アルヴァに報告
「……てことがあったのよ」
「馬鹿か貴様は」
拠点に帰ってきて今日一日の事を説明する私にアルヴァが投げかけてきたのは、そんな心ない言葉だった。マジひどくない?
「なんでよ。出来る限りトラブル避けたうえで人道的な行動でしょうが」
「考え得る限り最大のトラブルを釣り上げて帰ってきただろうが。そもそも万能薬などという単語を迂闊に口にするな」
「うっ、それは私が迂闊だったかもだけど」
「いいか。貴様は迂闊と愚かさと衝動と破壊力を合成したものが服を着て歩いているような奴なんだ。気を使い過ぎだと思うくらいで丁度いいんだと自覚しろ」
「言い過ぎじゃないの」
なによ迂闊と愚かさと衝動と破壊力の合成って。台風か何か?
「言い過ぎではない。隠密部隊だと? 一番面倒な連中と関わってきやがって」
「あ、やっぱり面倒な連中なんだ」
「当然だ。そんなものが『居る』と堂々と宣言してるくせに、実態をほとんど掴ませない連中だ。それをヴェイリア魔国の建国時から継続している……それがどれ程異常な事か分かるだろう」
「分かんない」
要はスパイとかエージェントってことでしょ? そういうもんなんじゃないの?
そう思う私に、アルヴァは大きく溜息をつきながら首を左右に振ってみせる。
「いいか。貴様がハーヴェイの『お気に入り』である事を、そのシーヴァとかいう男は確実に知っていた。だから貴様の前に堂々と姿を現したんだ」
「んー? どういうこと?」
「グレイとかいう下っ端獣魔人はどうだか知らんが、そのシーヴァという男は隠密部隊のトップを名乗ったんだろう?」
「うん、まあ」
本人の申告が真実ならそうよね。
まさか嘘だったとか? いや、そういう話じゃないわよね。
「どの時点からか……城に着いたタイミングかもしれんが、貴様の動向は把握されていた。その上で接触してきたと考えて間違いない」
「え、怖……ストーカー?」
「自国の王と知り合いの何処の誰かも分からん女だぞ? どうして監視の目がついてないと思えるんだ」
「ええー……見つけたらブッ飛ばしていいかな?」
「やめておけ」
ええー、でも乙女の秘密を覗く奴は死刑って六法全書にも書いてありそうだし……。
ダメかなあ……ダメか……ちぇっ。
「じゃあ、私と恋人ごっこするってのはどういう目論見があるのよ。今聞いた限りだと、それも何か明かした以外の目的がありそうだけど」
「本来は貴様がそれを見抜くべきなんだが……まあ、いい。一言でいえば、見極めだろうな」
「見極め、ねえ……」
私が不審者じゃないかどうか、とか?
いや、そりゃ王様の近くにいる女とか、そういう風な事になるのも分かるけどさ?
うーん……。
「つまり、私が魔族の敵じゃないって分かればいいんでしょ? それってもう充分示したと思うけどなあ」
「……そういう思考になるのか。まあ、ひとまずはそう考えておけばいい」
「何それ」
「気にするな。貴様に余計な知識を与えても、要らん事になりそうだ」
「否定はしないけど」
「否定しろ、馬鹿が」
「ひどくない?」
私が馬鹿なのは分かってるんだからいいじゃない、もう。
「そうやって発展しないから面倒ごとに巻き込まれるんだろう?」
「だからこうやって相談してるんじゃない。それに、あの状況だと魔王城の窓から逃げるくらいしか解決策なかったんじゃないの?」
「そうなる前に回避しろと言っている」
「あの状況だとグレイを助けないくらいしか回避の選択肢なかったと思うけど?」
「む……」
そう、そうなのだ。たとえばグレイを助けた後逃げたとしても、なんとなくあのメガネは拠点前に来そうな気がするし。
かといってグレイを助けない選択をしたとして、呪薬の話を聞く限りだとグレイが呪薬人間とかいうのになってそうだし。それはちょっとどうかと思う。
「結局のところ、問題山積み過ぎるのよね。歩くだけで火が付く爆薬庫を歩いてる気分になるわ」
人間と魔族の確執。
モンスターとかいう謎の生物。
そして、人間と魔族の関係を更に拗らせようとする馬鹿に、呪薬とかいうのを作ってる馬鹿。
ついでにいうと、どっかに召喚されてる勇者も火種になりそうな気がする。
「はー……まとめてクローバーボムで吹っ飛ばしたら平和にならないかしら」
「それはそれで新たな火種になりそうな気もするがな」
「それよね。私は別に覇王とかになりたいわけでもないし」
つまるところ、私は目立ちたくないのだ。
極まった中二病でもあるまいし「そんなつもりはないけど大衆の前で圧倒的実力を見せつけちまったぜ!」とか、そういうことはご免なのだ。
かといって、この拠点に引きこもって一生を過ごすほど社会性を捨ててるわけでもない。
だからE級冒険者としてチマチマ仕事して、買い食いとかするくらいで幸せなんだけど。
「はー……めんどくさっ」
「……まあ、名前は出さんと言われたのだろう。さっさと解決するんだな」
「そうだけど」
言いながら伸びをして。ふと気づいて周囲を見回す。
「そういえば、リーゼロッテは?」
「部屋で唸っていたな。しばらく出てこないんじゃないか?」
「ふーん」
まあ、頑張ってとしか言えないなー。




