

 「……」


 「早く! 早く!」

 急かすマルタを恨めしそうに見ながら指を嘗めて、女性に……。

 

 だが、その指は透かされた。

 かわされたでは無くて、半透明の体には触れない様だ。

 何度か挑戦はしているみたいだが、体にめり込む様に入り込むだけ。


 「回復をしてくれるのですか?」

 女性は、初めて王子以外に反応を見せた。

 「有り難うございます、しかし私には不要です……でも気持ちは嬉しいのでお返しを」

 そうエウラリアに告げて。

 何処からか出した杖を掲げる……杖には三つの白い花が咲いていた。

 「ヒーリング・ペタル」


 塞がれている筈の天井から光が射し込み、光る花びらが舞う。

 それらの光に包まれた王子とマルタとエウラリアは全回復をした。

 とは言ってもダメージ等はほとんど無い状態だったのだが……それでも三人はとても気持ち良い心地に成る。


 そして光が消えるとエウラリアが叫んだ。

 「ヒーリング・ペタルって、最上級の回復魔法よね! あなたは何者?」

 魔法は気持ち良かったのだが、エウラリアには引っ掛かるモノが残った様だ。


 「両替をお願いします」

 女性はもう、エウラリアには反応しない。

 機械的にでは無くて、エウラリアを面倒臭い判定したようだ。


 「ねえ! 私の唾の回復に対する嫌味?」

 声が洞窟の部屋に響き渡る。

 「出来るって事を見せ付けたかったワケ?」

 

 「両替を……」


 「キイイイイイ……ちょっと聞いてるの?」

 無視をされて、余計に腹が立ったようだ。

 さっきまでの恐怖も忘れていた。


 「マルタ……」

 王子は女性の指差す両替機の方に歩きながらに、声を掛けた。

 「エウラリアをどうにかしてくれ」

 

 「うん……」

 困った顔のマルタも気付いている。

 魔物や敵なら回復魔法を掛けてくれる筈は無い……と。

 半透明で宙に浮いていてそして魔法……もしかするとこの女性は神聖なモノなのかも知れない。

 ダンジョンに入った入り口も教会なのだし……とだ。

 それに、こんな強力な魔法を使うのだ、戦っても勝てる気もしないし。

 それ以前に突然に切れたエウラリアに呆れて恐怖などは消し飛んだ。 


 マルタは半透明な女性に対して、愛想笑いでペコペコとお辞儀をしながらに、暴れるエウラリアを引き摺って端に寄せた。

 騒ぐ口は手で押さえて。

 「王子……この子、面倒臭いし早くして」

 マルタにも面倒臭い判定されている。

 

 「ああ」

 急いで小さなメダルを両替機に放り込む。

 と、出てきたのは大きなメダルが3枚。

 レートは小さなメダル10枚で大きなメダルが1枚の様だ。


 チラリとマルタを見る王子。

 マルタは何度も頷きながらに、顎でガチャを指す。

 エウラリアに手一杯の状態らしい。

 


 王子はコインホルダーに手に入れた大きなメダルを一枚差し込む。

 サイズはピッタリだ。

 両手でハンドルを力一杯に回した。


 ガチャリ。

 ……。

 コロン。

 

 足下に転がって出たカプセルは結構な大きさだ。

 それを両手で拾い上げて見た中身は、巻かれた紙が見えた。

 スクロールとか、そんな感じのモノか?

 と、半透明な女性も王子の側でかがみ、興味深気に覗き込んでくる。

 じゃっかんに首を引きつつ、カプセルを開けて巻物を取り出し、拡げる。

 

 「外れか……」

 先に声を出した半透明な女性。

 王子には何が当たりで、外れなのかもわからないのにだった。

 ガチャを回させる迄が仕事だったようで、急にフレンドリー成った半透明の女性。

 

 「これは何ですか?」

 紙には読めない文字が書かれている。

 

