頭の良い奴が考えればいいよね
悩み始めてから、3分後。私はソファーに寝転がっていた。
「……何してるんですの?」
「考えるの諦めた」
「あー……そうなんですのね」
「こいつにしては頑張った方だろう」
「アリス様……」
なんか生暖かい視線が注がれてる気がするけど、私は気にしないぞ。だって分かんないし。そもそも私が考えてもたかが知れてるし。
「まあ、なんていうか……そういうのは頭良いやつが考えることよね」
ガラにもなく真面目に考えちゃったけど……私に出来ることなんて、たかが知れてるのよね。
そもそも政治家でも正義の味方でもないっての。そういうのをやる勇者は何処行ったのよ、勇者は。
「しかしまあ、珍しくそいつの言う通りではある」
あら珍しい。アルヴァがフォローを……フォローか? どうかしら、フォローじゃないかもしれない。珍しくって言ったし……でもフォローか。ならいいや。
「この問題は『分かりやすい首魁』が見えていない。言い換えれば、簡単には解決しない問題だ」
「まあ、そうですわね。目的も予想は出来ても予想どまり。地道な調査が必要になる案件ですわ」
「つまり時間がかかるってことよね」
「そうなりますわね」
なら私がどうこうやっても仕方がない。そりゃあ、どうにかできるならしてあげたいけど……ね?
まあ結局、私は私にできることをするしかない。
「まあ、目の前のことから片付けていこうかしらね」
そう言って立ち上がると、3人の視線が私に向く。アルヴァの視線が「何をやろうというのか」みたいな疑念の視線に満ちてるのは……ええい、変なことはしないわよ。
「何をするんですの?」
「当然! ご飯を作るのよ!」
……というわけで、私たちは全員で農園に来ていた。オート機能で良い感じに育ててくれる農園も、収穫は自分でやらないといけない。でもいつ来ても新鮮な食材があるって素敵なことよね。
「毎日のことではあるが……この農園は全ての法則に反している」
「同感ですわ……」
「あ、あはは……お二人とも、いいじゃないですか……その、アリス様。何を収穫するのですか?」
「え? そうねえ……お肉とトウモロコシと……ご飯と野菜かしら。あ、牛乳もいるわね」
ミーファの口がキュッと引き結ばれた気がするけど、どうしたのかしらね。
とにかく適当なつるを引っ張ると、牛肉の塊がポーンと飛び出してくる。他のつるを引っ張れば、今度は豚肉がポーン、だ。
「此処にいると常識が消えますわね……えーと、お米は……」
リーゼロッテがつるを引っ張れば、俵に入ったお米がポーンと飛び出して、リーゼロッテの前にドン、と落下する。
「……」
「お、当たりね。でもやっぱシュールよね」
リーゼロッテは無言のまま、手元のつると足元の俵を見比べる。不思議なことにつるの先は何処にも繋がってなくて、俵だけがそこにある。ほーんと不思議。
「アリス。私この畑嫌いですわ……意味わかんないんですのよ……」
「いい加減慣れなさいよ。お魚出てきたよりはまだ理解できるでしょうが」
「全然理解できませんわ……」
まあ、私も理解できないけどさ。とにかく収穫すると、鍋に材料を突っ込んでいく。
「まずは豚肉と牛肉を鍋にポーイとすると……お、ひき肉完成!」
「何故だ」
「そういうものよ。慣れなさいよ」
アルヴァも慣れないわねー。ミーファの頭の上にハテナがたくさん浮かんでるのが見えるようだけど……慣れたらどうってことないのに。
とにかくパックに入ったひき肉をもう1度鍋にポイすると、美味しそうなソースのかかったハンバーグが完成! これを人数分作って……と。
「はい、どんどん運んでー」
「アリス様、これって食器はどういう理屈で……」
「考えるのやめたほうが幸せよ」
何処からお皿やフォークやナイフが生えてきたかなんて、私も知らないし。続けてご飯を俵ごと鍋に……何故か入るのよね。入れたら美味しそうなライスの完成! 質量保存の法則だかなんだかが裸足で逃げだすクッキングはコーンスープも作って完成だ。
「さ、食べましょうか! いただきます!」
そうして手を合わせて、ハンバーグを切って口に運ぼうとして。
「アリス様! 伝令です! 魔王陛下より至急のお知らせがございます!」
なんか外から聞こえてくる、そんな声。むう、今食べようと思ってたんだけど。まあ、用事を聞いてからでもいいか。
「先に食べてて」
そう言って入り口まで転移すると、やっぱり魔人の兵士の人が待っていた。
「お待たせ。至急のお知らせって……何かあったの?」
「はい、それが……カルレイ王国第二王子をもてなす宴の開催が決まったそうでして。近日中に開くので、ドレスをお持ちか確認して来いと……」
「……それ、至急? ていうか私要る?」
「はい。両国を繋ぐ役割として必須であると。もしお持ちでない場合は最高の仕立て屋に依頼し特急で仕上げるので教えてほしいと」
ドレス、ねえ……。ある気もするし、ない気もする……どうだったかしら。