第二王子イアン2
「よし、それで決まりだ! 全員、準備を開始しろ!」
「お、お待ちをイアン殿下! 急にそんな……いえ、そもそも今回の話も急のことで!」
「だったら何だというのだ」
あからさまに舌打ちするイアンに、護衛の騎士があからさまに脅えつつも「伝令を」と答える。
うーん、こういうのを忠誠っていうのかしらね?
「王宮に伝令をお送りください。流石に魔族の国に向かうとなれば、不必要な騒ぎが起こる可能性もございます」
「ならそうしろ。全く、両国で戦争が起こっているわけでもあるまいに脅え過ぎだ」
ほう、結構考えはマトモじゃない? ミーファのこと含めどうにもアレな部分はあるけど、言動自体はマトモ寄りな気がするのよね。
「では全員動け! これ以上グダグダ抜かせば許さんぞ!」
「はっ!」
何人かの騎士が何処かに走っていくけど、まあ出発の準備ってやつなんでしょうね。それはいいんだけれども。
「ちょっといい?」
「なんだ、アリス。俺の好みなら……貴様だ」
「うざっ」
「ハハハハハハハ!」
ウインクしてくるんじゃねーわよ。わざとなのか本気なのか区別つかないわね。
「そういうのじゃなくて。アンタが魔国に来たら何が変わるのよ」
「なんだ、そんなことか。単純だ。俺にまで攻撃を仕掛けてくるかどうかで攻撃範囲が分かる。そうすれば敵の正体をかなり絞ることが出来る」
「んん……?」
どういうことかしら。えーと、整理してみましょ。
まず、ミーファがしつこく狙われている。
そこにイアンが加わる。イアンが襲われたら……王族狙い。
イアンが襲われなかったら……ミーファだけを狙っている。
そうなると、どう敵の範囲が絞られるのかしら。まず、ミーファが狙われていた場合は王位継承権絡み。つまり、この目の前にいるイアンも犯人候補になる。というかなってた。
イアンが襲われたら……いや、でも変わんないわよね。イアンが犯人かそうじゃないかっていう差にしかならないような。
「考えているようだが……本当に単純な話だぞ、これは。何しろ俺は王位など継がんと宣言しているからな」
「そうなの、ミーファ?」
「え!? いえ、そんな話なんて……!」
「ミーファは知らんだろうな。何しろ城内に味方がほとんどいない。噂話も耳に入るまい」
「うう……」
「俺は公爵として王都での悠々自適な生活が決まっている。領地などはないが、貴族としての手当てが山のように入る予定だ」
あー、不労所得ってやつね。ちょっと羨ましいわ。こういうのってやっぱ生まれとコネなのかしらね。別にいいけど。
「とにかくだ。これは有名な話だ……まともに人脈があるなら、俺が王位継承騒ぎに関わるなど夢にも思わん。それでも俺を狙うというのであれば、それはもはや王族そのものに何らかの害意がある」
「……納得出来るわね」
「当然だ。そして魔国に行く理由だが、襲撃者を絞るためだ。あちらでは普人が大っぴらにウロウロしていれば非常に目立つ。対処もしやすいだろう」
うん、これも納得できる。認めるしかないわね……ミーファが言うよりずっと有能。
「先触れも出したが、向こうでは貴様にある程度頼る必要がある」
「何? 家の問題なら一応魔王には聞いてみるけど」
「それもあるが……その人脈を俺のために活用しろ」
「やだ」
「聞け。俺は互いの友好と相互理解という建前で魔国にしばらく居座るつもりだ。その橋渡しを頼むと言っているのだ」
「別にそんなの、第二王子なんだから普通に出来るんじゃないの?」
わざわざ私を間に挟む意味が分かんないし、有能なのは理解したけど別に信用したわけじゃないし。
ぶっちゃけ私頭は良くないから、警戒はしておきたいのよね……。今まで会った頭と顔の良い奴は全員腹黒かったし……。
「出来るかもしれないな。だが貴様を間に挟めばもう少しスムーズにいくだろう。貴様等一団はそこのアルヴァとかいう男が代表に見えるが、実際には貴様が主だろう。そういう意図を感じる」
『相当観察力があるな。ミーファのイメージと大分乖離しているが……まあ、説明できんこともない』
もったいぶってないで説明しなさいよ。そんな意思を込めてアルヴァを睨めば、アルヴァは軽く肩をすくめる。
『カッコつけているのだろうよ。自分が度量の大きい男だと示したがっている……ククッ、良かったな。どうやら本気で惚れられているぞ」
ええ、困る……。ていうか、それって関係が落ち着いたときにキレやすい男に戻るやつじゃん……そんな時限爆弾男はご免被るわね……。まあ、今この瞬間では話が早いのは助かるけども。
「まあ、話は理解したわ。一応一言くらいは添えるけど……そこから先は責任取れないわよ」
「ああ、それでいい」
まあ、そんなわけで私たちは第二王子ご一行様を連れて魔国へと戻ることになったわけだけど……ほんと、毎回毎回問題が山積みになっていくの、どうにかならないのかしらね?
私、そういうのを能動的に解決していく気とか、一切ないんだけど……正直、運命の神様とかいるなら激しく人選ミスだと思うわ。