010 ダンジョン・ボスは巨大ガチャ?
王子とマルタはエウラリアの杖とメダルを拾い。
二人してエウラリアを見る。
スライムによる痴漢攻撃は見事に改心の一撃だったようだ。
いまだに復活出来ていない。
溜め息の二人。
「でも、さっきの水の玉はなんだったの?」
エウラリアに触れ難いのか、マルタが王子にたずねた。
「ああ……喉が渇いたと……」
冷静に考えて見れば、やはり馬鹿な事をしたと思われる王子はボソボソと。
「水か……」
二回ほど小さく頷き。
「水……水筒……」
呟きながら、魔法の鞄に手を突っ込んだ。
「持っているのか?」
「わかんない……でも、入ってないかなと思って」
と、鞄から手を出せば……金属製の筒が握られている。
振って見ればカラカラと音がする……水筒。
「有った!」
「でも」
眉を寄せる王子。
「それって、50年位は経ってないか?」
ジイちゃんや右大臣時代からそのままなら……それくらいな筈。
「水って腐るのかな?」
「腐るだろう?」
「だよね……」
半信半疑で頷くも。
マルタもヤッパリ、それを飲む気はしないらしい。
コップの形の蓋を開けてジャバジャバと溢し始めた。
床に広がる水溜まり。
ジャバジャバ……。
ジャバジャバ……。
ジャバジャバ……。
「どんだけ入っているんだよ!」
王子とマルタの足元は水浸しだった。
「容量が多いのかな?」
水筒の中を覗いたマルタが、小さく叫ぶ。
「あ! 魔石が入ってる」
「カラカラいっていたのはそれか」
「でも魔石で水を造ってるなら、飲めるんじゃない?」
大きく頷いて。
「魔石って腐らないよね?」
「確かに……」
王子も頷いた。
「石だし」
マルタ水筒の蓋のコップにその水を注いで王子に差し出す。
それを見た王子。
微妙な顔で。
「先に飲んで良いよ……それはマルタの水筒だろ」
それにはマルタも微妙な顔に成る。
魔石は腐らないと理解はしていても、それを真っ先飲むのはお互い、遠慮したいと考えたのだ。
そんな勇気はどちらも、持ち合わせていないのだ。
暫く無言の見詰め合いを続けた二人。
先に目線を外したのは王子だった。
動かした目線の先を追い掛けたマルタ。
同時にニヤリとする。
「ここは落ち着ける為にも水を飲んだ方が良いよな?」
「そうですね、美味しい水は一息着けますもんね」
二人の視線の先は、岩壁と話をしているエウラリアだった。
マルタの差し出した水を無意識に口に運び一気に飲み干したエウラリア。
ホッと溜め息を着く。
「冷たくて美味しい……」
気分転換が効いたのか、落ち着けたらしい。
「……お腹、大丈夫?」
心配気に訊ねるマルタ。
目線はコップとエウラリアのお腹。
「お腹?」
自分のお腹を擦ったエウラリア。
「胸じゃあ無くて?」
「いや……お腹」
王子も声を掛けた。
首を傾げたエウラリア。
「お腹……」
なにやら勝手にこんがらがっている様だ。
「大丈夫なら良いんだ」
エウラリアの飲み干したコップを取り。
そして、マルタに差し出した。
これは飲めるらしい。
復活した三人は、洞窟の探索を再開した。
すぐに2匹目のスライムを発見。
だが、瞬殺だった。
エウラリアとスライムの目線が合った瞬間に、変なスイッチが入ったのか踏みつけたのだ。
白眼のエウラリアが、ダダダっと走って無表情でプチっと。
王子が見るに、わけのわからない事を無かった事にしたいらしい……と、思われる。
まあ、それでもスライムが倒せているのでこれはこれでヨシとした、王子とマルタ。
その後は、スライムを見付ける度に二人して手を差し出し……どうぞどうぞとエウラリアを促した。
一本道の洞窟を進み、30匹のスライムを倒して30枚の小さなメダルを集めた所で、広い場所に出た。
今までと違って照明が当てられたみたいに明るい。
そして、奥には明らかに場違いな……巨大なガチャが一台有る。
「なにそれ?」
三人同時の感想。
ガチャという存在を知らない三人の筈だが……それを見た瞬間にそれが何かは理解は出来たが、それが何故に目の前に在るのかは、皆目見当が付かない。
そして理解出来た理由もわからない。
はてさてと首を捻る三人だが、ここがダンジョンの最終地点だとはわかる。
理由は簡単、最初の広間から一本道を進み、ここがドン付きの行き止まりだからだ。
そしてわからない時は……と、王子とマルタはエウラリアを見た。
見られたエウラリアは一瞬驚いたが、すぐに鞄から小冊子を引っ張り出してペラペラと。
「ダンジョンの最後には……ボスが居て、攻略をすれば出られると有ります」
読みながらも首は捻りっぱなし。
「コレがボス?」
マルタは聞き返して。
「攻略って事は倒せって事?」
王子は呟いた。
「でもおかしいよね、エンカウントの音楽が聞こえてこない」
王子の倒せと言う言葉にはマルタが意義を唱える。
「確かに……」
王子もそれには納得せざるを得ない。
いや……このダンジョンに入って一度もそんな音はしていない。
ダンジョンでは音は無しなのだろうか?
二人はジイィィィっとエウラリアを見て、答えを待った。
見られたエウラリアは必死で小冊子を捲るが……何処にも無いと諦めて。
「ガチャだし……回すとか?」
半笑いで。
たぶん諦めた?
「触れると襲って来ない?」
マルタの問に。
「そしたら戦えるから……解決じゃあないの?」
答えとしてはそうだ。
「確かに……」
頷いた王子。
それを見た少女二人は、自分達の持つ小さなメダルを全て王子に押し付ける。
王子の両手には30枚のメダル。
そして両脇に立ったエウラリアとマルタは、王子に対して片手で催促する。
「どうぞ、どうぞ」
それに対して、顔を潰して露骨に嫌な顔を見せて抵抗した王子。
しかし、二人の振られた手は動ごく事は無かった。
マルタの表情は……そこはほら、パーティーリーダーの仕事と……。
エウラリアの表情は……私達は年下で女の子です……。
と、だ。
短い時間の火花が飛び散る攻防。
少女二人はカードを提示しているが王子には有効なカードは無い。
それを顔芸だけで乗り切る程の力も芸も持ち合わせていない王子。
つまりは、この勝負……どうぞどうぞのゴングが鳴った瞬間に着いていたのだった。
しぶしぶ……。
ビクビク……。
オドオド……。
と、ガチャの前に進む王子。
「デカイ……」
地面に直接置かれたガチャはハンドルが顔の位置。
コインを入れるホルダーは手を伸ばした所。
透明な中身が見える筐体も背伸びしても届かない。
全体的には地面から天井までの高さ……雰囲気は2階建て?
半分が透明のガチャカプセルも下から覗ける分だけで、全部は見れない……しかし、何かは入っている様だ。
「これを回すのか?」
呟くフリをして、後ろの二人に訴えてみるのだが……。
早く早くとプレッシャーしか返ってこなかった。
暫く考えて……。
ゴクリと唾を飲み込んだ王子。
ソッと、コインホルダーに小さなメダルを入れる……。
しかし、明らかにサイズが合わない。
コインホルダーの大きさは両手で持つ程のコインを要求している様だ。
片手で持てる小さなメダルではガバガバ。
その状態でハンドルを両手で持って回そうとしても、ヤッパリ回らない。
それに、筐体が動き出す事も無かった。
「どうすんの? これ」
触れても別段、動き出すわけでもない。
ガチャも出来ない。
「両替をお願いします」
すぐ側から女性の優しそうな声が王子に届いた。
全身をビクッとさせてそちらを向けば、半透明の白い薄着の綺麗な人が……宙に浮いていた。
固まった王子。
恐さからでは無い……その女性が、とても美し過ぎたからだ。
「誰?」
王子が何も反応出来ないでいると、エウラリアが叫ぶ。
「両替をしてください」
エウラリアの問には答えずに、同じ事を口にしながら、横を指差している半透明な女性。
目線は王子に。
「幽霊?」
マルタも負けじと噛み合わない問いを続けた。
「両替を……」
女性の指している所、広い部屋の端ッコには青い四角い筒が置かれている。
上には小さなメダルが入るであろう口。
下には大きなメダルが出てきそうな口。
王子は見た瞬間に使い方がわかる……これは両替機。
もちろん何故にわかるかはわからない。