フラグって言うな
何か知らんけど、最近魔族領……ヴェイリア魔国の領土内に、人間が増えてるらしい。
今のところ人間と魔族は争ってるわけじゃないらしいけど、どうにも何かを探してるとか。
そしてそれは……どうにも、人であるらしい。
何か重要な人物が居なくなったか攫われたか……そんなところではないかと、シーヴァが言ってた。
なんで私にそんなもん言いに来るのかしら。
「どう思う? アルヴァ」
「貴様なら関わると思っているんだろうよ。転生事件に呪薬事件、どっちも解決したのは貴様だろう」
「好きでやってんじゃないのよねえ……」
「……『だから』だろう?」
「ぐっ」
関わりたくないのに関わるとか、確かに「次もあるな」って思われるわよね。
不本意だ。私が何をした。
「で、コレか。フン、きな臭い話だ」
アルヴァが見ていたのは、シーヴァが置いて行った資料の数々。
人間の国で行方不明になった人たちの中でもある程度影響力の大きい人たちのリストらしい。
私も軽く目を通したけど、何処ぞの商人の子供とか貴族の息子に娘、等々。実にバラエティ豊かだとは思うけど……。
「まさか呪薬事件の関連じゃないわよね」
「だとしたら、後始末の話になる。隠密部隊の長がわざわざ持ってくる話ではあるまい」
「そうよねぇ」
「それに、コイツなどはつい最近居なくなっている。呪薬とは関係あるまい」
アルヴァがヒラヒラさせているのは、カルレイ王国とかいう国のお姫様のプロフィール。
孤児院の視察中に護衛が皆殺し、護衛対象である第3王女ミーファは孤児院の子供たちとともに姿を消した……らしい。ちなみに孤児院の大人たちは無残な死体で見つかったらしい。
「見た感じ、連続子ども誘拐事件って感じだけど」
「間違ってはいるまい。15歳以下の子供ばかりだ」
うーん、何が目的なのかしらね。如何にも警護が厳重そうな相手を狙う辺り、ただの誘拐犯とも思えないけど。
「……いや待って」
「どうした。何か思いついたか」
うん、気付いちゃった。これすっげー重要よ。
「あのメガネ、もしかして私にタダ働きさせようとしてない?」
よく考えれば前回の呪薬事件も別に何か貰ったわけじゃないし。あのネックレスとやらも貰ってないし。要らないけど。
「なんだ今更。都合よく利用しようとしているに決まっているだろう」
「別に私、正義の味方じゃないんだけど?」
「貴様の倫理観は正義寄りだろうよ。知らせておけば無視できないと思われているんだ」
「うわムカつく。今から殴りに行こうかしら」
「やめておけ。権力は相手にするだけ面倒だ。国ごと磨り潰すつもりでもなければ……」
そこでピタリと言葉を止めるアルヴァ。何よ、何か文句でもあるのかしら。
「……貴様なら可能、か?」
「出来ないとは言わないけど……」
クローバーボム使えば余計な被害を出さずに制圧できるとは思う。思うけどね?
「やらないわよ、そんなこと。いざとなったら引きこもるし」
「まあ、そうだな。この周囲全てを囲まれたところで貴様には何の痛痒もない」
「まあねー」
この拠点が無事である限り食糧も水も困らないし、何処にだって行けるもの。ついでに何やっても此処の守りを突破できないのも確認済。うーん、良きかな。
「ま、その子供たちを見かける事があれば助けるくらいはやるけど。それ以上はやんないわよ」
「そういうところを利用されてると言ってるんだが」
「知ってる。でもこればっかりはねえ……寝覚め悪いし」
別に「解決するぞ!」って意気込んで何処かに当てもなく出かける気はないけれど。
ちょっと見かけた時に助けるくらいなら構わない。言ってみればその程度の話だ。
「なんかさあ。私、もっとファンタジーって夢のあるもんだと思ってたわ」
「貴様が何を言ってるのかは理解できんが……夢がないのが現実だろう」
「ほら、あるじゃない? 夢と冒険、剣と魔法の一大叙事詩! みたいな?」
「そういうのがやりたいのか?」
「やりたくない」
ダラーッとソファに寝転がるとアルヴァが「なんなんだ貴様は……」と呆れたように呟く。
全くその通りでございます。
でもほら、世界がどうとか正義と愛がどうとかは興味ないけど。
だからって悪意と陰謀がどうのこうのってのに巻き込まれるのも御免こうむるのよね。
私、もっとゆるっと生きていたい。町で変なペット探す仕事だけで充分なのよ。
「何か楽しそうな話が聞こえましたわ!」
パーン、とドアを開いてリビングにやってくるのはリーゼロッテ。
……そういえばこいつ、まだ居るのよね。
「万能薬の研究進んだ?」
「サッパリですわ! だって何やっても分離しないし反応もないし! プライドボッキボキですのよ!」
あ、ちょっと泣いてる。でも私も分かんないしなあ……。
正直何も出来ないので放っておくと、リーゼロッテは自分で「でもやってやりますわー!」と立ち直る。うんうん、段々打たれ強くなってきたね。
「で、何やってるんですの?」
トテトテ、と歩いて来たリーゼロッテは机の上のプロフィールを1つ手に取ると……真顔になって私へ振り向く。
「……お見合いするんですの?」
「しない」
なんで私がそんなもんをしなけりゃならんのか。
私はただのE級冒険者。そういう厄介ごととは一生無縁で生きていきたいのだ。
お待たせしました。
第3章、ゆったり更新して参ります!




