第二王子イアン
「ふうん、なるほどな。肖像画とは最低でも3割増しなものだが……ここまで肖像画通りというのも珍しい」
「なんだこいつ」
「アリス様っ⁉」
やべっ、あまりにもアレ過ぎて口から真実が出るのを我慢できなかったわ。
どのくらい殴ったら記憶飛ぶかな……とか考えてたら、第二王子のイアン……らしい男がポカンとした顔を見せて、その後凄い勢いで笑い出す。ほんと、なんだこいつ。
「ハ、ハハハ……ハハハハハ! 面白い! なんて面白いのだ! 不敬も現実離れした美貌から放たれれば腹が立たん! いいぞ、今の不敬は許そう! お前はそれが許される美しさを持っている!」
「うーん、ちょっと良い奴に見えてきたわね」
「アリス様……ああ、もう」
ミーファが何か言ってるけど、まあさておいて。このイアンという男。随分と美形だ。
目元にかかる程度の長さの黒い髪はサラリとしていて、ギラギラと欲望が光るかのような赤い瞳は物凄く鋭い。顎も細くて、身体はマッチョとは言えない程度の筋肉質。
ワインみたいな赤い色をしたワイシャツのような上着に黒を基調とした金の上着を引っかけていて、同じ黒のズボンは折り目がしっかりとついている。胸元がそれなりに大きめに開いているのはなんだろう、趣味なのかな?
辺境伯のものであろう謁見室の椅子の横には金細工のついた剣もかかっていて……すっごく、自分を魅せる手段を知っているっていうか……カッコつけてるわよね、アレ。なんなの、その何かしらのゲームのCGみたいなポーズは。
「先触れで知っているだろうが伝えておこう。この国の第二王子……イアン・ベルム・カルレイだ。貴様の名前を名乗ることを許す」
「アリスよ」
「そうか、アリス。実はな、妹の保護は建前に過ぎん」
「じゃあ何しに来たのよ」
私がそう聞けば、イアンはすっと目を細める。それは威圧とかそういうのではなくて。なんていうのかな、うーん。
「貴様に会いに来た」
「は? なんでよ。あ、分かった。私が美少女だからね!」
「その通りだ」
うわあ。美少女って言っても美的感覚が種族的な問題で致命的に違うのとか、反応がイマイチなのばっかりだったから、こういう反応って凄い新鮮。じゃなくて。
こいつ、「その通りだ」って言ったわよね。私の容姿を知ってた? あ、まさか。
「……私の容姿を伝えた奴がいるのね。たぶん勇者」
可能性としてはたぶんそれが一番大きい。私の顔をガッツリ見てたし。記憶が新しいうちにそれを伝えて、なんか絵とかそういうのにしてた可能性は……ある。だって美少女だし。
くっ、これが美しいという罪……!?
「頭の回転が速いな」
「で、たぶん絵にもなってるんでしょ」
「まさに。貴様はたぶん王城では一番顔が知れているだろうよ」
うわーお。行ってみたいような行きたくないような。ていうか、そうなると私の美少女っぷりを記号的にしか認識してない魔国の男どもがおかしいのでは?
『身の丈に合わない評価をされているな。早めに脳にまでボムの詰まった爆弾女だと誤解を解いておけよ』
アルヴァめ、念話で話しかけてくるんじゃねーわよ。誰が爆弾女よ。ていうかアンタがボムで吹っ飛んだのは100%アンタのせいでしょうが。
「勇者が貴様を見つけたくてあちこち巡っているようだが、ククク。どうやら縁がとことんないようだ」
「ええ……要らない……忘れてくれていいんだけど……」
「そう言うな。絵本か吟遊詩人の歌でしか聞かないような光景を見たようでな。正直、そこに関しては俺も興味もある」
うーん……話している限りは物凄くマトモなんだけど。プライドの高さはどこいったの?
ミーファから聞いた感じはザ・暴君だったのになあ。
……ああ、いや。違和感はある。というか、さっきからずっと引っかかってはいる。
「それで、ミーファのことなんだけど。陰謀もそうだけど暗殺者の類も来てるから解決したいのよね」
「……ああ、まあ王城においては然程珍しいことでもない。特にミーファの場合は継承順の問題もあるが、念のため殺しておきたいと思う輩は多いだろうよ」
うーん、顔が物凄く興味無さそう。明日ミーファが死んでも「そうか」で済ませそうな顔してる。
これは……任せられないわね。ちょっとコレに渡すのは問題が多すぎる。
「そう。でもね、それじゃあダメなのよ。暗殺者はちょっとヤバい薬にも手に染めてる奴が元締め。よくある、で済まされたら大問題だわ」
「ふむ……暗殺者は大抵薬を使うが?」
「呪薬。知ってる?」
「歴史の闇に消えたものだな。具体的なところまでは知らんが。ああ、なるほど。確かアレは超人計画とかいう……そういうことか」
クックックと楽しそうに笑うイアンは、椅子に深々と座り直して凶悪な感じの笑みを浮かべる。
「となると、なるほど。これは少々面白い話になってきたぞ?」
「は? 何がよ」
「この話は簡単に解決するものではない、ということだ。だから1つ解決手段がある」
そう言うと、イアンはパチンと指を鳴らして。周囲に居た護衛の騎士たちがビクリと震える。
「俺が魔国に出向こう。名目は……そうだな。両国の和平の……いや、これでは納得すまい。そうだな、気に入った女を落とすため。これにしよう」
「和平で納得させなさいよ。人望どうなってんのよ」
ナンパで納得されるとか王子としてマジでどうなの? もう帰れ、自分の国に。