 「それは転職のスクロールですね」

 普通に答えてくれた女性。


 「転職?」

 考える王子。

 「今の職は……変えられないのですが……」


 「あら、気に入っているの?」


 気に入るも何も、王子は辞められないだろう……国王の元に生まれついたのだから王子しかないと思うのだが。


 「でも大丈夫、第二職は空いているのでしょう?」

 勝手に決めつけられた。

 空いているけど……。

 少し渋い顔をした俺を見てか女性は続ける。

 「第三職でも良いし……なんなら入れ換えても良いのよ」


 「それは……気に入らない職は辞められると?」


 「それはそうよ、職業選択の自由は皆に有るもの」

 心地の良い笑い声で。

 「でも、職は三つまでは持てるのだから、持っていても損は無いと思うけど」


 「一つの職を極めた方が良いのでは?」


 「確かに多少のデメリットは有るけども……例えば経験値が少し下がるとか、でもね三つ目の職を合わせれば、合計経験値は全然多くなるわよ、覚えるスキルも増えるし」

 ニコリと。

 「お徳よ」

 

 本当に徳なのか?

 有限の人の寿命を考えれば……少しでもレベルが上がる方を選択した方が良くないか?

 とは思えたが、良く良く考えれば……王子のレベルを上げたところでどうすると為る。

 そのうちに王に成るのだし。

 そもそも王族にレベル等は必要無いだろうに……。

 いや、今はドラゴン退治が有るのか、なら手っ取り早くスキルを増やす方が得策か?

 

 悩んでいると。

 「まあ外れだしね」

 と、女性は上に飛び上がり。

 「当たりの転職スクロールだと……ほら、アレ」

 筐体の中を指差して。

 「光の戦士とか」

 別のを指差して。

 「ロットの勇者とか」

 また別の。

 「アレは魔物の従者ね」

 横に飛んで。

 「こっちは聖剣」

 

 「これは?」

 王子が手に持つスクロールを付きだして聞いた。


 「それは……どれかの職がランダムで……」


 「ならこれからも当たりが?」


 「それは無いわ、今の一職目よりも下から選ばれるから」

 肩を竦めて見せた女性。


 「ふーん」

 適当には返事をしたが。

 王子という職のランクすらわからないので、どう考えれば良いのかもわからない。

 わからないので考えるのは放棄して。

 「まあいいや、新しい職を貰おう」

 ランダムなら後二回引けば外れでも価値は出る筈と、もう一度ガチャに近付くと。


 「アレ?」

 女性は高い声を上げて。

 「あの子達は? 丁度三枚有る筈だけど?」

 マルタとエウラリアを指した。


 「私達もやって良いの?」

 マルタは興味津々。

 エウラリアはまだ暴れていた。


 「その方が良いと思うわよ、ガチャから出るのは回した人しか権利が無いから」

 チラリと王子を見て。

 「まあ誰かが独り占めでも良いのだけど……でも……」


 「でも? なんだ?」


 「同じパーティーなら平等の方が……ね?」

 頷いて。

 「揉めない様に、わざわざ三枚にしたのだし」

 なるほど、だから30枚ピッタリだったのか。


 「やりたいなぁ」

 マルタがエウラリアを放して近付いてきた。


 「騙されちゃあ駄目よ」

 手が離れたエウラリアが叫ぶ。

 「絶対に罠よ、だいたい魔法使いのマルタが剣士に成ってどうするの? 聖剣? 使えないじゃない」


 「あらぁ、大魔導師とか……魔法剣士とか……召喚魔術師とかも有るのよ」

 クルっと回って、もう一度ガチャの中身を確認した女性。

 「でも、落とし口の近くには……教皇とか大司教とかアーク・プリーストが固まっているかしら」

 イヤらしく笑みを溢す。


 「!!!」

 ダダダっと走り寄ったエウラリアは前に居たマルタを突き飛ばして、王子からメダルを奪い。

 有無を言わさぬ速業でハンドルを回した。

 最後の三つは回復職の上位職だ、それもほとんどトップに近い。

 「でろでろでろ!」


 ガチャリ。

 ……。

 コロン。


 素早く取り付いてカプセルを開けたエウラリア。

 中のスクールを拡げて。

 「なんて書いて有るの?」


 「残念……外れですね」

 半透明の女性のかるーい口調に、ガックリと膝から崩れ落ちたエウラリアだった。

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