目的不明
「そもそもの話なんだけど。コアだか魔眼石だか知らないけど、結局やることは同じでしょ?」
「いや、恐らくだが違う。名称を変えるということは役割を変えるということだ」
役割、ねえ。まあ、普通に考えれば「コア」と「眼」だから……んんん?
なんか頭の中にリーゼロッテが浮かんできたわね。
魔女、天眼、魔眼。いやいや、まさか。
「あのさ、アルヴァ。まさか……犯人は人工的に魔女みたいなのを作ろうとかしてる、ってこと?」
「貴様にしては勘がいいな。あくまで予想だが、そういうことだろう。その魔眼石とやらだが、恐らくは義眼の形に加工され魔法を封じることを前提にしているはずだ」
「いやいやいや、待ちなさいよ。そんなことしてどうなるってのよ」
そもそも天眼と似たようなものを作ってどうなるってのよ。
魔女の天眼は貴重な魔法が封じられてるから価値があるものなんでしょうに。
それを人工的に作ったところで……意味なんか、あるはずが。
「超人。人工魔女。人間を材料にした魔眼……確か、あの呪薬は……」
呪薬……元エボルポーション。人間の身体に存在する魔力の根源を強化し、体内を循環する流れをも強化し加速する。それにより肉体の強化をも行い、他種族に負けない身体能力と魔法能力を持つ人間を作り出す……という薬になる予定だったらしいと聞いたことを思い出す。
なら、コアマテリアルは? たぶん似たようなものだったはず。人間を丸ごと材料にして作り出すソレを魔眼石とか言い換えて、魔法を封じた義眼に加工する。それで出来ることは。
「普通じゃ使えない魔法を使える人間を作ろうとしてる……? ということは『計画変更』じゃなくて『発展計画』ってこと、よね」
「そうだ。勿論魔族が何処かから超人計画を拾ってきた可能性も否定はせん。だがどうであるにせよ、これはかつての超人計画を発展させたものだ。それが何をもたらすかは……あまり考えたくはないな」
そりゃそうよね。子供をたくさん犠牲にして魔眼石はたくさん作られていた。
ということは超人とやらを量産するつもりってことだ。
そんなことを企む連中が、超人を農作業みたいな平和な目的に使うとは思えない。
なら、目的は当然武力の強化だろう。でも……どうして? 理由が見えてこない。
鍵鼻の魔女は、転生するのが目的だった。
呪薬事件は、現体制の転覆が目的だった。
なら、魔眼石は? 人間の子供を魔族領まで攫ってきて魔眼石に加工して超人を作る。その先の目的は何?
人間と魔族の不和? たぶん違う。あまりに迂遠に過ぎる。人間側の「超人計画」を使う理由がない。魔族のせいにするなら、人間側の恥部を使うのは良い手じゃない。
無数の超人による王都への一斉攻撃? 可能性としてはありそうな気もする。
でも攫われたお姫様の存在が、その推測に待ったをかける。勿論、一部の人間の暴走と考える事もできるけど……。
「うーん、分かんないわね。目的が全然見えてこないわ」
「貴様が考えて推理できる程度の計画など破棄した方がマシだろうよ」
「その通りだけどムカつくわね」
「自分が愚かだと理解しているのは貴様の美点だと思うぞ」
「それで褒めた気になってるなら怒るけど」
「安心しろ、褒めてはいない。歩く破壊兵器の貴様の数少ない美点だ。大事にしろよ」
「美少女っつー史上最強の美点があるでしょうが!」
「そうか。ナルシストも程々にな」
ぐわー! 超ムカつく! 今この場でクローバーボムぶちかましたらアルヴァだけ消し去る自信が凄いある!
ええい、落ち着け私。深呼吸、深呼吸……よし、落ち着いた。
「まあ、目的については頭良い連中が探ってるでしょ。私がやるべきことでもないし」
「そうだな。で、貴様のやることとは?」
「この子。しばらく守ってくれとは頼まれてるけど」
実際、どうしたものか。人間の国のお城にでも帰してあげればいいのかもしれないけど。
でもなあ。私がお姫様を「こんにちはー! お宅のお姫様、お届けにきましたー! 怪しい計画に巻き込まれてたところを助けました!」とか言ったとして。信じてもらえるかしらね? 正直、無理だと思う。衛兵に囲まれる未来が見えるようだわ。
お城の敷地に力尽くで置いてくる……とかは却下よね。出来ないことはないと思うけど、なんかこう状況が複雑にこんがらがる気がする。
「……まあ、普通に預かるのが一番良い手なんでしょうけど」
「此処で預かるのを『普通に預かる』と言っていいかは議論の必要性があるがな」
「まあね」
此処で預かってる限りは誰も手出しできないしね。
しかしお姫様誘拐ねえ……。やった連中、馬鹿なんじゃないの?
どう考えても本気の捜査網敷かれるでしょうに。
いや、でも結局お姫様は魔族領まできてるんだから馬鹿でも有能なのかな?
うーん……よし、考えるのやめた! わっかんなーい! どうにかなーれ!




