お出かけ
「で? その本は何だ」
「んー? アイテム図鑑」
「ほう?」
これもこの拠点の機能の1つだ。私が今までに入手したアイテムの詳細が記載されていく本だ。
逆に言うと手に入れてないアイテムは記載されないから、本としてはかなり致命的な欠点を抱えてるんだけど……。
「これ、私が手に入れたものが記載されるから。ちょっと調べておきたいものがあってね……」
言いながらページを捲っていくと、やがて目的の項目が出てくる。
それを私の表情で悟ったんだろう、アルヴァも私の背後に移動してページを覗き込んでくる。
「これは……ボムマテリアル……か」
「そういうこと。分かんないままってのもマズいでしょ」
・ボムマテリアル
ボム使用時に消費されるアイテム。超密度の魔力圧縮体であり、正しい方法でのみ展開可能。
「これだけ、か?」
「んー、そうみたい……ね」
これじゃ何も分かんないのと同じじゃないの。うーん。
「だが、危険なモノであるということだけは分かるな」
「まあ、そうでしょうけど」
「分かっていないようだな」
「何がよ」
「超密度というのがどの程度かは分からんが、貴様の持っているボムマテリアル……恐らくだが、暴発すれば国の1つや2つは消し飛ぶぞ」
……むう、そんなに危険なモノだったのねアレ。でもまあ、正しい方法じゃないと展開できないとは書いてあるけど。正しい方法ってのはたぶん、クローバーボムのことでしょうし。
「一応聞くが、あと何個持っている」
「さっき2個買ったから3個」
「……何?」
「3個」
「その前だ。貴様、何と言った」
「2個買ったって言ったけど」
アルヴァはそこで無言になって……バッとショップの扉へ視線を向ける。
「あのショップか……!」
「うん」
「何故そんなものが売っている!」
「私だって知らないわよ。でも安くはなかったわよ」
「金で買えてたまるか! 貴様、先程は聞かなかったが……あのショップでの『対価』は何だ⁉」
「ゲームのお金……ていうか異世界のお金?」
ゲームでもそんなこと出来なかったはずなんだけど、本当に何なのかしらね。
「ええい、非常識な……!」
「それは私も思う。在庫管理とかどうなってんのかしら」
「それは検証が必要なようにも思うが……こんな恐ろしい力を持っているのが貴様で良かったと言うべきかどうか……」
「良かったでしょ。私が世界征服とか興味ない系の美少女で」
「……まあ、それはそうだな」
ボムがショップで買えるなら、究極的な話……私は世界征服できそうな気もする。
ボム乱打でたぶん、ほとんどの敵に勝てると思うしね。しないけど。何の興味もないし。
「それに、ボムだって無敵なわけじゃないわよ?」
「ゲームとやらの話か」
「うん。あの世界じゃボム一発でボス倒せたりなんかしなかったし」
「それも凄まじい話ではあるがな……」
この世界でだって、ボムに耐える敵がいる可能性は充分にある。過信するのは良くないだろう。
ま、そもそも……そんな敵と戦う機会自体がないのが一番なんだけど。
パタンと本を閉じて机に置くと、私は思いっきり伸びをする。
「んー……! ともかく、私は日々平穏に生きたいのよ。何処の誰が何やっても構わないけど、私に関わってこないでほしいわね」
「……まあ、好きにしろ。貴様の人生だ」
「そういうこと……って、あっ」
そういえば冒険者ギルドで暇なときに話があるとか言われてた気がするわ。
こういう時間を使って聞いておいた方がいいのかしら。んー……。
「ねえ、アルヴァ」
「なんだ」
「冒険者ギルドでは話があるっていったら、どんな話だと思う?」
「俺が知るわけがないだろう」
「そうよねえ」
あんまり放置しても印象悪くなりそうな気もするし……行くしかないかあ。
「ちょっと冒険者ギルド行ってくるわ。留守番よろしく」
「……一応言うが、気を付けて行け」
「あははっ、分かってるわよ」
扉から「拠点の外」へと転移して、私はいつもと変わらない廃棄街の光景を眺める。
この辺りはほとんど誰も居ない……というか、ハーヴェイの威光みたいなのが輝いてる気もする。
だって、なんかその辺に明らかに装備の違う一団がいるし。え。何アレ、何か知らない基地みたいなのが建築中なんだけど……うん、関わらないでおこうっと。
「お、アリスか。居たのか」
「うげ、ハーヴェイ」
「なんだその態度は」
「いや、だって……暇なの?」
「暇ではない。今も視察中だ」
言いながらハーヴェイが視線を向けるのは、あの建築中のやつ。やっぱりハーヴェイかあ……。
「何アレ」
「見ての通り、兵士の詰め所だな。お前の庇護の為の施設でもあるな」
「要らないんだけど……」
「そうもいかん。お前の存在は魔国にとってはそれなりに重要だからな」
「そういう重たそうな期待かけるのやめてよね」
「いや、期待はしていない。警戒はしているがな」
そっちかあ。いや、分からんでもないけど。
「余としてはお前の自由をなるべく尊重する方向で動いているが、だからといって好き放題にされても困る。ま、そういうことだな」
「その辺の心配はいらないんだけどなあ……」
どいつもこいつも、私を何だと思ってるのかしら。
「それで、何処へ行くのだ?」
「冒険者ギルド。なんか話があるんだってさ」
「そうか。気を付けて行けよ」
なんかこう……「気をつけろ」ってのが「怪我をさせないように」って意味に聞こえてきたのは気のせいかしらね?




