また変な奴出た
ちょっと悩んだけど、悩んでいても仕方ないとすぐに切り替えて私は冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドが近づいてくると人が増えてくるけど、私のような人間は少ない。
いや、オウガも鉤鼻の騒ぎで減ったから少なめかな。結構大規模な捕り物になったらしいけど……。
そのせいかな。人間の冒険者の比率が多めになったようにすら見える。
実際に冒険者ギルドの中でも、人間の冒険者が前よりは目立つ。
「オウガ共を最近見ないな」
「知らないのか? 違法奴隷扱って捕まったとかって話だぜ」
「イルモ商会に捜査が入ったのもそれか?」
当然だけど結構噂になってるのね。私もその後の詳しい経緯は知らないんだけど。
「そもそもオウガ共はデカいツラしてたからな……」
「ああ、ちょっとパワーがあるからってよ」
うーん、オウガからすると自分たちが底辺って意識っぽかったけど……その辺りの意識の差は大きいってことかしら。ともかく「人間」からするとオウガの今回の件はざまぁみたいな感じっぽい。
そういうのどうかと思うけどなあ。
「ていうか、あの子誰だ?」
「確か雑用仕事をチマチマ受けてる子だよ」
やべっ、話題がこっちに移ってきた。私は足を速めてカウンターに辿り着くと職員のお姉さん……今日は猫の獣魔人の人か。その人に声をかける。
「こんにちはー。アリスですけど、暇なときに顔出せって言われたので来ました」
「え? あー、えーと……はいはい。確かにありますね」
何やら書類をやる気なさそうに捲るお姉さん……うーん、気だるげ。人間なんてどうでもいいって感じに溢れてるわ。
「えっとですね。普段雑用依頼を受けられていますけど、もう少し収集依頼とか……そっち方面を受けるのはどうかっていう話ですね。どうです?」
「どうですって言われても……私、Eランクなんだけど」
「知ってます。ただ、冒険者ギルドとしては個人のキャリアアップを推進する義務もありまして」
キャリアアップ。うーん、めんどくさい言葉出てきたなあ。なんでまたそんな事を……。
「キャリアアップ……」
「はい。アリスさんのお仕事は実は結構毎回評判良くて。もう少しランクを上げて、もう少し良い感じの依頼を受けられるようになってもいいんじゃないかというお話がきてるんですよ」
めんどくさっ、という言葉が思わず口から出かけてしまう。
それってもしかしなくても私を指名しようとしてる人がいるってことじゃないの?
ええー……やだー……面倒ごとの匂いがする……。
「凄く嫌そうな顔してますけど、良いお話なんですよ。人間ってだけで嫌がる人も多いのに望まれてるんですから」
「ええー……とんでもない面倒ごとの匂いがする……」
「そういうのは思ってても言わないんですよ……?」
やべっ、口から出ちゃった。でも面倒ごとの匂いがする……。
「それってもしかしてノーゼン商会とかいうところじゃ……」
王都に来るときに助けた人達のことを思い出していると「違いますよ」と返ってくる。
あれ、違うの?
「詳しくは今は言えませんが、結構歴史のある組織からもお話がきてます。なので私達としてはアリスさんには早めにランクをですね……」
「上げたらその仕事を受ける羽目になるってこと?」
「そういうことです。Eランクは最低ランクですから、指名依頼の対象に出来ないことになってまして」
「じゃあ、そこに貼ってある迷子のヒュージマウス探し受けるから」
「いや待ってください。こっちに光煌石の収集依頼がですね」
「それは別の人に回しといて。それじゃ」
引き留める職員をそのままに、私はネズミ探しの依頼書を手にカウンターを歩き去る。
嫌な予感しかしないのにランク上げるとか冗談じゃないわよ。私は一生Eランクでいいや。
そうやってギルドを出ていくと……やがて広場に辿り着く。
色んな屋台が出てる場所でもあるけど、何やら今日は変な雰囲気。
その原因が、広場の中央で声を張り上げている奴にあるのは明らかだった。
「我ら魔族の仲間であるオウガの一斉摘発をもう皆知っているだろう! この魔国の王都にまではびこる人間どものせいで、オウガの仕事が奪われたのが原因だ! しかもそのオウガを唆したのは人間どもの商人だという! つまり何もかもが人間のせいであるのは明らかであり……!」
わーお、過激派。ああいうのも出るのね。あんまり近づかないでおこうっと。
回れ右して広場から離れ、私は別の道を歩く。えーと、ネズミが行方不明になった区域って何処だっけか。依頼書に記された情報を見て唸っている私の手から、誰かがひょいと依頼書を奪う。
「なんだこりゃ。ネズミ探し?」
「ちょっと、何よアンタ」
振り返ると、そこにはやけに装備の良い人間の……たぶん冒険者の姿。見た感じ、剣士かしらね。
んー? こんな奴、見た記憶ないけど……他所から来たのかしら。
「人間の国もクソだけど、魔族の国もクソだな。諍いが終わらねえはずだぜ」
赤い髪に赤い目。何やら如何にも「俺はできる男です」って感じの、その男に。
「いいから返しなさいよ馬鹿」
私は容赦なく金的狙いの蹴りを叩きこんだ。




