黒の階梯とは
ソファーに座ると、普通にリーゼロッテも隣に座ってくる。
「でも、そういう事を聞いてくるってことは闇魔法を使えるんですの?」
「スキルで変身みたいなのをすると使えるようになるのよ」
「色々出来ますのねえ……」
「まあね」
そう、変異:ブラックアリス。このスキルの最大の利点は闇魔法が使用可能になることだ。
私自身は、どうにも魔法関連の才能がないっぽい。
たぶん魔法系のジョブになっても変わらないんじゃないだろかって感じる。
たとえば「剣士」のジョブは本来はパワースラッシュとかいうスキルがあるらしいけど、私は覚えてないし。
これも「たぶん」になるけど……私は覚えられるスキルの範囲的なものが他人より狭いんじゃないかなって思う。
その分強力なスキルが揃ってはいるけど……ね。
「でも、ちょっと羨ましいですわ。私、闇魔法は覚えたくても覚えられませんもの」
「ふーん」
……って、ちょっと待って。覚えたくても覚えられない?
「一応聞くけど、普通魔法ってどう覚えるの?」
「どうって……魔法書読んだり教えてもらったりでしょう?」
普通か。いや、普通でいいんだけど。ええ……? てっきりその辺全部「スキル」なんだと思ってたけど。
「ごめん、私魔法のこと詳しくないのよ。もっと教えてくれる?」
「アルヴァさんは教えてくれませんの?」
「聞けば教えてくれるかもだけど、思いつきもしなかった」
「仕方ありませんわねえ」
言いながらも嬉しそうにリーゼロッテが説明することをまとめると、こうだ。
魔法はスキルでもあるが知識でもある。
スキルとして登録されるのは「火魔法」「水魔法」みたいな系統であり、そこからどの魔法が使えるかは本人次第。
適性のない魔法はスキルに登録されないが、使おうと思えば使える。ただし、威力は格段に下がる。
種族によっては、適性のある魔法以外は使えない場合もある。魔女はまさにそれ。
「ふーん……リーゼロッテは雷みたいなの使ってたけど、あれは光魔法とか?」
「違いますわ。アレは天属性の魔法でしてよ」
「なんて?」
「天属性ですわ」
どうやら魔法の属性には凄く種類があって、複合属性みたいなのがいくつか存在するらしい。
で、リーゼロッテの適性が「天」オンリーなんだとか。
「鉤鼻の魔女は基本属性は大体使えたって記録はありますわね。とても珍しい事ですのよ」
「ふーん。で、天属性って何?」
「言葉通り、天に関する魔法ですわ。雷、雨、星……などですわね」
「メテオか」
「な、何故その魔法を知ってますの⁉」
「いやだって星の魔法ってメテオに決まって、ちょい、揺さぶらないでよ」
「ここ数百年使い手の現れない魔法ですのに! まさか魔法書の在処を」
「知らない知らない」
持ってるわけないじゃん、そんな魔法書。
「持ってるならアルヴァの方が可能性あるんじゃない?」
「持っていないな。俺は闇魔法が専門だ」
「そうなの?」
「当たり前だろう。ブラックメイガスを何だと思っている」
「何なのよ。未だに説明された覚えがないんだけど」
「ていうか、何処から出てきたんですの……?」
私がそう聞くと、アルヴァは「ふむ……」と頷く。
「貴様には説明しても仕方ないとは思うが……まあ、説明しておくことでいつか役に立つこともあるかもしれん、か」
「私をいちいちディスるんじゃないわよ」
私にフン、と馬鹿にしたような笑みを浮かべた後、アルヴァは真面目な表情に変わる。
「……そもそもブラックメイガスとは継承されるものだ」
「継承、ね」
私の中で、会ったこともないはずのブラックアリスとの会話の場面が浮かんでくる。
彼女はブラックメイガスを継ぐのは私だと……そう言っている。
なんなのかしら、この記憶。
「その継承方法は、至極単純。前任者の記憶と力を後任者に流し込む。それで継承は完了する」
「そ、それって……転生魔法じゃありませんの⁉」
「似て非なるものだ。転生魔法は乗っ取りに近いものだが、ブラックメイガスの継承は融合に近い。事実、俺は前任者の思考パターンを全て消し飛ばした上で此処に居る。ついでにいえば、ブラックメイガスの継承という使命も放棄したがな」
継承、ねえ。破棄されてない感じだけど……。
「その継承って、何なの? どういう意味があるの?」
「継ぎ足しだ。魔力と才能の、な。同一の個体では成し得ない可能性を、複数の個体を渡り歩くことで成そうとしている。そうして黒の階梯を上へ、上へと登ろうとしているのだ」
黒の階梯。その言葉に、頭の片隅が反応しようとする。
何か、重要なワードのような……?
「登ったらどうなるの、それ?」
「……さて、な。だが、登り詰めた先に光はあるまい」
「もっと分かりやすく」
「ロクなことにはならんということだ」
……まあ、そうでしょうね。けど、その力は私の中にもある。
これを継承と考えるべきかどうか?
使い続けるかどうかも、考えなきゃならなくなってきたけど……うーん。
「なんで次から次へと面倒ごとが舞い込むのかしらねー……」
「それが貴様の背負った運命ということだろうよ」
「私がついてましてよ!」
うーん。一生引きこもりたくなってきたわ。




