乙女ぶる2
私とシーヴァの「デート」は、中々に注目を集めているらしかった。
街中を手を繋いで歩く魔国のエリート種族の魔人と、魔国では底辺種族の人間。
そんな2人が如何にもラブラブです、といったような雰囲気で歩いているのはちょっと……いや、凄く珍しいっぽい。
「なんだ、あのカップル……」
「女の方は魔人じゃないわよね? 人間……そんなのがどうして?」
うーん、聞こえてくる聞こえてくる。
疑問の中に人間への嘲りとか嫉妬とか、そういうのが凄い混ざってる。
どうにも作戦の第一段階は成功っぽい。
「ああ、アリス。店が見えてきましたね」
「素敵なお店ね、シーヴァ。でも私、あんなお店に入ったことないわ」
「何も気にする必要はありません。私が居ますからね」
行くと言っていたアクセサリーショップのドアを紳士っぽくシーヴァが開けて、私が先に入る。
レディーファーストみたいな文化ってこっちにもあるのね……でもあれって先に女性を出して盾にするとか、そういう文化が下地って聞いたこともあるけど。
コイツの場合そっちの可能性が否定できないのも中々あれよね。
「いらっしゃいま……人間ですか。金は払えるんでしょうね?」
うーん、高級店の類はこうなるから嫌なのよね。人間は一部を除けば稼ぎもこっちでは底辺だから、存在自体がドレスコードに引っかかる的な、そういう風潮。
ま、人間の国だとこれが逆になるんだろうけど。
「勿論ですよ。私が居ますからね」
「こ、これは……! 大変失礼致しました」
「さあ、アリス。好きなものを選んでいいんですよ。なんなら店ごと買ってもいいですとも」
「あら、そしたらあの人はクビね?」
「勿論ですとも。物理的に首にしたっていいですよ」
「ご、ご冗談を……」
勿論冗談だけど。魔王なハーヴェイの意向に逆らってるんだからそうなってもおかしくないのよねー。
ていうか、そもそもの話魔王の意向に逆らう奴が結構いるってのもどうなのかしらね?
秘密部隊みたいなのが居るんだから、その辺の情報戦みたいなのをやっててもおかしくないと思うんだけど。
「どうしました? 欲しいものを見つけましたか?」
「え? ううん、そういうわけじゃないんだけど」
おっと、危ない危ない。今はそういうの考えるのやめとこうっと。
適当にアクセサリーを見るふりして……。
いや、うん。全然分かんないわ。宝石が大きいとか小さいとかしか分かんない。
おかしいな、私も一応女の子のはずなんだけど。異世界だから? 異世界だからなの?
こういう時には……奥義を使わざるをえないわ!
「ねえ、シーヴァはどれが私に似合うと思う?」
そう、奥義・丸投げ! 私に失点がない上に男に花も持たせられる必殺技……らしい。
リーゼロッテが言ってたからそうなんだと思う。
でも彼女、友達も居ないのに何処でこの技使うのかしら。
「そうですね……貴方には、青い石が似合うと思いますが……具体的にどれ、となると中々に難しいですね」
「褒めてもらえてるのかしら?」
「ええ、勿論です。下手なものを選んでも、貴方に負けてしまう……ふふっ、そんな恋人を持つことが出来て、喜ぶべきか困るべきか」
イケメンビームがキラキラしてる……ちょっと眩しい。
間違いなく口説き台詞なんだけど、本気でドキドキしないのよね。
乙女としては少しばかりマズい気もするわ……。
「そ、それでしたら……とっておきの宝石がございますが」
「おや、そんなものが?」
「ええ。今奥からお持ちしますので」
言いながら店員が別の店員に合図をする。特別な宝石、ねえ……。
どんなものか考えている間に、その「特別な宝石」とやらが持ってこられて、ケースが開けられる。
「ほう……」
「本来は特別なお客様のみにご紹介している魔石です。青い石をお望みとのことでしたが、丁度ご希望に沿うものがございました」
出てきた宝石は、確かに青くて綺麗で……僅かだけど、光を放つ石だった。
「こちらをご希望に合わせて専属の職人が加工致します。特別な一品として長くお使い頂けるものになるでしょう」
「いいですね。では、それをネックレスに。あまり装飾はしない方向で、魔石自体の良さを活かすようにしてください」
「はい。お支払いは……」
「足りなければ魔導騎士団のシーヴァ宛に、いつでも請求してください」
言いながらシーヴァが放り投げた袋の中身を見て、店員がヒュッと息をのむ。
うーん、幾ら入ってたのかしら。聞くのがちょっと怖い。
「素晴らしいものになりそうですね」
「そうね……でも、(色んな意味で)いいの?」
「構いません。私にとっては小銭です」
「そうは見えなかったけど……」
「ではその分、私を愛してくださればいいですとも」
そんなイケメン台詞の乱打を受けながら、私たちは店を出る。
うーん……これ全部演技なのよねえ。恋とか愛とかの真実が言葉にないのなら、いったい何処にあるのか……。
そんなどうでもいい事に思いを馳せていると、シーヴァが「アリス」と囁いて私に顔を寄せてくる。
「な、何? どうしたの?」
「……殺意は高まっているのですが、中々引っかかりません。1度偶然を装ってはぐれたほうが良いかもしれませんね」
それってたぶん、私が1人で襲われると思うんだけど?
守るとか言ってなかったっけ? んー?
「たぶん貴方が集中的に襲われるでしょうが……慰謝料はすでに手配済み、ということで」
「貴方ねー……さては最初っからそういうつもりだったわね?」
「守りますよ? 10秒耐えてくだされば駆けつけましょう」
「10秒あれば誘拐にも殺害にも十分だと思うんですけどぉ?」
「貴方は、そんなにやわではないでしょう? お願いしますね」
ウインクするんじゃないわよ。あー、もう。仕方ないわね!




