魔眼石2
「聞きたいことは3つよ。アレは何で、犯人は誰? アンタたちのスタンスは?」
「お答えできません。ただ、貴方に露見した場合の伝言を預かっております」
「一応聞いたげる」
「リーゼロッテ嬢を守れ、と」
「ふーん……? この子は? お姫様みたいだけど」
「対応を協議します。しばらく守っていただけたらと思います」
うーん、この対応。こいつらが犯人って訳ではない……けど、お姫様の生存は勘定に入ってなかったと。
でもってリーゼロッテを守れ、ときたかあ。でもって魔眼石……とくると思い出すのは鉤鼻の魔女だけど、アレはクローバーボムで吹っ飛ばしたしたから違うわよね。
そもそも魔眼石? どう考えても何かの厄ネタよね。そんなものを欲しがるのは誰?
あそこに居たのは人間。なら犯人は人間? そうだとして、此処でやっていた理由は?
「いいわ。預かってあげる。で、伝えといて。もし私を巻き込む為にあの胸糞悪いのを放っておいたんだったら……一発殴る。絶対殴る。あらゆる手段を駆使して殴る。だから全力で解決しろ、ってね」
「つ、伝えましょう」
「よし。シャドウ。拘束解除」
「ぐはっ! に、逃げろ!」
「逃がすな! 捕えろ!」
よろよろと転んでいる男たちをベノンたちが捕まえているのを見届けると、私はお姫様に笑いかける。
「じゃ、行きましょお姫様」
私は姿を「元の私」に戻すと、お姫様の手を取って「リターンホーム」と唱える。
その一言で、私たちの視界は切り替わって。
「わ、な、なんですか今の! え!? 此処何処ですか⁉ 凄い、ええ!? このソファ、王宮のより凄いですよキャー!」
元気だなあ。ソファの上で跳ねる跳ねる。別に劣化とかしないからいいけど。
そうしてソファの上で跳ねていたお姫様はピタリとその動きを止めると、急に目をウルウルさせ始める。
「あ、あはは……生き残った。生き残ったんですね、私……」
……追い詰められ過ぎてハイになってた、ってやつかしらね。安全な場所に来て緊張の糸も全部切れて。まあ、そうなるわよね。何歳か知らないけど、子どもでしょ?
私はお姫様に近づくと、その肩を優しく叩く。慰め方なんか知らないけど、まあたぶん気持ちは伝わる……と思う。
「そうね、此処は世界で一番安全よ。どんな危ない奴も、此処には入ってこれないから」
私をギュッと抱きしめるお姫様の手は、震えていた。当然だ。あそこにはお姫様以外の生存者はいないのに、檻の数はかなりのものだった。魔眼石とかいう石の数も、相当数あった。
私の見た通りなら、あの石の数だけ子供が死んでいる。それをお姫様はずっと目の前で見せられていたんだから。
「こわかった……こわかったです! 人が目の前で溶けていって! その顔が、ずっと頭から離れなくて! 何人も何人も! まだ悲鳴が響いてるんです! 助けてって、嫌だって……!」
「うん、大丈夫。大丈夫よ。もう何も怖くないから」
魔眼……ねえ。なーんか嫌な予感がするのよね。
「アルヴァ、いるんでしょ」
「なんだ? 空気を読んで居なかったフリをしていたというのに」
ジュワッと染み出るようにその場に現れるアルヴァにお姫様が「キャー!」と声をあげて私に抱き着く。あー、気絶しちゃった。もう。
「何その登場。わざと?」
「冤罪だ。俺はずっとこうだろう」
……そうだったかしら。ま、いいか。とりあえずお姫様をソファに寝かせて……っと。
「魔眼石って知ってる?」
「貴様、俺が森羅万象を知っているとでも思っているのか」
「知らないのね」
「知らん。推測程度なら出来るがな」
あ、知らないのは変わらないんだ。となると、なんか昔の因縁的なものではなさそうね。
「人間を変な液で溶かして石にするみたいなんだけど。どういう類のモノだと思う?」
「人間を、石に?」
「完成の瞬間を見たけど、胸糞悪かったわ」
アルヴァはしばらく黙り込むと「まさかな」と呟く。んー? まさか知ってる感じ?
「人間と魔族の戦争については知っているな」
「あー、勇者が攻め込んできたってやつ」
「そうだ。それまでの間は、魔族が圧倒的勝利を収めていた。当然だな、スペックが違い過ぎる」
「うん、で?」
「その過程で現れたのが貴様も関わった呪薬による人造英雄プロジェクトだが……こうしたものは、何も呪薬1つではない」
呪薬……エボルポーションとは別の人造英雄の作成法。それが「超人計画」だとアルヴァは語る。
「超人計画。また胡乱な名前のが出て来たわね」
「胡乱のままであれば良かったんだがな。要はスペックで負けているならスペックを引き上げればいい、と。そういうことだ。魔族に薙ぎ払われて、質こそが重要だと悟ったんだろうな」
「それで魔眼石ってこと?」
「いや、そんな名前ではなかった。コアマテリアル。当時はそういう名前で生成され、人間に融合させることで超人を生み出そうとしたのだ」
結果は暴走。強すぎる力を制御できず、周囲の全てを吹き飛ばして終わったのだという。
うーん、馬鹿が過ぎるし外道が過ぎる。何なの、この世界の人間。
「しかし魔眼石とはな……どうやら違うアプローチから超人を生み出そうとしているようだな」




