ショップに行こう2
「戻ってきましたわあああああ!」
「ちょ、何なの⁉ 何なのよ!」
「貴様が突然消えるからだ。慌てていたぞ」
「そういうもんって知ってるでしょうに!」
「だからって突然置き去りにされるとは思いませんわよ!」
「ええいもう、悪かったわよ!」
絡みついてくるリーゼロッテを引きはがしても、すぐにまた抱き着いてくる。
寂しんぼか、この! あー、もう! ちょっと鬱陶しいわね!
「で、ショップとやらに行ってきたのだろう?」
「うん」
「それですわよ! なんで親友の私を置いていくんですの⁉」
「親友とショップと何の関係があるのよ」
「親友は一緒に買い物いってお食事して演劇見て夜景も見て楽しむと聞きましたわ!」
「ごめん、付属するイベントが多すぎて重い」
ていうかそれ親友っていうか恋人系のイベントじゃないの? 重すぎる。
「重くありませんわよ!」
「分かった、分かったわよ。でも演劇も行かないし夜景も見ないわよ」
食事はいつもしてるしね。家で。
言いながらもう1度引き剥がせば、今度はちゃんと離れてくれる……けど、腕は掴んでくる。
「まあ、それで宜しいですわよ」
「リーゼロッテってさ、絶対恋人出来ると束縛するタイプよね」
「しませんわよ。でも私の事を一番にはしてほしいですわ」
「ふーん」
やっぱ重たい女じゃん。激重じゃん。私は束縛しないし束縛されたくないけどな。
それを恋人関係って呼べるのかはさておいて。
「⁉」
「どしたの」
「なんか今恋バナしたような空気が漂いましたわ!」
「ていうかそのものだったんじゃない?」
「もっとしましょう!」
「えー、やだー」
めんどい。なんでそんな話しなきゃなんないのよ。
理想の男の子ー、みたいな話なんかしてたら口から砂糖吐いて死にそうだわ。
「しましょうよー!」
「やだー」
「ショップはどうした」
「そう、それよ」
リーゼロッテをそのままに、私はアルヴァをビシッと指さす。
「いいこと言ったわねアルヴァ」
「当然の事しか言っていないが」
「そう? まあ、いいわ。アルヴァも私を掴んでて。転移するから」
そう言えば、アルヴァは不満そうに私の肩に手を置く。
何が不満なのよこの野郎……私の美少女っぷりに疑義でもあるってのかしら。
ともかく、今度こそ私は2人と一緒にショップへと転移する。
「……おう、いらっしゃい。今日は買うのかい? 売るのかい?」
そうして私達を迎えるのは、さっきと全く同じ店主の言葉。
そして、さっきと違うのは。
「うわあ! 凄い、凄いですわ! 此処にあるもの、全部商品ですの⁉」
確かほとんどは飾りだったと思うけど。買えるものって限定されてたし。
「ああ、金さえ出すなら売ろう」
「喋ったあ⁉」
「え、突然何言ってるんですの?」
いや、だって違うこと喋ったし。え、でもそうか。現実になってるんだからそうなるわよね?
同じセリフ吐くからシステム的なアレかとばっかり……。
「さて、何を買う? それとも売るかね?」
うーん。まあ、細かい事はいいか。ちゃんと受け答えしてくれるなら、話が早いし。
「衣装って売ってる?」
そう、衣装……着せ替え衣装。別名「世界観ぶっ壊し開発費回収用コスプレ衣装」だ。
水着とか真っ白なワンピースとか着物とか、そういう類の衣装を買って外見を変える事が出来たのだ、あのゲームは。
世界崩壊を間近にした終末世界を水着で駆けたりするのが物凄く嫌で私は一切買わなかったんだけど……今となってはもうあんまり関係ない。
というか、こうして現実になった以上は何か特殊な効果でもついてないかなー、と期待したりもしてる。
「ああ、ある。リストは、そこのお連れさんにも見える形のほうがいいかね?」
「出来るの?」
「これだ」
言いながら店主が放り投げてきたのは、紙束だ。捲ってみると、色々と書かれているのが分かる。
えーと、何々……?
・お正月用うさぎさん着物セット
・新生活記念入学セット
・お花見ワンピースセット
・夏だ、海だ! 水着セット
・定番スクール水着セット
・ちょっと大人な水着セット
・夏の純情ワンピースセット
・秋の訪れコーデセット
・お月見着物セット
・冬のスキーセット
・もこもこセーターセット
うーん、まだ途中だけど頭痛い。なんで水着だけで三種類あるのよ。馬鹿なの開発陣?
ていうか入学セットって何……? えーと……セット内容は……。
「……真っ赤なランドセル」
馬鹿でしょ、馬鹿なのね。何が悲しくて終末世界をランドセル背負って制服着て駆けなきゃいけないのよ。ていうかこれ、まさかマトモに着れる衣装って少ないんじゃ……。
「純情ワンピースって何ですの?」
「分かんない」
えーと……白のワンピースに麦わら帽子に……うん、馬鹿だ。
そんなもん着て剣振り回す純情少女が何処に居るのよ。
ていうか着物もわけわかんない。戦闘ステージでの動作処理とかどうなってんの?
「……気になるなら試着も出来るが」
店主の言葉と同時に私の目の前にメニュー画面が立ち上がってくる。
ええー……やだなあ。でもちょっと着物は気になる……。
えーと、秋の着物は……っと。
「なんで空中で指を? そこに何かありますの?」
「あ、ちょ! 触んないで……あっ」
リーゼロッテが私に迂闊に触れたせいで、意図しないところを触ってしまう。
げっ、これは……!
ポンッと音を立てて変わる衣装。
真っ白なワンピースと麦わら帽子……そしてどうやら剣扱いらしいヒマワリを持った私が爆誕して。
「まあ、可愛いですわ! アリスさん、これ買いましょう!」
「……やだ」
「他のお洋服も試しましょうよ! ねえ、店主さん! 私用のはないのかしら!」
「あるにはある」
あるんかい。あー、もう。どうにでもなあれ。




