イケメンはメンタル強い
誘惑に満ちたワンダーランドを抜けて歩いていくと、急にパリッとした格好の魔人が多く出歩くエリアにやってきた。
うーむ、この辺りは政務関係って感じ?
グレイをジロジロ見てるのが多い気がするわね……私に関してはチラッと見た後、すぐに興味を失う感じ。失礼な連中ね。
「ねえねえ、グレイ」
「なんですか?」
「さっきからジロジロ見てる連中……何なの?」
私がそう聞けば、グレイは苦笑を返してくる。
「ああ……私は今ほら、冒険者っぽい格好で、しかも薄汚れていますからね。場違いに見えるのでしょう」
「ドレスコードみたいなやつ? めんどくさいわね」
「現場にいると然程重要視するものではありませんが、こういう場では大切なものですよ」
今はそんな暇はありませんがね、と言うグレイに私は「ふーん」と返す。
なんか窮屈そうね、そうやって生きるの。
そうして歩いて行った先。何処かの部屋の前でグレイは扉を叩く。
「グレイです。入室許可を頂けますか?」
「入りなさい」
グレイが扉を開けた先にあったのは、落ち着いた雰囲気の部屋。
そして、書類を積み上げたデスクにいる、魔人だった。
銀髪のオールバックの髪形に細い眼鏡……うーむ、如何にも出来る男って感じ。
「よく戻りましたね、グレイ」
「いえ、私1人では帰還は成らなかったでしょう。こちらの少女に助けていただいたおかげです」
「ふむ……?」
言われて初めて私の存在に気付いたように、銀髪眼鏡は視線を向けてくる。
「そういえば、そちらの子供は?」
「冒険者のアリスです。呪薬を飲まされ路地裏に倒れている私を……あー」
「たまたま持っていた凄い薬で助けたわ」
「……ということです」
「なるほど……」
私を見透かすようにじっと見てくる銀髪眼鏡だけど、ナジムの時のような不快感はない。
たぶん変な技とかは使ってないんでしょうね。
「お嬢さん。凄い薬、というのは一体?」
「詳細不明の健康に良い薬よ。たまたま持ってたの」
「そうですか……」
銀髪眼鏡がグレイに視線を向けて、グレイは困ったような表情で「あー……」と言いよどむ。
「私もよく分からないのです。ただ、呪薬の効果を打ち消したのは確かです。その、冒険者は奥の手を隠し持っている事も多いので、その類かと……」
「安定して入手できるものではない、と。まあ、エリクサー級のものがそう手に入るはずもないですね……」
簡単に手に入るんだよなあ……今となってはどうやって入手するかいまいち不明なゲーム内通貨を使ってだけど。
「それで、グレイ。その子を連れてきたということは……」
「はい。事情を説明するに足ると判断しました」
「あ、私帰るんでさようなら」
「待ってください」
身を翻して帰ろうとしたらグレイに腕を掴まれた。チッ。
「私を巻き込まないでくれる?」
「そう言わないでください。今回の事件の解決には、信頼できる人間の協力が必要なんです」
「そんなの城の人間から適当に選べばいいじゃない」
「城に人間の働き手はいません」
「えー……」
嫌なんだけど、そういう凄い面倒そうなのに巻き込まれるのって。
「そもそもの始まりは、地方都市で始まった人間誘拐事件です」
「奥義・アゴこちょこちょ!」
「あ、ちょ、アゴを撫でないでくださ……!」
「これでもか、これでもか!」
「やめてください、破廉恥な!」
「え、そういう扱いなの?」
獣魔人の習慣、分かんない。どういうことなの……?
「まったくもう。それより、まさかとは思いますが……本気で嫌なんですか?」
「本気で嫌」
「魔国の為になる名誉な仕事なのにですか?」
「そういうの欲しくないの。隅っこで平和に生きてたいから」
「なんと……」
私がきっぱり答えるとグレイは理解できないと言いたそうな表情になるけど、銀髪眼鏡が面白そうに含み笑いを漏らす。
「グレイ。そのお嬢さんは、どうやら世捨て人に近い性格の持ち主のようです。賢人や武人の中でも極まった者はそういう傾向があると聞きましたが……」
「そういうことですか……」
「単純に目立ちたくないのよ。誰かに利用されたりの人生はノーサンキューよ」
「だからこそ、権力を得て利用されない立場に立つという方法もありますよ?」
「しがらみに捕らわれた時点で無いでしょ」
いくら私が馬鹿でも知ってんのよ、そのくらい。
そんな思いを込めて睨めば、何が面白いのか銀髪眼鏡はクックッと笑っていた。
「そういうタイプなのですね、お嬢さんは。面白い。実に面白いです」
「まーた『面白い』が出た……何なの、イケメン語なのソレ?」
「イケメン語?」
「一定以上に顔が良い奴って『面白い』に複数の意味籠めるんでしょ?」
私知ってるんだからね。そういう奴に会ったし。
「否定はしませんが。そうですか、お嬢さんは私の顔が好みなのですか?」
「イケメンだとは思うけど。それだけね」
「おや」
椅子から立ち上がると、銀髪眼鏡が私に近寄ってくる。
「私はそれなりに女性に好かれる自信はあったのですが……?」
「スカした自信満々の態度が燗に障るわ」
私が正直な気持ちを答えると、銀髪眼鏡はキョトンとした表情になった後……耐えきれないといったように爆笑する。
「ハハハ……ハハハハ! 本当に面白いお嬢さんですね! 気に入りましたよ!」
「メンタル強くてイラッとする……」
あ、やば。思わず声に出ちゃった。




