目的不明2
「あ、思い出した」
「何をだ?」
「うん。なんかリーゼロッテを守れとかって言われたんだけど」
「誰に」
「いけ好かないメガネの部下に」
私がそう言うと、アルヴァはキュッと眉間にしわを作って、もみほぐして。
ずいっと顔を近づけてくる。何こいつ、やんのかコラ。
「……貴様。何故それを最初に言わない」
「いや、言われるまでもないことすぎて忘れてた」
「そういうところだぞ貴様」
「私が人の話を覚えてるとか思う方が悪いと思うのよね」
色々あり過ぎて私の脳は一杯なのよ。詰め込むんじゃない。
「しかしまあ、あまり重要な情報でないのは確かだな」
「そうなの?」
「ああ。恐らく魔女を計画のサンプルとして探しているとか、そういう話ではあるのだろう」
「なるほどねえ……」
「なんか私の話をされてる気がしますわ!」
バターン、とドアを開けてリーゼロッテが(勝手に)研究室にしてる部屋から出てくる。
まあ、そういうモノを突っ込んでそれっぽくメイクしてたのは私だけど。
目の下に隈の出来てるリーゼロッテはズカズカと歩いてきて……ソファに寝ているお姫様を見て驚愕の表情になる。
「この子は……!」
「え、知り合い?」
「え? いえ。アリスさんが新しい女の子を連れ込んだと思いまして」
私は最高の笑顔をリーゼロッテに向けると、高速で回り込んでヘッドロックをかける。
「痛たたったたたたた!? なんですのぉ!?」
「こっちの台詞なのよねえ! なんなの新しい女の子を連れ込んだって!」
「だって私という親友がありながら! 酷いじゃありませんの!」
「重い! すっごい重い!」
「重くありませんわあああ!」
リーゼロッテをポイすると「もてあそばれましたわ……」とか床でゼエゼエ言ってる。
うーん、まだだいぶ余裕あるわね。
「えーと……それで、その子は誰なんですの?」
「人間の国のお姫様」
「具体的には」
思い出す。思い出そうとして。思い出そうとする。
えーと、なんだっけ、確か……。
「なんとなくで構わん。言ってみろ」
「カルメン王国の……フラメンコ姫?」
そんな感じだったような、そうじゃないような……違う気がする。
いや、フラメンコはないな。絶対違う。
「……俺はカルレイ王国だと思うが」
「私もそう思いますわ。たぶん最初の一文字は合ってると思いますもの」
「最初の一文字? フのつく姫がこの年頃でいたか?」
「いえ、たぶん名前は適当だと思いますわ。きっと何か連想ゲーム的に」
「ああ、だろうな」
なんか私の前でボソボソ言ってるけど、全部聞こえてるのよねえ……いや、なーんも否定できないけど。
「というか、コレだな。今朝貴様が見ていたものだ」
アルヴァが取りだしたのは、私が今朝見ていた誘拐事件の被害者……の一部のプロフィール。
カルレイ王国、第3王女ミーファ。
あ、そっか。思いだしたわ。そうそう、それであの子を見つけたんだったわね。
「え……今朝のことをもう忘れて……?」
「こいつの脳は新しい情報を入れると古いのは消えるし、常に揮発していくんだ」
「ぐぬう……何も否定できない……」
「ま、それ以前に身内以外の奴に興味がないんだろうがな」
「む」
ちょっと痛いところ突かれたかも。確かにそんなに周囲に興味って、あんまりない。
流石に恩人とかインパクト強すぎるのは1度で忘れないけど。
この子の場合、名前より「それ以外」がインパクト強すぎたからなあ。
「まあ、それはいいわ。リーゼロッテ。なんかアンタまた狙われてるっぽいから外出る用事があったら言ってね」
「そう言われましても」
「ん?」
「私の財産で大事なものは、全部此処にありますし。何も不自由しませんわ」
まあ、お店の諸々を運ぶの手伝ったの私だしね……。
「いや、ほら色々と必要なものとか、お出かけしたいとか」
「正直、此処以上に快適で安全な場所を知りませんわ?」
「……そーね」
なーんも否定できないわ。正直あたしも外に出かける意味ってそんなにないし。
外でペット探しとかの仕事してるのも世間ズレしない為と、趣味みたいなもんだしなあ……。
「でもそうなるとこの子、また何か大きな事件関連ですのね?」
「超人計画の派生形らしいわよ」
「あー、習った覚えありますわあ」
まあ、この子……ミーファについては此処で預かってれば勝手に出れないし問題はないけど。
全部終わるまで引きこもってるってのはまあ……ナシ、かしらね。
正直、ああいうのが近くで起こってるってのは気分悪いし。方針としては「見つけたら潰す」って感じかしらね。それ以外はまあ、頭いい連中に任せとけばいいでしょ。
「……にしてもこの子、起きないわね」
「きっと緊張して寝られなかったのですわ。寝かしておいてあげるのが優しさでしてよ」
「ふーん」
私がミーファを抱え上げると、リーゼロッテが「あーっ!」と声をあげる。
「私も! 私もそれやりたいですわ!」
「いいわよ、はい」
リーゼロッテに抱えていたミーファを渡すとリーゼロッテが「違うんですのよ……」と呟く。
いいから早くベッドに運んでってあげてくれないかな。




