乙女ぶる
門の外へと転移すると、そこには何やらパリッとした服を着たシーヴァの姿。
……これ、もしかしなくても軍服よね?
なんか勲章っぽいのがついてキラキラしてるんだけど、秘密部隊ってそういうの貰えるのかしら。
「おはようございます、アリス。今朝は良い天気ですね」
「おはよう。一応聞くけど、どうやって此処に来たの?」
「勿論、調べました。簡単な事です」
「うわあ……」
「そんなに喜んでいただけるとは嬉しいですね」
「引いてるって分かんないかなあ」
「ははは、ご冗談を」
何が面白いんだこいつ。私はちっとも面白くないんだけど。
でも我慢だ。今は我慢だ私。
「で、その恰好は何? 所属ってアレなやつじゃなかったっけ」
「ええ。私の所属は魔導騎士団であり、私は第7部隊長ですので」
よく分からん。表向きの身分ってこと?
そういう難しいのは事前に言っといてくれないかなあ……。
「ま、いいけど。それで、今日は何しに来たの?」
「貴方の為に休みをとりましたので、デートでもしようかと思いまして」
キラリと輝くメガネ。うーん、押しつけがましくてやだって感情しか沸いてこないぞ。
正直、自分が微妙な表情しかしてないって自覚はある。
これ、人選ミスじゃないかなあ……グレイ連れてきた方が楽しい顔できる自信あるんだけど。
「あのですね、アリス……」
顔を近づけてくるシーヴァ。うーん、イケメンのはずなんだけど……何も感じないわね。
最近顔が整ってる男を見過ぎたせいかしら。
「……上手く演技しろとは言いませんが、もう少しどうにかなりませんかね?」
「そんなこと言われてもねえ……まあ、やるけど」
恋人。そう、恋人って設定だっけ。
恋人ってどういうのやればいいんだろう。えーと……うーん?
「よし、行こうかシーヴァ。今日は僕にリードさせてもらえるかい?」
「どうして躊躇いなく男役を選ぼうとするんですか。私にエスコートさせてください」
「はいはい。じゃあお願いするわ」
シーヴァの差し出してきた手をとると、シーヴァは柔らかく微笑んで握ってくる。
うーん。やっぱり何も感じないけど……まあ、これもお仕事よね。
私も微笑み返して、ふと振り向いて。
「……うわっ」
なんか門の向こうに裏切られた人みたいな顔してるリーゼロッテがいるんだけど……何アレ?
「どうしました?」
「なんでもない。行きましょ」
リーゼロッテを見ないように、私はシーヴァの背を押して歩き出す。
ええー……よく分かんないけどもしかして、帰ったらあのめんどくさそうな顔したリーゼロッテの相手するの?
今から気が重いんだけど……。おっと、笑顔笑顔。
「……アリス。実は今日此処に来る前に、人間の恋人に会うという話を流してきました」
「なんてことしてくれてんのよ」
「おっと、笑顔はそのままで」
「いいから説明」
「結果から言えば、私に尾行がつきました」
「それで?」
「私は他者からの視線に含まれる感情をある程度識別できる能力を持っています」
……なんか、すっげー陰険そうな能力ね。要はお世辞とかも見抜けるってことでしょ?
あー、でもそんなもの持ってると人付き合いも面倒になりそうだわ。
「たとえば、アリスの私への感情は非常にニュートラルです」
「そう?」
「ええ。好きでも嫌いでもない。そんなところですね」
「どっちかというと苦手だけど」
「苦手と嫌いは違います。私を嫌う人間の感情は非常に判別しやすいですね」
「ふーん?」
そういう事を話すってことは……つまり、そういうことよね。
「で、何人『居る』の?」
「確認できる限りでは1人。此処に来るまでの間に興味本位程度の者は撒けるように歩いてきたつもりですので……」
「それなりのプロ、か」
「ええ、しかも私、あるいは貴方に敵意を持った……ね」
……今捕まえちゃいけないんだろうな、やっぱり。
確実な証拠……つまり襲ってきてから、か。
「こうして私に話してるってことは、距離はあるのね?」
「ええ。遠見の魔法を使っていますね。私には無駄ですが」
そりゃまあ、視線から感情を判別できるんじゃねえ。凄く秘密部隊向けの能力だと思う。
「ですが、ここまでです。相手が読唇術を使えないとは限りませんので」
「はいはい。それじゃあ恋人っぽく振舞いますか」
嫌だけど。まあ、仕方ないわよね。
私は記憶の中にある「それっぽい情景」を思い浮かべながら、シーヴァの腕に抱き着いてみる。
「ねえ、シーヴァ! それで今日は何処へ連れて行ってくれるのかしら!」
「そうですね。まずは商業通りに行ってアクセサリーでも買う事にしましょう」
「わあ、素敵なものが見つかるかしら?」
「ええ、きっと見つかりますよ。それに貴方は何をつけても似合うでしょうからね」
「ふふ、お世辞が上手いのね?」
「お世辞だなんて。私は本気で言ってますよ?」
「どうかしら。信じていいの?」
くっ、私に搭載されてない乙女回路っぽいものを起動させてると疲れるわ!
でもたぶんこれで合ってるはず……!
「ええ、証明してみせますよアリス。さあ、急ぎましょう?」
「そうね!」
できればボロが出る前に、早めに出てきてくれると助かるわ……!
『……貴様の乙女ぶっているところを初めて見たが、中々に気色悪いな』
そんな事で念話飛ばしてくるんじゃないわよ、ぶっ飛ばすわよ?




