新しい職業
【条件を満たした事により、ブラックアリスの力が吸収されました!】
【スキルが継承されます】
【ブラックアリスの吸収により、特殊スキルが生成されます】
む、むむ……力を吸収?
ええー……? これってどう見ても「これから倒す奴」に関する挙動じゃないわよね。
つまり……えーと?
いや、まだ判断するには早い。ステータスを見てみよう。
名前:アリス
職業:ブラックブレイド(レベル0【総合レベル80】)
ライフ:10
力:普通
素早さ:速い
防御:低め
装備:スペードソード(専用装備・収納中)
ダイヤアーマー(専用装備・収納中)
アリスの服(専用装備)
サブ装備:鉄の剣(収納中)
鉄の鎧(収納中)
スキル:ライフオブハート
ガードオブダイヤ
クローバーボム
ジョーカースラッシュ
ブラックジョーカースラッシュ
2段ジャンプ
リターンホーム
トランプパワー(レベル1)
黒の波動
変異:ブラックアリス
……うん。なんかもう「倒した」感漂ってるけどまだ早い。
まだ慌てるような事態じゃない。
スキルの説明を見てみなきゃね。
ブラックジョーカースラッシュ。アクティブスキル。20の従なる斬撃と、1の主たる斬撃。異なる理をジョーカーの力が制御した。
黒の波動。アクティブスキル。黒の波動を放ち、相手を威圧する。
変異:ブラックアリス。アクティブスキル。ブラックアリスに変異する。対象を吸収済の為、変身を超えた「変異」が可能となった。
……わーお。なんかもうしっかり明記されてるし。
うん。覚えがないんですけど? でもなあ、これ……ううーん。
「あのさー」
「ああ」
「なんですの?」
「……倒してたみたい、ブラックアリス」
「何?」
「ほへ?」
「私も知らないうちにブラックアリスは私に吸収されてたみたい。なんだこれ。何があったのよ」
ほんと何これ。知らない間に私にはイベント自動スキップ機能でもついてたのか。
非常に困る。何なの? そもそも変身と変異の違いって何?
ていうか吸収って何よ。私は相手を倒して吸収する系の何かだったの?
いや、違うか。私の中から出てきたものが戻ってたって感じ?
いやいや、私知らないんですけど?
「……よく分からんが、解決したようだな」
「何も解決してないでしょ。ほんと何これ?」
「貴女に分からないことが分かるわけないじゃありませんの」
「うんうん、そうね!」
「ひゃにひゅるむふぇふほー」
リーゼロッテのほっぺを伸ばしてあげると、ちょっと落ち着いた。
まあ、ブラックアリスとかいうのが「もう居ないっぽい」ってのは分かった。
なんか新しいスキルが追加されたのも分かった。
たぶん見た感じ【ブラックジョーカースラッシュ】と【変異:ブラックアリス】なんでしょうねえ。
うーん……なんかぶっつけ本番で試すのは怖いな。
「よし、決めた。狩りにいくわ」
「別にご飯なら畑から獲れるじゃありませんの」
「うん、ごめん言葉の選択間違った。モンスター倒しにいくわ」
行くべき場所はカミッツの森。そう決めると私は立ち上がって……同じように立ち上がりかけたリーゼロッテを指さす。
「リーゼロッテは留守番。あとアルヴァもね」
「ええ⁉ どうしてですの!」
「どうしても何も。なんで私の家にいるか忘れたの?」
「親友だからですわ!」
「ハーヴェイから頼まれて預かってるからなのよねえ……」
なんか外に解き放つのが不安になるのよね……悪い男とかにすっごい騙されそう。
今までよく普通に生きてこられたわね。言わないけど。
「なんか優しい目で見られてる気がしますわ」
「アルヴァ、ちゃんと見といてね。すっごい不安になってきたから」
「まあ、善処はしよう」
まさか魔女って全部似たようなのじゃ……いや、でも鉤鼻はああだったし。リーゼロッテが特殊なのかな?
そんな事を考えながら、私はカミッツの森へと転移して。その瞬間、殺気に似たものを感じて思いきり前方へと走り抜ける。
その次の瞬間、私の今まで居た場所に巨大なアメイヴァが覆いかぶさっていた。
「……デカッ」
通常のアメイヴァより大分でかい。おおよそ3倍くらい?
でもまあ、色々試すには最適そうかしらね。まずは……っと。
「黒の波動!」
叫ぶと同時に、私の中からあふれた黒いオーラのようなものが周囲へと広がっていく。
空気がビリビリと震え、あてられた生き物が逃げ出していく音が響く。
アメイヴァの動きも一瞬止まったように見えて……しかし、すぐに元気に襲い掛かってくる。
「うーん、なるほど?」
アメイヴァの攻撃を避けながら、私は頷く。ザコ専門っぽい技だけど、此処でこのくらいの効果なんじゃ、あんまし使いどころはなさそうねー。
「そんじゃ、次はっと……!」
ゲージはまだ溜まってない。だから、次に使うべきはコレだ。
「変異:ブラックアリス!」
叫び、巨大アメイヴァの伸ばした身体を避けて跳ぶ。
高く、更に2段ジャンプで高く。木よりも高く跳んだ私の身体を輝きが包み、「私」を違うものへと変えていく。
金の髪を、銀の髪に。
青い目を、赤い目に。
私の服を黒に染めて。
2Pカラーとでも呼べそうな「私」になって、私は眼下の巨大アメイヴァを切り裂く。
「……ふーん、なるほど?」
さっきの「なるほど」よりも幾分か肯定的な「なるほど」を発しながら、私は手の中のスペードソードを握り直す。
「ちょっと面倒そうなスキルね、これ……試しにきたのは良い判断だったわ」
使ったこともない「魔法」の使い方が私の中にある。他にも、何か色々試せそうな何かが私の中にあるのが分かる……でも、これは。いいえ、今は別にいいわ。
それに、此処なら暴れても何処からも文句は出ないし、色々試せそうだわ。
さて、と……まずは目の前の巨大アメイヴァに練習台になってもらいましょうか!




