表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/87

001 王子……城を追い出される


 そこは王城、謁見の間だった。

 広い石造りの頑丈な造り。

 一段高い上座には一際目立つ椅子に座る、偉そうな男。

 つまりは王。

 その後ろには、大層な石像が立っていた。

 長い髪と波打つマントをはためかせて、大きな剣を天に突き立てる……すらりとした男の像。

 モデルは椅子に座る王ではないとわかる。

 

 王は……昔は、チョッとばかしの男前だったのかは知らないが、今は少し腹の出たおじさんだ。

 まかり間違っても、石像のモデルには成れない。

 

 その王が、大仰な仕草で声を上げた。

 「ドラゴンを退治して参れ」

 

 そう告げられたのは、王の前に片膝を着いた一人の少年。

 透明な長い髪を持ち、背が低く少し痩せた感じに見える。

 鍛え上げられた筋肉とは無縁の感じだ……とてもドラゴン等を倒せるとは思えない。

 その顔は男前かも知れないし、美男子かも知れないが……それを判断するには幼すぎる顔立ちだった。


 そしてその服装。

 カボチャパンツに白いタイツが似合いすぎる、その少年は顔を王に向けて口を開いた。

 「やだ」

 王に向けて本気でムクレて見せた。


 その返答に、王の左右に立つ二人の老人が苦い顔をして口を開く。

 「王子……言葉には気をつけられよ」

 「ここは謁見の間ですぞ」

 右に白いローブの老人。

 左は黒いローブの老人。

 どちらも頬が痩けて覗けるが、その姿形はローブに隠れてわからない。


 たしなめられた王子は、渋い顔をする。

 だが反省はしない様だ。

 片膝を胡座に変えて。

 「父ちゃん、そんなの兵士の誰かに行かせてよ」

 仏頂面で溜め息を吐く。

 「勇者とか他にも居るじゃん」

 謁見の間の左右に並ぶ兵士や魔術師、その他の者を順に指差しながら。

 

 「父ちゃんと呼ぶな……ここでは王だ」

  咳払いをした王。

 「王子も16歳に成ったであろう……これは王族の勤めじゃ」


 「そんな事を言って……父ちゃんもドラゴン退治に行ったの?」

 

 「ワシも行ったぞ」

 頷いて返す。


 「嘘だぁ」

 間髪入れずに。 


 少し情けない顔に成りかけた王に変わって、両隣の老人が。

 「王子……これも王に成る為の試練です」

 「王家に課せられた宿命……我ら二人も先代王のお供として旅に出ました」


 「ジイちゃんとか?」

 

 頷いた二人の老人。

 

 「ワシは……」

 口を開こうとした王の話を遮るように、老人は続ける。

 「父王は、今の妃様とですぞ」


 言いたかった事を取られたのか、開いた口を閉じる王。


 「母ちゃんとか……」

 少し考え始めた王子。

 しかし出た言葉は。

 「面倒臭いからヤッパリ行かない」





 王城から建物の外、正面玄関前にホッぽり出された王子。

 側には、少しの重みを感じさせる革袋が投げ落とされる。

 ジャラっと音がしたので、中身は金の様だ。

 

 「衛兵達数人に寄って集って担ぎ上げられて、外に投げ出された王子なんて……初めて見た」

 

 王子は前向きに、うつぶせの状態で首だけでその声の主を探して顔を上げた。

 しゃがんで覗き込んでいたのは、少し幼い感じの二人の少女。

 一人は黒いローブ。

 もう一人は白いローブだった。

 

 「大丈夫ですか?」

 心配そうに覗くのは白いローブの方。

 声の質は先程依りも軟らかく優しい感じだ。


 王子は返事もせずに前を向く。

 そこが建物の外だがまだ城の中だったと理解して、この恥ずかしい格好は、側には居る二人の少女にしか見られていないと、少しの安堵の溜め息。


 外壁迄はまだ遠い、広く長い前庭の下り坂の道を越えた先だ。

 「あの衛兵達の顔は覚えたからな……」

 ブツブツと文句を垂れつつ立ち上がる。

 「いや……指示を出した右大臣と左大臣達をとっちめるべきか?」

 フンと鼻を鳴らした王子。

 「一番に悪いのは、黙って見ていた父ちゃんか」

 服に着いた泥を払いながらに続く愚痴。

 

 と、白いローブの少女が王子の膝の土を優しく払ってくれた。

 頭1つ分、背の低い少女。

 その横の黒いローブの少女も同じ位の身長。

 その二人を交互に見ながら。

 「お前達は、なんだ?」

 何処かで見た記憶が有るのかキツい感じに成らない様に少し抑えた声音にしている。

 まだ城から出たわけでは無いので、ここに居るのなら城の関係者で間違い無いとの判断だろう。

 それに、明らかに王子依りも年下の女の子に怒鳴っても仕方が無い事でも有る。


 「はい、お祖父様から王子の旅のお供をと……エウラリアです」

 声音は抑える事が出来たが、目には剣が残ったか、少ししどろもどろに答えた少女。


 「エウラリア?」

 少し考えた王子。

 「左大臣の孫か……」

 思い出した様だ。


 そしてその隣の黒いローブの少女を見る。


 「私はマルタ……エウラリアと同じ理由よ」

 若干ブー垂れて見えるのは、本人は嫌がったのだろう。


 「右大臣の孫か……」

 孫を差し出すから多少の無礼は目を瞑れと……そういう事か? と、認識したように言葉尻が下がる。


 「旅の目的は聞いているのか?」


 少女二人は同時に頷いた。

 

 「他には?」

 左右に首を振りながら探す素振りだが、二人以外は見付けられない。


 そして少女二人も首を振る。


 それを見た王子は頭を抱えた。

 「子供だろう?」

 少女達を交互に指差す。

 「ああ……思い出した、弟と良く遊んでいる二人だ」


 「はい、弟王子様には良く構って貰います」

 白のローブのエウラリア。


 「って事はヤッパリ年下か」

 いや、見ればわかるのだが口に出して確かめる様に。


 「そうよ、弟王子様とは同じ歳よ」

 黒いローブのマルタ。


 「12歳か……弟の友達が何で俺のお供なんだ?」

 納得がいかない。

 「どうせなら勇者とかだろう……あと、優秀な近衛兵の部隊とかだろう、ドラゴン退治だぞ?」


 「それは……」

 言い澱むエウラリア。

 だが、マルタはハッキリと言い切った。

 「それは王子のレベルが低いからです」

 王子を指差して。

 「パーティーを組んでもレベル差が5以上離れると経験値が入らないから仕方無いのよ」


 「失礼ですが……王子のレベルは1と聞いています」

 おずおずとエウラリア。

 「私は……4です、ギリギリです」


 「私は3よ……城には他にレベルを合わせられる者が居ないから私達」

 ホントに迷惑な話よ……そう続けられる言葉は小声だが王子にも聞こえてしまっていた。


 「でもドラゴンだぞ」

 何度、確認してもそれは無理だと二人を見る。

 このメンツでは無茶もいいところだ。


 「レベルを上げるしかないですね」

 エウラリアは真面目に答えた。


 「どんだけ上げなきゃあいけないんだよ」

 王子は呆れ気味に。


 「レベル90位でしょうか?」

 やはり真面目だ。


 「それって、勇者以上だよね……たしか、70を越えたら勇者でしょう?」

 マルタは苦笑い。


 「そんなレベルは国中を探しても居ないぞ」

 父ちゃん……国王でどれくらいだっただろうかと考える王子。


 「そりゃあそうね……お祖父様でもやっと50を越えたくらいだし」

 マルタの苦笑いが、呆れ笑いに変わった。


 「でも、ドラゴン様は人語を解されると聞きます……ここは話し合いでなんとか……」


 「話し合いで、死んでくれって頼むのか?」

 真面目な顔でそれを言われてもと、エウラリアを覗き込んだ。


 王子に見られ、呆れ笑いのマルタを見て。

 顔を真っ赤にして呟くように。

 「それでもお願いしてみれば……もしかすると……」

 後半はほとんど聞き取れない声の小ささ。


 「でも……まあ、ここにジッとしてても埒が明かないはね」

 王子の腕を取り。

 「とにかくは、ドラゴンの所に行ってみましょう」


 その王子は、マルタの腕を払って後ろを向いた。

 「どう考えたって無理だろう」

 閉められた扉を叩く。

 「開けてくれ……ギブアップだ」


 扉の向こうからは、衛兵だろう声がする。

 「駄目です、開けられません……国王の御命令です」


 「なんだそりゃあ」

 扉を蹴飛ばした。

 「いいよ……他所から入る」

 そう告げて踵を返して、裏口を探そうと一歩を出すと突然の大きなファンファーレ。

 見れば、前庭の両脇にズラリと兵士が並びラッパを吹き鳴らしている。


 パパ、パン、パン、パーパパパパー……


 「なんだそれは」

 思わず息を飲む王子に、何処からか兵士が現れて細い剣を差し出してきた。

 少し短い細剣だが、明らかに飾り剣だ。

 「右大臣様からの贈り物です」

 それを受け取ると、今度は首飾り。

 透明なガラス玉をはめ込んだ、価値の無さそうな物。

 「こちらは左大臣様からです」

 

 「餞別ってヤツか?」

 剣と首飾りを両手で持って交互に眺めて。

 「もっと役に立ちそうな物をくれよ……売れば金に成る物とか」

 首飾りなんかはペラッペラだ。


 「ホントにショボいわね」

 横から覗いて居るマルタの感想。


 「でも……それって玉座の後ろの石像が持っている物と同じですよね」

 エウラリア。


 「それのイミテーションだろう? 式典何かでたまに持たされるヤツだ」

 つまりは実戦では、全く役に立たない物。


 「まあ王子はレベル1ですし……」

 そんなもんよねと、笑うマルタ。


 カチンときた王子は大きな声で。

 「ヤッパリ行かない」

 その場に座り込んで。

 「ここから動かない」

 宣言だ。


 「それは困ります」

 剣と首飾りを渡してくれた衛兵が、前庭を指して。

 「そろそろ行ってくれないと、皆も疲れていますし……」

 ファンファーレはいまだに続いていた。


 パパパーパ、パパパパー。


 「そんなのは知らない、嫌だったら嫌だ」

 頑なに拒む。


 溜め息を着いた衛兵は。

 「誰か……王子をお連れして」

 そう呟くと、何処からか屈強な兵士達が現れて、またもや王子を担ぎ上げた。


 兵士数人に胴上げ状態で運ばれて前庭を進む王子。

 ファンファーレは一段と大きく響き渡った。


  パパ、パン、パン、パーパパパパー、パパパーパ、パパパパーパー、パンパンパンパー、パパパパーパパパンパンパン、パーパパパーパー……。


 「嫌だー、おろせー、行きたくない……」

 ファンファーレと共に城じゅうにこだまする響き。

 もちろん誰も聞く耳は持たない。



 ここは、とある異世界。

 ナッローッパ国の王子の話。

 その冒険が今始まった。

 ペイっと……そんな感じに……。

いかがでしたでしょうか?


面白そう。

続きが読みたい。

そう感じて頂けたなら、ブックマークやポイントで応援していただければ幸いです。

なにとぞ宜しくです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