魔王去りし後(嘘はついてない)
拠点に戻ると、すぐにアルヴァの顔があってビクッとする。
「な、何よ」
「見せてみろ」
「は?」
「登録書類だ。貸せ」
「……いいけど」
言われて差し出した書類に触れると、アルヴァはフンと鼻を鳴らす。
「呪がかかっているな。魔力追跡……貴様の裏に誰か居ないか確かめようというわけか」
「ゲッ、そんなのが!?」
ていうか、そんなの触ったらアルヴァがマズいんじゃないの!?
「大丈夫なの、そんなん触って」
「フン、問題ない。如何に魔王がかけたものであろうと、魔法だ。感知されずに触れるなど、造作もない」
「なんか引く……」
「何故だ」
「そういうの実現させちゃう辺りが限りなく犯罪者っぽい……」
「貴様という奴は……」
これ見よがしに溜息をついた後、アルヴァは書類を広げて見始める。
「……やはりな。貴様の後見人が今代魔王になっている」
「はあ!? なんで!」
「なんでも何もあるか。先程の会話で想像がつくだろう」
「つかないわよ!」
「馬鹿め」
「知ってるわよ!」
「救いようのない馬鹿め」
「いいから教えなさいってば!」
少ない脳みそで頑張ってんのよ、こっちは!
「つまり、魔王は貴様を監視し、取り込むつもりなのだ。具体的に何処まで懐に入れる気なのかは知らんがな」
「……えーと。もしかしなくても、私の力についてある程度推測つけてるってことよね」
「力の大小のレベルではあるだろうがな。貴様が俺を倒したあの一撃の事などを知られれば、どうなるかも分からんぞ」
「どうなるって……殺しに来るとか?」
「嫁にされるかもな」
「うげっ」
それはやだ。なんかハーヴェイって、アルヴァとは別の意味で苦手なのよね……。
「やだなあ……もう此処から出るのやめようかしら」
「……それでもいいが、また外で煩いと思うぞ」
「ええー……」
なぁんで、あんな変なのばっかり来るのかしら。
やだなあ……ほんとやだ。
グレイ達が懐かしいわ。
「……言っておくが、貴様も相当だからな?」
「何の話よ」
「変な奴に関わりたくないという顔をしてたからな」
「……相当って何よ」
「正体不明、力は極大、性格は粗暴で大雑把。貴様が変な奴の元締めということだ」
「言うじゃないの……!」
「そぉら、粗暴だ」
胸元を掴もうとした私の手をヒラリと避けて、アルヴァがニヤニヤと笑う。
こんにゃろう……!
「ていうか、本気で困ったことになってるじゃないの。この家の中に入れたら最後って気がするわよ」
「……それはどうかな」
「含む言い方するわね」
「奴の思考は、あくまで王としてのものだ」
……まあ、そうでしょうね。言ってることはそういう感じだったし。
でも、それが何の関係があるのかしら。
これ見たら取り込みたいと思うのが権力者じゃないの?
「此処に使われている技術は、貴様の頭では解析できまい」
「ぶん殴るわよ」
「真面目な話だ」
「真面目にぶん殴りたいわ」
「貴様には此処の技術を広められないという話だ」
……なるほど?
「それはまあ……確かに?」
「そして俺は、知識を人に広げん事に関しては定評がある」
「最悪じゃないの」
何自慢してんのよ、こいつ。
「つまり、誰も入れんこの場所は、絶対に拡散されない技術の宝箱というわけだ」
「……うん?」
「分かっていないな。つまり、この場所に魔王を入れたところで『問題ない』という判定が出る可能性は高いということだ」
「安心って事?」
「とりあえずはな」
「ふーん、なら良かった」
ダメなら人間の国まで逃げなきゃだったかもだけど。
そうならなくて良かったわ。
「……俺の言ってる事が嘘だとは思わんのか」
「え、嘘ついたの? 殴っていい?」
「いや、ついていない」
「ならいいじゃない」
私がそう言うと、アルヴァは苦虫を噛み潰したような、なんとも微妙な表情になって顔をそむけてしまう。
「何よ。何なの?」
「煩い、馬鹿め」
「うっさいわね、私は馬鹿だけど愚かじゃないわよ」
「いいや、かなり愚かだぞ」
「そりゃまあ……天才なら、もうちょい上手く立ち回ってるとは思うけど」
そもそも馬鹿じゃ無けりゃ、あんなクソゲーをクリアしようとはしないわよね。
「……まあ、嫌いではないタイプの馬鹿ではある」
「え、何それツンデレ?」
「ツンデレとはなんだ」
「なんかこう、普段ツンツンしてるのに突然デレッと甘いところ見せてくる的な」
「そういうところが愚かだというのだがな」
……なんでよ。




